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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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勇者気取りでもなければ必要ない力

「いや、すでに見た目がこうだし、この世界では俺に寄ってくる人もいないから平気だよ。力がなきゃ俺自身も立ち向かえない問題があるし、その辺りは気にしないでくれ。でも、ありがとう。だけど、ごめん」

「……ありがとう?」

「一応気遣ってくれたんだろ? 俺のこと。だから、ありがとう。忠告してくれたんだよな」


 俺がそう言えば、ヴァーミリオンは目を丸くした。

 そんなつもりはなかった、って感じかな。それとも言われたことで自分の発した言葉の意味に気づいたのか。うーん、無意識な優しさ、ってやつ?

 ぱっと視線を逸らし、ヴァーミリオンはバツが悪そうに俯いた。もしかしてそのリアクションは照れてるんじゃないかとツッコミたくなったけど、さすがに今は茶々を入れるのはやめておいたほうがいいのかもしれない。

 やっぱり無自覚だったのかもしれないと、俺は彼を眺めながら思った。


「なぜ普通の人間が加護を受けなければいけないような事態に陥るんだ。どこかの勇者気取りでもなければそのような力、必要ないだろう。それとも余程この世に絶望しているのか」

「普通じゃないから、そこは色々と複雑なの。ペラペラと自分の事情を話すつもりはないけれどさ。むしろそのまま聞き流してくれるとありがたいんだけど」

「……は? 話すつもりがない、だと?」


 ヴァーミリオンが更なる苛立ちを瞳に込めながら、ゆっくりと顔を上げていく。殺意でも持っているんじゃないだろうかというぐらい、眼力が凄まじい。

 俺はぎくりと肩を跳ね上がらせた。地雷を踏んでしまったんじゃないかと、妙に心拍数が上がっていくのがわかる。一気に口の中が渇いていくような気がして、つい一歩引いてしまった。

 お、怒ってるんですか? 怒ってるんですよね?


「い、いや、まだなにか聞くつもりでいたのか?」

「貴様……、自分の立場がわかって言っているのか。どうやら主人を舐めているようだな」

「な、舐め!? 舐めるわけないでしょうが、申し訳ありませんがそんな性癖持ち合わせていません! そんなプレイを好むはずもありません! だって俺は健全な高校生なんですから!」

「貴様は今、俺の専属使用人ということを忘れているのか。主人に隠し事など通用するわけもないだろう。俺をなんだと思っている。逆らおうとするなど、以ての外だ」


 なんだと思っている、と言われても、ヴァーミリオン様はヴァーミリオン様にしか見えなかった。

 俺の視線が泳いだのをヴァーミリオンは見逃さなかったらしい。見逃してくれたらよかったものを、この少年に容赦などあるはずもなかった。

 剣の切っ先が俺に向かって突き出される。結局レプリカなのか本物なのかもわからないのに脅しに使われたらさすがにビビる。

 驚きの余り、俺は咄嗟に体を横に逸らして避けた。勢いのまま、床に転がり倒れる。

 なにをするんだと見上げれば、また目の前に切っ先を突きつけられた。その先を見つめたまま俺はあわあわと体を震わせる。


「ひ……っ、ちょ、な、ななななな……!! い、いきなりなに……!?」

「戦う、か。笑わせてくれる。ならばなぜ今、俺の剣を避けた」

「は、はぁ!? 避けるに決まってんだろ、また血を流すことになるんだぞ! 腹の傷が治ってきたばかりだってのに勘弁してくださいよ! あぁ、今の衝撃で開いてないかな。心配になってきた」


 必死に服の中に手を突っ込んで傷口を触り、開いていないかを確かめる。

 血はついていないようだから大丈夫だとは思うけど、それでも体を激しく動かすのはまだ危ないんじゃないかと冷や汗が流れていく。余計な心配をかけさせるような真似、しないでほしいんですが。

