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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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アディ達を止めるために

 でも俺の中にも責任感というものがある。

 自分で選んだのなら、必ず最後まで貫き通さなければいけないことがある。

 もう以前の、子供だった頃の俺じゃないんだから。

 こっちに来て、三年も過ごしてしまったバリバリの大人で、すでに二十歳を迎えているんだから。


『さて、ヒロさん。色々と話を聞いて頭も混乱していると思います。でも私は、貴方に問わなければいけません』

「問うって、今更なにを?」

『貴方はこのまま囚われ続け、何をすることもなく諦め、ここで彼女達に命を奪われてしまうのか。それとも、何がなんでもこの世界の問題に抗ってみせるのか』


 ルナと目が合う。

 俺の真意を、確かめるように。

 聞かれるまでもなく、その答えはすでに胸の中にある。


「そんなの、決まってる」


 だから大きく頷いてみせた。


「ここから抜け出す。そして、阻止する。アディ達を、止めるんだ」

『ヒロさん』

「方法はわからない。でも、逃げ回る内に考える。俺には月の精霊様もついているんだ。ルナも、手伝ってくれるんだろ?」

『……っ、もちろんです!』


 まずアディ達は一つ失敗をしているんだ。

 俺の意識を奪い、ルナにこの体を与えようと企てていたみたいだけど、彼女にはそんなことなんてできない。そもそもはじめから間違っていることに、きっと、奴らはまだ気がついていないんだ。

 俺がここから逃げ出せば、必ずアディが追ってくる。

 ルナが俺を食わなかったとなれば、自分達の考えたやり方に疑問を抱くはずだ。

 その疑問を考えている間に、どうにかできないものか。なんとか、できないものか。


『ですがヒロさん、その場合は貴方にも覚悟を決めてもらわなければいけません。ご存知ではありますが、この地方に住む人々は差別意識が酷いです。黒髪、黒い瞳を持つヒロさんも、恐らくその対象となります。それでも、折れずにいることができるか、どうか』


 そういえば俺はもう、ウェインの体の中にいるわけじゃなかった。

 この世界では黒髪も、この瞳も、珍しいものだったのか。こんなどこにでもいる容姿が珍しいだなんて、異世界もわからないもんだ。物珍しいモノに対する警戒心がめっちゃ高いんだよな。保守的というか、なんというか。見知らぬ人達に見つかれば悪魔の子だ、なんて罵られるかもしれないぞ。


「この世界で変わったことをすれば、それすら差別対象になるんだろうな」

「……そうかもしれません。新しいことに踏み出す勇気がなく、今という時を何も不安視することなく過ごしたい人々なのでしょう」


 やっぱりステファニーもここで活動をするっていうなら、大変な目に遭いそうだなぁと先を思い、苦笑いしてしまう。

 今となっては彼女も、俺にしてみたら遠い存在となってしまったけれど。でも自分の好きなことはずっと好きでいてほしいし、続けてほしいよな。どんなことがあっても。それは絶対。


「ルナ、結界は破れるのか?」

『人間よりも膨大なマナを持つ精霊にそんなことを聞きますか、ヒロさん。 当たり前です。いくら複雑に魔法陣を組もうと、私ならこの指一本で崩せます』

「ゆ、指一本って、すげぇですね……」

『ヒロさんのマナも、心配しないでください。私が傍にいる限りマナを共有できますので、倒れることはまずないです』


 そうとなれば、とルナは手を合わせる。


『あちらに戻りましょう。対処は早い方がいいです』

「結界を壊した後はアディがいるな……」

『そうですね、結界を崩された時点で彼女も気づくでしょうし。ただでは済まないでしょう』

「どうするんだ?」

『逃げてしまえばいいだけです』


 逃げる? 逃げるって、どうやって?

