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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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ヴァーミリオンと同じ? 執事さんの複雑な顔

 街の人達には異端な子供扱いをされ、陰で罵られていようと、魔物が現れたら放ってなどおけないとばかりにすぐ退治に向かう。性格がひねくれていようと、芯は真っ直ぐなんだ。

 そんなヴァーミリオンだからこそ、執事さんを始め、屋敷に仕える使用人さん達もあいつを見捨てたりはしないんだ。憎めないというか、なんというか。


「……愛されているんですね、俺が思っていた以上にあいつは。しかも、その愛情に全然気がついていないんだ」


 床を俯き、呟いた。

 もったいないと、そう思う。

 他人の感情には機敏なくせに、自分のことになると鈍いだなんて。やれやれと肩を竦めたくなる。

 皆に恐れられているだなんて。屋敷にいる人達をも含めて考えているなんて。聡いくせに、そんなところはやっぱりまだ幼いんだ。

 もしあいつがその愛情に気づいていたのなら、今とはまた違う道を歩んでいたんだろうか。もう少し性格も丸くなって、刺々しさもなくなって、素直になれていたのなら。

 そうだったなら、俺と出会う前にすでに他の騎士を見つけていたのかもしれない。特別な力を持っていて、他人に恐れられていようと、誰かを受け止めることができていたなら、きっとあいつには。

 可能性は幾つもあるけれど、考えたらキリがないのかもしれないけど、それでもそう思わずにはいられない。

 ヴァーミリオンが孤独であった分、俺が助けられていたのかもしれない。あいつと出会うことができて、逆に俺は運が良かったのかもしれないって。


「……やっぱり、どんなにここで絶望していようと、巻き込むわけにはいかないな」

「はい?」

「いや、巻き込むとかじゃないんだ。なんとかして、止めなきゃいけない。自分の大切な人達を守るために、ここで変わらず過ごしてもらうために。俺がやらなきゃいけないんだ」


 俺は執事さんに向かって覚悟が決まったように、今度は自分から微笑んでみせた。意味なんてわからないだろうけど、それでも皆、俺が守ってみせる、絶対に、と。

 不安や恐れも消えたように、必ずやり遂げてみせるというように、不敵に笑ってみせる。部屋に戻ったら、考えよう。ルナと一緒に、どうすることが先決なのかを。

 だけど執事さんといえば、複雑な顔をして俺のことを見つめていた。

 なにか言いたいことでもあるんだろうか。眉は下がり、どうしたものかと思案しているような様子だった。

 えーと、その反応はなんだろう。困らせるようなことでも言ってしまったかと、首を傾げる。……執事さんの気に障ることは、なにも言ってないよな?


「……あの、執事さん?」


 あまりにも心配そうにしているから、俺は問いかけてみた。

 すると執事さんは難しい声を上げ、唸った。


「ヒロさん。貴方がどうしてあんなところで倒れていたのか、今から何をしようとしているのか、私にはわかりません。ですが、私は貴方をこの屋敷の使用人として働いてもらうことを認めています。どうか、一人で抱え込まないでください。話せる相手がいるのなら、頼ってください。今の貴方を見ていると不安になります。なにか良くない方向へ進もうとしているのではないかと、腕を引っ張ってでも止めたくなります」

「え?」

「一人で抱え込んで、そのまま押し潰されてしまうのではないかと心配になります。まるで以前の、ヴァーミリオン様と同じように見えまして。余計なお世話かと思いますが、どうかご無理だけはなさらないでください」


 俺が、ヴァーミリオンと同じ? どこをどう見て、そう思ったんだろう。なんだかずしりと胸が重くなるような指摘だった。

 確かに孤独な点は同じかもしれないけど、他に似たようなところはないと自分では思っている。

 性格も正反対だし、俺はそこまでひねくれているわけじゃないし、きちんとルナを頼っていたりもするし?

 執事さんには彼女の姿が見えないから、そう思えているだけなのかもしれないけれど。


「俺は大丈夫ですよ。話せる相手もいるし、一緒に立ち向かってくれる相手もいますし。心配する必要もないですよ、……たぶん」


 それでも執事さんの不安気な表情が変わることはなかったけれど。

 俺は気づかない振りをして、微笑んだ。

 ヴァーミリオンの部屋からは物音一つ、聞こえることがなかった。






「とりあえず重要な場所は一通り教えたつもりですが、覚えていただけましたでしょうか? 是非ご自分で足を運んでいただき、確認してもらって構いませんので」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「体調も変わりはありませんか? 傷が痛むだとか、目眩がするだとか。その時は決して無理をせずに、とにかく休んでください。何度も同じことばかりを繰り返し聞いて耳も痛むかもしれませんが、よろしくお願いしますね」

「はい、わかりました。でも執事さんってば、心配しすぎですって。俺は平気ですよ。十分休ませてもらいましたし、もう怪我もだいぶ塞がってるし」


 ヴァーミリオンの部屋を案内した後は、また玄関ホールへと戻ってくる。

 時刻は十六時を迎えた頃だろうか、時計が何度か大きく鐘を鳴らし、室内へと音を響かせていた。窓からは橙色に染まる陽射しが入り込んでいて、とても温かい。

 俺は手に竹箒に似た箒を握って、執事さんの話を聞いていた。

 とにかく体調を気遣ってくれているらしく、何度も怪我の具合を聞いてくる。そこまで心配してくれているのに無茶ばかりを言って本当に申し訳なく思っています、ごめんなさい。

 さすがにあまり気遣わせるのも心苦しいので、迷惑ではあるかもしれないけれど、最後の一仕事として外回りを眺めるついでに掃除だけでもさせてくれと頼み込んだ。


「すこーし外を見るついでに掃いてくるだけなので大丈夫です。何かあったらすぐ誰かに言うつもりだし、おかしな行動をするわけでもないので、不安にならないでください。裏庭も一目見ておきたいんです」


 そんなに無茶しなくても、といった顔をする執事さんだったが、折れない俺に根負けしてか、仕方なくではあるけれど承諾してくれた。

 執事さんもそろそろ夕食にむけて、食堂での支度があるんだろう。しきりに時計の針を気にしている。俺に「絶対に無理だけはしないでください。約束ですよ?」と何度か念を押して、自分の仕事へと戻っていった。

 今ここでまた傷を悪化させるわけにはいかないし、もうそんな無茶をしている場合でないことはよくわかっているので大丈夫ですと頷いて、その背中を見送った。

 離れてそう日は経っていないが、どこか懐かしさに浸りながら屋敷内を一人で歩いていく。

 俺自身がここを歩くのは初めてでも、ウェインの中にいる頃はこうして何度も通ったものだ。

 すれ違う使用人やメイドさん達と挨拶を交わして、毎日当たり前のように暮らしていて。それでも心のどこかで、いつまで続くかわからない日々に一抹の不安を抱きながら過ごしていたんだ。

 きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていけば、今となってはどこもかしこも懐かしい。

 おかしいよなぁ、離れてたった数日なのに。すっかり感傷に浸ってばかりいる。

 あの時は、常にヴァーミリオンが隣に並んで立っていた。

 今こうして一人でいる時間が新鮮だと感じるぐらいには、二人で過ごした日々が長かった。……いや、長く感じるようで実際は短かったのかな? 時間の感じ方なんて人それぞれだから、どう説明したらいいのか難しい。


「とりあえず裏庭だけには、どうしてももう一回だけ行ってみたかったんだよな……。一人でゆっくり、色々考えられるような気がして……」

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