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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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網焼きされているイカのような気分で

 これはこの空間内で起きているんだろうか。

 だとしたら、炎は俺の傍で燃えているのか? だからこんなにも音が大きく聞こえて、肌に熱を感じているのだろうか。

 このままここで寝ていたらやばいんじゃないか。俺、燃えちゃうんじゃないか……?

 蔦に包まれたままじゃ逃げることもできず、ただ蒸し焼きにされてしまうだけだ。

 嫌だな……。どんな苦痛をもたらすかもわからず、怯えることしかできないだなんて。本当に嫌だ……。

 蔦の力が完全に弱まる頃には、俺もたくさんの煙を吸って昇天しているかもしれない。

 どうせだったら眠った状態のまま、苦しむことなく天国に行けたらな……いいんだけどな……。


「……っ、あつつつつ!」


 なんて悠長に眠れるはずもなく。

 まるで網焼きされているイカのような気分で、俺はまたも体を左右に揺すりまくる。

 どの方向に傾けたところで熱からは逃げられないんだけどさ! もう条件反射だよな! 熱くないところに逃げたいんだよ! そもそも熱くないところってどこだよ!

 蔦も苦しんでいるようで、俺の体を強く締めつけたり、緩んだりを繰り返している。

 上手いタイミングで逃げることもできそうな気がするんだけど、なかなかに難しい。暗闇の中での、この熱……一体なんだっていうんだ。蔦もろとも俺を焼いてしまおうというのか。

 このまま何もせず死を迎え入れるなんて上等な真似、俺にはできそうにない。できそうにはないんだけど、さてさてどうしたものか。


「っ!!」


 瞬間、蔦が俺の腹部を痛く締めつけてくる。

 奴も焼かれて限界を迎えてきているのだろう。俺を飲み込むとか、それ以前に力尽きてしまいそうなんじゃないのか。だったらいっその事離してくれたらいいんだけどな……!

 このまま体を締めつけられた挙げ句、真っ二つにされてしまうんじゃないかと覚悟する。


「……っ、ぐ」


 蔦が最後のひと暴れとばかりに俺の体を苦しめる。ここまでかと息を呑み、諦めかけた時。

 暗く包まれていた空間に、炎が舞った。


「!?」


 火柱が立ち、一気に視界が赤く染まる。

 赤く染まったと同時に、俺に絡みついていた蔦がいつの間にかそこから消えていた。

 炎は一度大きく燃え上がると、すぐにその場で散っていく。

 水をかけたわけでもないのに、炎は蔦を道連れにして去っていった。


「……え?」


 何が起きたのかわからず、蔦が消えたというのに捕まったままの格好で俺は呆然と固まっていた。熱くて堪らなかった網焼きのような熱も、気づいた時には消えていて。

 しばらく宙を見上げたまま、考え込んでしまう。

 今まで自分の身に、一体なにが起こっていたんだろうと。


「え!?」


 明るくなった空間が闇に包まれることはなく。

 夕焼けのような空が俺を見下ろしていた。

 不気味な音も消えていて、遠くで風の流れる音だけが聞こえている。

 きっとここにはもう、怖いものなんて来なくなったんだと思った。どうしてか胸がすっと軽くなる。

 不安でいっぱいだった心の底まで、あの炎が焼き尽くしてくれたようだった。







 「……?」


 目を覚ませば、先程の闇が視界を覆っていた。また逆戻りしてしまったのかと肩を落としそうになるも、それを怖いと感じることはなかった。

 闇の中にある少し開いた隙間から、ほんのりとした淡い光がこの空間を覗いているからだろうか。月の光が、俺の心を落ち着かせてくれた。

 そういえばこの世界にも月があったんだな、なんてぼんやりと考える。三年も住んでいて改めてそう思うって、どうしたんだろう。

 さっきの……たぶん夢の内容がけっこうショッキングだったものだから、こっちに戻ってこれてとにかく安心しているのかもしれない。

 夢。そう、あれはきっと夢だったんだ。じゃなきゃありえない話だ。だから俺は現実に戻ってこれた。

 悪い夢を見ていたんだよな。実際あんなことが起きていたらあのまま助かることなく死んでるっつうの。

 蔦に絡まれ、火に呑まれ……。夢の中でまで悪夢を見ることになるなんて、勘弁してほしいよ。

 そういえば、と周囲を見渡す。

 夢から覚めたのはいいが、ここは一体どこなんだろう。

 闇の隙間のように見えていたのは、あれはカーテンだ。どこかの部屋の中、か?

