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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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月の加護

 思わず吐き出た弱気な発言に、ルナはかっと目を見開いた。

 なにを言っているんだと怒鳴りそうな顔をしていて、思わず「すみません」と即座に頭を下げて謝りそうになった。

 この小さな体で、その迫力。さすが精霊というべきか、なんというか。


『ヒロさん! まだ何もしていないのに、すでにその弱気な発言はなんですか! これからだというのに、貴方らしくありませんね! 初めから弱気では勝てる勝負も勝てませんよ!』


 いや、まさにその通りなんだけど、何の力もない自分が魔法に対抗できるかといったら恐らく無理だ。むしろ返り討ちにあう気もしなくはない。

 だからその辺りはルナの力を頼りにしていたんだけど、もしかすると彼女には彼女なりの考えでもあるんだろうか。なにか良策でも閃いたのかな。

 俺はぷりぷりと怒るルナに対し、気遣いながら声をかけた。


「だ、だけど、生身の人間がどうやってあんな魔法に勝つっていうんだ? 俺はてっきりルナがカバーしてくれるもんだと思っていたけど。他になにか方法があるのか? え、それともフォロー無しってこと?」

『もちろん私だって支援はしますよ。力を合わせての戦いですし、ただヒロさんにも魔力を差し上げたいとは考えています。月の力ではありますが、その加護を貴方に与えようと。すこし、時間はかかりますが』


 きょとん、と目を丸くする。

 加護を与えるというのは、ヴァーミリオン達と同じ力を俺も使えるようになるってことなんだろうか。

 とうとうゲームなんかで使える凄い魔法を、俺も好きに放つことができるのか……? 地上を揺るがす程の大きな力を、この俺が? いきなりそんな展開に?

 驚いた様子で彼女を見上げると、ルナは先程とは一転、ただにこにこと微笑んでいた。

 ここでようやくスペシャルな特殊能力を、俺も……!? ここにきてやっと俺のターン!?


『……なんとなくではありますが、ヒロさんの考えていることはわかります。ですがマナもない人間がいきなりそう大きな力を簡単に使えるはずがありません。空っぽになって気を失うだけですよ?』


 ルナの追撃に、俺は空気の抜けた風船のようにしょぼくれてしまった。

 ですよね、そうですよねー、やっぱりそうなりますよね。何事もそう都合良く進むわけがないはずだと、がっくり肩を落とす。

 どうしてこう思い通りにいかないんだろう、俺の何がいけないっていうんだ。


「マナがあるから力が使えるんだもんな……。ゲームにだってマジックポイントがあるんだし、俺はそっちのステータスが低いってことなんだよな、そうだよな。そこは物理攻撃に多く振られているって考えたいよなぁ」

『闇の力を防げるように、ある程度の加護を授けます。その力をどう使うかはヒロさん次第ですね。大きな魔力を放ちすぐに力尽きるか、それとも上手く弾く程度に使うか』

「加護、って。だけど、どうやってルナの加護を与えるっていうんだ? ヴァーミリオンも、生まれついての力だったって話を聞いてたし。そんないきなり出来るようなもんなの?」


