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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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相変わらず凛々しく綺麗な姿

 黒髪に黒の瞳なんて向こうでは当たり前だったから、そう言われるのはなにか不思議に感じる。俺からしてみたらこっちの世界の、青とか赤とか眩しい髪色のほうが珍しいんだけどな。蛍光色の髪色なんて、自分で染めたりでもしなきゃ滅多にお目にかかれないぜ。

 そうは言い返せないので、曖昧にして笑ってみせたが。

 でも今の執事さんの言葉は俺には有り難すぎて、じんわりと心に染み込んでいくようだった。その優しさがやけに嬉しくて、目に涙が浮かびそうになる。

 自分の家、か……。ウェインの中にいた頃は、本当にそう思っていたんだよな。ここが俺の居場所なんだって。

 それが今じゃ、遠い世界に切り離されてしまったように感じる。俺だけ外に追いやられてしまったように思えてしまう。


「……すみません」

「謝ることは何一つありませんよ。さぁ、それでは行きましょうか。全ての部屋を案内するには広すぎるので、覚えておいてほしい場所だけを通りますね。辛い時は必ず私に声をかけるように。いいですね?」


 実は屋敷の中を一通り知っているだなんて言ったら、執事さんはどう思うだろう。どうするだろう。

 そんなことを考えながら、俺はまたその背中を追いかけるのだった。







 広間、食堂、浴室、応接間の順で案内してもらい、最後に玄関ホールへと戻ってくると、そこには今では懐かしいあの人の姿を見つけることになった。


「アルフレッド殿」


 ホールに立っていたのはシアンさんだった。プラチナブロンドの髪が振り返りざまに揺れ、優しく微笑む姿は相変わらず凛々しくも綺麗だ。

 仕事の途中なのかな。鎧を着こなし、いつも通り腰には剣が下げられている。

 目が合い、俺は軽く会釈をした。


「おや、シアン様。もしかせずとも、もうお迎えにいらしたのですかな?」

「えぇ。一度実家に戻り、ご家族の顔を見たほうが彼も安心するのではないかと思いまして。さすがにいつまでも子犬のように震えていられては、見ているこちらも気の毒になります」

「……そうですね。そう、でしょうね」

「ヴァーミリオン様の様子はどうですか? あれから一度ぐらい、部屋から出てきてはくれましたか?」

「いいえ、残念ながらそちらもまだです。余程、気落ちしているに違いありません」


 そうですか……、とシアンさんは静かに肩を落とす。

 顔は俯き、いま自分の仕えている主の塞ぎ込んでしまった様子に、どうしたらいいかわからないといったように見える。

 逆に二人の会話を聞いてどぎまぎするのは俺のほうだ。内容を察するに、ウェインとヴァーミリオンのことで間違いはないだろう。

 ヴァーミリオンは部屋から出てこない、ウェインはあの元の家に戻る、と言っていた。

 だけど俺はなにか気になり、首を傾げてしまう。

 あれ、確かルナはヴァーミリオンが俺の受けた呪いを消してくれたと言っていたよな。こっちでは部屋から出てこないとか言われているけど……、それはどういうことなんだろう? 執事さん達が気づいていないだけで、実はヴァーミリオンは一人で動いている?

 うーん、と難しい顔をしていると、シアンさんの視線が急にこっちを向いて驚いた。


「……そちらの方は」

「今日からこの屋敷の使用人となりました、ヒロさんです。今、屋敷を案内している途中だったんですよ。ヒロさん、こちらはこの屋敷の主であるフォルトゥナ卿……いえ、ヴァーミリオン様の騎士であるシアン様と申します。顔を合わせる機会も多いと思いますので、よろしくお願いしますね」


 え、使用人? 俺、いつの間にか居候から使用人にまでランクアップされてる!? 怪我が治るまでの間の滞在じゃなくて、就職先まで斡旋してもらえたのか!?

 驚いたように執事さんを見れば、相変わらずにこにこと微笑んでいた。


「シアンだ。よろしく頼む、ヒロ殿」

「あ、いえ、こちらこそ! よろしくお願いします! ……シアン、さん」


 シアンさんが頭を下げたので、俺も反射的に深く頭を下げる。そうして思い出すのは、初めて顔を合わせたあの日のことだ。

 シアンさんと初めて会った時は、その鞘でいきなり頭を叩かれそうになったんだよなぁ。俺はそれを受け止めて、流したんだ。懐かしい。

 もう、そんなこともないんだよな。剣の訓練を受けることも、なくなってしまったんだ。もっと色々教えてもらいたかったな、とつい寂しさを感じてしまう。

 シアンさんを見すぎてしまったんだろうか。小首を傾げ、尋ねてきた。


「……私の顔に、なにかついているかい?」

「っ、いいえ。なんでも、ありません」


 いけない、いけない。穴があくほど見つめていたんじゃ、余計おかしく思われる。不自然すぎないように、俺はすぐに視線を逸らした。

 またこうして顔を合わせることができただけでも、良しとしなきゃ。寂しいのはわかるけど、せっかく会えたんだ。剣を教えてもらえる機会だって、この先あるかもしれない。接点があれば、自分から踏み出していくのも有りなんじゃないかと思った。