 彼女を見れば、口元に手を当てて笑っていた。その仕草は、どうやらルナなりの打開策があるらしい。


「少々荒っぽいですが、頑張りましょうね。ヒロさん」


 荒っぽいって、一体どういうことをするつもりなんだろう。

 でもルナはもうやる気満々といった様子なので、俺が口を挟めるはずもなく。

 瞬きをした次の瞬間には、俺の視界はまた闇に包まれていた。

 たぶん、元々いた部屋に戻されたんだと思うけども。しかしこうも簡単にどこかへ行ったり来たりを繰り返していると、こっちの感覚がおかしくなりそうだ。白と黒の空間は目に優しくない。

 俺はきょろきょろと彼女の姿を探す。すると耳元ですぐに、声がした。


『大丈夫です、ヒロさん。私は貴方の肩にいます』


 そう言われて肩に視線を移せば、今度はきちんとルナの姿を確認できた。


「……どのタイミングで行くんだ?」

『もう私は陣を描いていますから、すぐに動けますよ。ヒロさん、身体の調子はいかがですか?』


 そう言われて、さっきまで悩んでいた関節の痛みを思い出す。

 そうだ、あんなに体を動かすのが辛かったんだ。ルナの空間にいて痛みを感じずにいたから忘れていたけど、それで素早く逃げれるかと言ったら、正直無理な話だ。

 試しに首や肩を動かしてみると、やっぱり少しは痛みを感じるものの、でも前よりはだいぶマシになっていた。


「さっきまでめちゃくちゃ関節が痛かったんだけど、時間が経ってだいぶ良くなってきたかも」

『そうですか。良かったです。死後硬直みたいなものだと思うので、体を動かすのも辛かったのだと思いますよ』

「死後硬直!?」

『魂が宿っておらず、ヒロさんの体は抜け殻だったんです。彼女の魔術により保存こそされてはいましたが、放置されていた体は動くことを知りませんから、固まってしまったのでしょうね』


 心臓は止まっていないからまたちょっと違うような気もするけど、でも、三年もあんなところに放置されてるってひどい話だよな。なんてったって床に投げっぱなしだったわけだし。そりゃバッキバキにもなるよ、俺の体。やっぱりせめて布団の上に寝せてくれていたらなぁ。


「……体、解しておいた方が良さそうだな」

『三十秒ぐらいでお願いします。勘づかれても厄介なので』


 アディはともかく、その母親は魔術に関してエリートだもんな。ちょっとした変化にもすぐ気づいて、目を三角にしてここにやって来そうだ。

 しかし三十秒後にはもう行くって、早いな……。

 俺は手首と足首を動かした後に、数回屈伸を繰り返した。何もせずに走り出すよりは、マシになるんじゃないかと思って。

 そして深呼吸も数回繰り返す。吸っては吐いて、吸っては吐いて。


「……よし、たぶん大丈夫。ルナ、俺もいつでも行けるよ」

『では、瞬間的に移動しますので、覚悟を決めておいてください』


 瞬間的に、移動?

 そういえばルナは陣を描いた、とか言っていたよな。

 ということは、ヴァーミリオンの時と同じようにここから瞬時に場所を動くわけか。

 押し寄せる緊張感に、ワイシャツの胸元をくしゃりと握り、口を真一文字に結ぶ。

 まさか人生、こんな展開を迎えるとは思ってもいませんでした。なにが起こるかわからないもんです。本当に、驚きの連続です。


『移動した後はすぐに走り出してください』

「……目的地は?」

『ないです。とにかく姿を隠せるような場所を目指し、走ってください』


 頷き、了解、と胸の中で応える。


『その後の事は、この状況から解放された後に考えましょう』

「オッケー」


 ドアの向こう側を見つめてみる。

 まだあそこにはアディがいるのだろうか。俺がおかしな動きをしないよう、見張っているのかな。もしくは、今度こそ空っぽになった俺の中にルナが入り込むのを待っているのか。

 こんな再会の仕方じゃなきゃ、もしかしたら友達にもなれたのかもしれないのにな。酷い目にあってきて、あいつの心も深く傷ついているのかもしれないけど、でも。

 すでに起こった後のことを考えても、どうにもならない。

 次に顔を合わせる時は、きっと今日とは違い、敵意を剥き出しにして襲いにくることだろう。


「……でも俺も、こんなところで死んでられないんだ」


 下に描かれている結界の、その下に。

 白い光を宿した魔法陣が浮かび上がっていく。

 それは結界を上乗せするかのように浮かび上がり、更に強く光を放つ。

 暗闇に包まれていた部屋の中が照らされ、周囲の様子が鮮明になっていく。

 俺の目に映ったのは、机と、その上にたくさん乗っているビーカーやフラスコ、試験管、それに本棚だった。

 どこかの物置部屋にでも放置されていたのかと思いきや、ここは今でも誰かが使っている実験室のような部屋だ。

 意識を失い、ここで深い眠りについていた俺は、日頃からその誰かの視線を浴びながら、三年の年月を過ごしてきたのだろうか。

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