 正直に言うと、加護を授かったからといってどう魔力を扱えばいいのかがわからない。月の加護というものがどんな力を持っているのかもわからない。

 ヴァーミリオンのように炎だというのなら、その炎を矢のように変えて攻撃したり、剣の形にして使ったりだとか具現化させたりできるのもわかる気がするけど。

 イメージしにくいって言ったらいいのかな? 大体ゲームでもメインになるのって四大精霊の力だったりするし。黒魔法でも、白魔法でもない月の力は一体どんなものなのか。

 するとルナは部屋の真ん中辺りに移動すると、ぱんと音を出して両手を合わせた。


「……何してるんだ? これからなにか、しようとしてる?」

『まぁ見ていてください。ここに私の結界なるものを展開させます』


 ルナの周囲に魔法円が描かれていく。それも一瞬の内に、ぐるりと大きな魔法円が。

 部屋全体に広がり、月に似た白く光り輝く色を放つと床に吸い込まれるようにして消えていった。

 ヴァーミリオンが街へ移動する時に使った魔法円とはまた違う図形や記号らしき文字が描かれていた。その辺りは使う術によってデザインが様々なのかな。

 俺には読むことすらできない文字だった。


「い、今のは?」

『ヒロさんはしばらく、この部屋で暮らすんですよね? ならば、なるべくこの部屋にいるようにしてください。そうすれば自然と貴方に私の加護が授かるはずです』


 俺は怪しさを隠せない様子でルナをじとりと見つめた。

 そんなことで本当に彼女の力が自分に分け与えられるのか、半信半疑だ。だってそう簡単にいくかって言われたら、ねぇ? 胡散臭いといったらそれまでだし。

 ルナはそんな俺の胸の内を見透かしたかのように不敵な笑みを浮かべる。それはあとで驚くなよと言わんばかりの顔にも見えてしまった。

 実感するような変化があればまた違うんだろうけど、今はまだどうしたって信じきれない。この部屋にいるだけでヴァーミリオンやアディ達と同じ力が授かるだなんて。

 自分が何かするべきことはないんだろうか。普通特殊な力を身につける時っていうのは、試練か特訓のようなイベントが必須のような気がするんだけど。

 俺はルナに訊ねてみた。どこかのダンジョンに潜って指定された物を持ってこないといけないだとか、精神世界に飛んで試練に挑まなければいけないだとか、そんな展開があるとしたなら俺としてはやる気満々なわけで。ウェルカムなパターンだ。


「俺はなにもしなくていいのか? そんな簡単に特殊な力を貰えちゃったりするの? どうしても信じられないんだけど、本当に、ホントーに騙したりなんてしていないよな?」

『なんて人聞きの悪い。騙すはずがないじゃないですか! 簡単すぎて裏があるように思われるかもしれないですけど、あとで絶対に効果を実感できるはずですよ!』


 どうしても満足がいかない場合は全額返金致します、だなんて言い出しそうな勢いだ。

 どこかテレビの通信販売のような売り文句に似ているような気もしなくはないけど、それでもまだ信用はできない。

 ルナはそんな俺の態度にさすがに面白くなくなってきたのか、頬をさらにむっと膨らませ始めた。


『精霊の私が言うのだから絶対です! 授かるものは授かるんです! どんな仕組みだとかは深く考えないように! いいですね!? 余計なことばかり考えて悩んでしまうと、足が止まるだけですよ!』


 はい、としか返事を許されないような凄さの気迫だ。さすがに俺はそれ以上話を聞くことはできなかった。


『私の魔力が込められた円の中にいるのですから、心配する必要もないのです。ヒロさんが今しなければいけないことと言えば、それはやはり剣術の腕を磨くことなのではないですか? 動けないのなら瞑想するのも鍛錬の一つですよ』


 思わぬ穴に、う、と言葉を詰まらせてしまう。


『彼女は魔術を、その子供は闇の力を加えて剣を振るうことでしょう。はたしてヒロさんは彼等と対峙した時に動揺せず、しっかり戦えるでしょうか。私はそこが不安で仕方ありません。フォローするにも限度がありますし、自信がなければそれは貴方の持つ剣にも表れます。行動力があることはわかりましたけど、ヒロさんが剣を握って戦う姿をまだ見たことがありませんからね……。この状況に対応していくのも大変ですけど、その先も考えないと』


 ぐさぐさと、図星という名の鋭い言葉の矢が俺の心に突き刺さっていく。

 そうだ、確かにルナの前で剣を振るったことなんて一度もない。逃げるばかりで、それどころか傷を負って寝込み、弱った姿しか見せていなかった。

 やばい、このままだと俺の立場がないかもしれない。

 弱い、イコール、俺という定義が出来てしまっては返す言葉もない。

 自分が強いだとは思ったこともないけど、弱いと思われたくないのもまた事実だ。少しだけ薄れ気味ではあったが、自分はヒーローに憧れていることを忘れてはいけない。

 いくら切羽詰まっていたからといっても、らしくないだろ俺……。

 戦うこともできず、影に隠れてコソコソしている口ばかりのヒーローだなんてさすがに嫌だ。

 ルナに頼ろうとばかり考えず、誰に言われることもなく自分から鍛錬に励まなきゃいけない展開だったんだ。あぁ、本当に大事なことを忘れかけていた。

 自分で自分をビンタしてやりたいところだよ、まったく。

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