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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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子供でなければ不都合なこと、それは

 覚えてる。俺が奴の邪魔をしたのが予想外だとか、そんなことまで言われた。

 こっちとしてはなんのことかもわからず、は? って感じだったけど。


『彼女は初め、ヒロさんではなくその子供をこちらに呼び込むつもりでした。小さな子供であれば意識を奪うことも、小さな魂であればすぐに身体を奪うことも簡単でしたから。子供は弱く、脆い生き物ですからね』

「え……、あの時の子を?」

『術が発動する直前で、貴方の姿が水に映ったのです。ヒロさんは子供でも、体は大きく、意思も相当強い人でしたから。だから彼女は不覚にも自分の思い通りに事が進まず、常に苛々していたわけですね』


 ふむふむ、とルナは一人納得したように何度も頷いている。

 だけどそんな話を聞いた俺といえば、疑問が増える一方なんですが。


「……向こうの人間を呼び込んで、その人は何をするつもりだったんだ?」


 子供でなければ不都合なこと、ってなんだろう。

 確かにあの子よりは俺のほうが体はでかいし、年齢も上だけれど、それじゃ思い通りにいかないって、その理由は一体なんだ?

 わけもわからず、俺は眉根を潜めた。


『マナのない体を、私に与えるためです』

「……え?」

『その体に宿る魂を、私に喰わせるつもりだったのでしょう。小さく弱き者の魂ならば、すぐに消せると思い込んで』


 心臓が嫌に大きく跳ね上がり、俺は唖然とルナを見つめる。

 ルナに体を与えて、その魂を彼女に食べさせるため、って。突拍子もない理由に、息を呑む。

 目の前にいる彼女が人を食べるような化物になど、到底見えるわけもなく。言葉を失ってしまった。

 ということは、あの子の代わりに俺がこの世界へ呼び込まれたというのなら、ならそのルナの獲物は俺になるわけで、じゃあ彼女は今も俺の体と魂を狙って食べようとしているんじゃ……?


「ひぃぃ……っ、い、言っとくけど俺なんか食べても美味しくないぞ……!」

『あの、勘違いしないでくださいね。私自身、人間の魂や体に興味なんてありませんから』


 そうは言ってもそんな話を聞いた後じゃ、信憑性が感じられない。


「……なら、ルナは一体何者なんだ? 見た目はそんな感じだし、さっき自分で人じゃないって言ってたけど」

『私はこの世界の、月の精霊です。色々ありまして、今まで彼女に拘束されていました』


 ルナはそう言うと、改めてぺこりとお辞儀をした。

 また突拍子もない展開に、俺は開いた口が塞がらない。

 精霊って、あのゲームなんかでいう物に宿ったりする精霊のことだよな? その精霊が、どうしてこんなところにいるんだ。しかも月の精霊って、また大層な方を連れ出してきて……。


『先程、あの少年が小瓶をヒロさんに向かって投げ入れていきましたよね。私は今まであの中に囚われていたんです』


 それって、どす黒いモノが入っていたあの小瓶のこと、だよな。

 なにが入っていたのかと思いきや、あれはルナだったのか……。

 外見はこんなに綺麗で可愛らしいのに、なんで瓶の中ではあんなに真っ黒だったんだろう。あれじゃあ禍々しいモノが入っていると勘違いされても仕方ないだろうに。

 まさか可憐に見える彼女が、実は可愛らしいのは外見だけであって、腹の底が驚く程真っ黒なのだとしたらどうしよう。それが小瓶の中に表れていたのだとしたら。いや、そんなわけがあるか? あるような、ないような。


『……ヒロさん、なにか失礼なことを考えていたりしませんか?』

「し、してません、してません! 別にルナの腹の中がどす黒かったらどうしようだなんて、全然考えていません! 微塵も思ってないですよ!」

『意外と失礼なんですね、ヒロさんって……』


 ははは、と空笑いするしかできない。

 ルナのじとりと睨む視線がちくちくと刺さり、痛い。


『……私自身はこの世界にある、とある小さな森の中で祀られていたんです。私のことを護る役割を担っていたコロボックルさん達も一緒に暮らしていたんですけど、彼女の襲来によって彼等はこの世から消されてしまいました』