 するとちょうどその後ろから、やけにキーキーと高い声が近づいてくることに気づいた。

 なんだ? と様子を窺えば、シアンさんの後ろからこれまた懐かしい再会である二人の姿が見えた。


「ちょっと、せっかく家に帰れるっていうのにどうしてそういつまでもピーピーと小鳥のように泣いているのよ! どれだけ泣けば気が済むの!? もっとシャキッとしなさい!」

「で、でも……」

「でも、じゃないわよ! ここ最近のアンタはずっと泣いてばかり! 一体どうしたっていうのよ、以前とはまるで別人だわ! でもでもだって、はやめなさい!」

「う、うぅ……」


 ステファニーに手を引かれやって来たのは、ウェインだ。

 目尻には涙が浮かび、眉は心底困ったように下がるところまで下げられている。もしかしなくとも、イヤイヤしながらも引っ張られてきたんだろうか。

 二人を眺めながら考えてしまう。この光景、あれに似ているかもしれない、と。面倒見の良い女の子が、困っているけど自分からなかなか言い出すことのできない男の子の腕を引っ張って先生のところまで連れてきてくれる、保育園なんかでよくあるシーンみたいな、そんな感じに。

 ウェインはきっと何も言い返すことができずに、ステファニーにされるがまま、無理無理ここまで連れてこられたに違いない。

 素のウェインはあの表情の通り、気弱で内気な少年だったんだろうなぁ。今まであの体の中に俺が入っていただなんて考えると、不思議なものだと思う。そりゃ姉も疑うわけだよ、だって見たまんま、中身がまるっきり違うもん。

 でも意外と元気そうな姿に安心してしまった。本体に戻ってから、ウェインのことが気掛かりではあったんだ。一度命を落とした子の体が、俺が抜け出してしまったことでその後、どうなったのか。

 まさかそのまま二度と動くことなく亡骸だけが残されていたとしたら、本当にどうしようかと。俺が中に入り込んだことで心臓が上手く再稼働するような形にでもなったんだろうか?

 見た感じ、普通に体は動かせているようだし、顔色も良さそうだし、具合が悪いということはなさそうだ。

 ウェインの手には小さな鞄が一つ、握られていた。実家に戻ると言っていたし、その時に持ち帰る荷物なんだろうか。

 だけど俺は、ふと考える。

 あの家を出るときは確か手ぶらで来たはずなのに、一体今更なにを持って帰るというんだろう。お土産? ここで着ていた服や下着? それこそまさかのホテルアメニティ!?

 ステファニーはシアンさんの前に、怯えた様子のウェインの体を突き出すようにして背を押した。


「ステファニー様、今日もこの屋敷にいらしていたんですか?」

「そうよ。私も私なりにウェインのことが心配だったからね。でも、ここまで連れてくるのも一苦労だったわ。どうしてそう泣いてばかりいるのかしら! なにが恐いっていうの!?」

「……っ」


 たぶん、ステファニーのその鬼気迫る表情が怖いんだと思います。口に出して直接言うことはできないので、心の中でビシッと主張するように挙手して言う。

 ウェインはステファニーに睨まれ、また大きく体を揺らすと、怯えているのかびくびくと震え出してしまった。見ているこっちのほうが可哀想になるような怯え方だ。

 見兼ねたシアンさんが声をかける。


「……ステファニー様、あまりウェイン君を責めないでやってください」


 だけどステファニーは聞く耳持たずといった様子で、さらにきつい言葉を投げつけていく。


「べつに責めているわけじゃないわよ! ただ、なにか言いたいことがあるなら言えばいいのに、いつもオドオドしながら人の顔色ばかりを窺っていて! 聞いてみれば返事が返ってくることはないし、何が言いたいのかさっぱりわからないしで、イライラするのよ! 私は共感能力者じゃないっての!」

「落ち着いてください、ステファニー様」

「これが落ち着いてられるかってのよ! 私、まだまだこの子に聞きたいことがあったのよ!? 絵の描き方だってそう、マンガのことだって! それなのに、今のウェインは私と話したことさえ覚えていないみたいだし、私の夢のことだって忘れてるし……!」


 そう言うと、ステファニーは強く唇を噛み締め、悔しそうに俯いてしまった。

 俺はそんな彼女の姿を見ていて、どこか心苦しくなってしまう。

 そうだ、あの時ステファニーは俺の描いたマンガを読んで衝撃を受けたと、感動したとまで言ってくれたことを思い出す。

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