 だけどそんな俺を他所に、ヴァーミリオンが剣をおさめることはなかった。現在進行形でピリピリとした雰囲気を感じる。

 剣の切っ先は未だ俺に突きつけられたままだった。


「本気で戦うつもりでいるならば今は同じように剣を握り、応戦するのが当然なのではないか? なんだ、無様に床を転げ回り、恥ずかしい男だ」


 侮蔑するように見下ろされ、鼻で笑われてしまう。

 いや、そりゃそうかもしれないけど……。そうかもしれないんだけどさ。

 言われてみればさっきまで俺もレイピアを手に取っていたはずなんだけど、今はどうだろう。よく見たら避ける時に手から落ちてしまい、俺と同じように床に転がっているじゃないか。これが無様に映っているんだろうか、あいつには……。

 あちゃー、と間抜けに口を開けたまま、笑って誤魔化すようにヴァーミリオンを見上げた。


「こ、これはあの、その、なんと言いますか、えーと」

「以前馬車の中から魔物を弓矢で狙い定めていた時のほうが好戦的で、良かったかもしれないがな。今のお前はなんだ、あの時以上のへっぴり腰ではないか」

「あの時以上のへっぴり腰って……! お、俺にしてはあれでも頑張っていたつもりなんだけどな! ひっでぇ言い方!」

「鈍ってきているのではないか、すべてが。そんなことで戦えるわけがないだろう。お前のような男など、向こうからしてみたら瞬殺できる程度のレベルでしかない。所詮そんなものだ」


 瞬殺できる程度と称され、俺は額の辺りに青筋が立つのがわかった。本当に容赦がないと言いますか、その言葉のチョイスがいちいち腹立つと言いますか……。

 要するにそれは始めから相手にならないと言われているようなものだ。

 自分でも力の差がわかっている分、ヴァーミリオンにこうも直接ズケズケと言われるとなにか余計に面白くない。精神的に追い込んでいくのが好きなタイプなんですか、この子は。

 実はヴァーミリオンがどことなく探るような言葉を突きつけていることにも気づかずに、俺はただ鈍感にむっと頬を膨らませていた。よくよく考えたらわかるようなことなのに、バカだよなぁ。

 あの時馬車の中で戦っていたのは俺じゃなくウェインだったなんて、冷静にしていたらすぐ気づくはずなのに。頭に血が上っていてそれすら判断もつかないんだ。

 ヴァーミリオンは嘲笑うように鼻で笑った。


「それで、お前は一体なにをしようとしている」


 俺は吹き出した。ヴァーミリオンの顬の辺りがぴくりと動いたような気がしたので慌てて口元を押さえたけども。

 そこでまた振り出しに戻るのかと、段々とヴァーミリオンを相手にするのが嫌になってきていた。しつこいし、諦めが悪すぎる。何が何でも聞き出そうとしているつもりなのか。

 もう一度言い聞かせるように、わざとゆっくり説明してやった。


「……だから、月の加護を、受けようとしてるんだってば。俺にも色々と、複雑な事情があるって、今さっき言わなかったか?」

「その複雑な事情を聞いていない。簡潔に話せ。主人には包み隠すことなく、全てな」

「簡潔に説明できるレベルの話じゃないから。きちんと人の話聞いてたか? それはそれで気に入らないなら今すぐに出て行けとでも言えばいいだろ……本当に、めんどくさいヤツ」


 聞こえるか聞こえないぐらいの声で呟いた最後の言葉の破片だけがヴァーミリオンの耳にはしっかりと届いていたらしい。地獄耳だ。

 握っていたレイピアをもう一度引いて、俺に向かって勢い良く突き出そうとしている。さすがに身構えた俺は部屋の隅へと慌てて逃げた。

 だってあいつ、本気で刺そうとしてるし……! 快く受け止めてやれる程心は広くないぞ、俺。

 だけどヴァーミリオンは逃がさんとばかりに追いかけてくる。

 部屋の中でくだらない追いかけっこが始まってしまった。


「ちょ……っ、おい、なになになになに!? 今度はなんだ!?」

「いい加減、本当のことを話したらどうだ? いつまで隠そうとしているんだ、往生際の悪い!」

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