 アディの母親から怪我を負わされ、小道まで這いながら進んできた俺はそのまま助けを求めることなく意識を失ってしまったんだった。それからどうなったのか、さっぱりわからない。

 でもベッドの上で横になっていたところを見ると、誰かに助けてもらうことができたのかもしれない。もしくはルナがどうにかして俺のことを助けてくれたのか、どっちかだ。


「……ルナ?」


 ここがどこなのか理解できていないため、少し声を控えめにして彼女に呼びかけてみる。

 自分の容姿のこともあるし、ルナの姿はきっと他の人には見えていないため、誰に話しかけているのか不審に思われないよう気遣ってのことだ。

 見えない相手に必死に声をかけていたら、この容姿も相俟ってさらに畏怖される存在となってしまうかもしれない。

 せっかく匿ってくれる場所に出会えたんだ。俺の傷が癒えるまで、早々には手放せない。


「そういえば、傷」


 ふと、自分の腹に視線を落とす。

 今の今まで気づかなかったが、俺の腹部には包帯が巻かれていた。誰かが手当てしてくれたのだろうか。

 体を動かせばちくりと痛み出すものの、意識を失うまでのじくじくとした嫌な痛みはない。

 どのくらいの時間、眠っていたんだろう。今は夜だということしかわからないため、時間の感覚がさっぱりわからない。半日ぐらい寝ていたのだろうか。

 包帯の巻き方も丁寧だ。緩くもなく、キツくもなく、丁度いい巻き加減。これなら動いても傷が開くことはないだろう。素人が介抱してくれたとは思えないぞ、これ。

 ルナの反応もないし、どうしたもんかと考えた末、俺はベッドの上から起き上がり、部屋の中を少しばかり動いてみようと思った。ここがどんなところなのか、僅かでも情報を得るためだ。無理さえしなければ傷に障ることもないだろう。

 立ち上がり、歩いてみれば床には絨毯が敷かれていた。

 足に感じる柔らかな素材の肌触りが良く、踏み心地も気持ちがいい。向こうの世界でいう、シルクかウールで作られた高級な絨毯なんじゃないだろうか。

 その辺りの知識はよくわからないが、なんとなくそう感じる。


「……金持ちそうな家だな」


 ランプがどこにあるのかも見えないので、とりあえず月明かりだけを頼りに窓際までやってきた。

 閉められていたカーテンを開け、部屋の中に光が入るようにしてみる。

 俺が意識を失った時はあんなに天気が悪かったのに、今は快晴のようだ。空にはまん丸お月様が孤独に浮かんでいて、その近くには雲一つ見当たらない。

 月の光が優しくて、なぜだかずっと夜空を見上げていたくなった。


「……ん?」


 窓から見える景色を覗いて、なにか気になる点を見つける。

 これは俺の予想だが、おそらく窓の外に広がっているのはこの家の庭だ。その庭を見ていると、妙に懐かしさを感じるのはどうしてだろう。

 なんとなく見たことがある、この景色。どこかで見たことのある、この風景。気のせいか? どこかと勘違いしているんじゃないか?

 どこだ。俺は一体、どこでこの場所を見かけたんだ。

 夢の中だとか、似ているところを見た覚えがあるとか、そんなんじゃない。俺は確実に、この庭を見たことがある。

 暗闇に紛れていてはっきりと見えない分、なんとも言えないが。


「……? あれ?」


 俺は後ろを振り返って、部屋の中を見渡してみる。

 月の光を頼りにだが、目を凝らしてじっと見つめてみると、そこにはやっぱり見覚えのある家具が置かれていた。

 気のせいなんかじゃない。俺はここを知っているし、見たことがある。

 嘘だろ、と顔が引き攣る。

 昨日の今日で(実際どれくらい眠っていたのか未だ定かではないが)また戻ってきてしまったのかと軽く衝撃を受ける。

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