「消されたって、どういうこと?」

『そのままの意味です。私を護るために、彼等は犠牲となりました』


 しょんぼりと肩を落とし、表情が暗くなる彼女を見ると、ようやく俺もその意味を汲み取りショックを受ける。真面目に笑ってる場合じゃないんだなって事実を突きつけられる。

 ルナを護るために、彼等は戦い、命を落としたのだとしたら、とにかく酷い話だ。

 一緒に暮らしていたというだけあって、もしかしたら仲も良かったんじゃないだろうか。

 そんな人達を排除してまでルナを手に入れようとしたということなのか、その女の人は。

 コロボックルは、俺の想像通りだとしたらとても小さな体の種族だ。人間を相手にするよりも、力でどうこうするつもりならとても簡単に片付けられる存在だったのかもしれない。

 精霊を護るために傍にいた彼等が戦う術を持っていないわけでもないのだが。いかんせん、体の大きさが違いすぎる。

 彼女に人間の体を渡し、魂を喰わせ、何をさせようとしているのだろう。ルナが一体この地に何を齎すというんだろう。

 そもそも俺をこっちに呼び込んだ女性は、何を望んでいるのだろう。


「……ルナは実際、人間の体にも魂にも興味はないんだろ? だったら、その人は一体君に何を望んでいるんだ? ルナにどんなことをさせるつもりでいたんだ?」

『……この地に住む人々を、コロボックルさん達と同じように消してしまうことです。数人を消すだけなら簡単です。だけど大勢の人を一度に消してしまうつもりなら、中途半端な力ではいけない。そこで月の力を使い、眠るように、安らかな光で癒すように、暗闇に包んだら二度とそこから出られないように、彼女は私を操ろうとしているのです。人間の体を渡し、私を人形に閉じ込め、その上で術を施し、自分の好きなように動いてもらおうと』


 ルナは呆れたように目を閉じた。


『自分の境遇に絶望し、人々を恨み、標的にされ責められるというのなら消してしまおう、と。彼女の考えは最終的にそんな暗い道を選んでしまったようです』

「どんだけ酷い目に遭ってきたんだ、その人」


 よっぽどのことがなければ、そんな風にここに住む人達に殺意なんて抱かないだろう。俺が思う以上のことを受けなければ、きっと。


『私も詳しくは知りません。ですが、彼の母親だということはわかっています』

「彼の母親?」

『ヒロさんと先程いた、褐色の肌をした少年の母親のことです』


 アディの、お母さん?

 嫌な予感が俺の脳裏を横切り、心臓の動きが速く打ちつける。


「その、お母さんが……どうして」

『ヒロさんもしばらく、この地で暮らしていたんですよね? なら、アディさんのような異端児と思われる外見をした子供がどのような扱いを受けていたか、知っていますか』


 ルナは恐らく差別のことを指して言っているのだろう。

 そうだ、俺も実際三年前、街でヴァーミリオン達が酷い誹謗中傷を受けていたのを直接耳にしたんだ。

 アディの容姿が異端だというのなら、きっと彼だけでなくその母親も攻撃の的となったことだろう。それこそ、おかしな子供を産んだ女だと。

 そこまで考え、先程の意識を失う前の一件が俺の中で引っ掛かった。


「それが、原因で……?」

『恐らくは。彼女も彼女なりに、耐えていたのでしょう。子供のことも守らなければいけませんし、自分の身も守らなければいけないですし』

「なるほど。それで俺が邪魔をしたとか、そんな話に」

『ちなみにその母親というのは、ヒロさんも会ったことがあると思いますよ。教師をしているとのことでしたので、学園の中で顔を合わせたのではないですか? その時は他の体に乗り移っていたと思いますが……』


 ルナに言われて、ようやく合点がいく。引っ掛かっていたものが上手く取れた気がする。

 ウェインの中にいた俺を睨みつけ、邪魔をしただの、なんだのと言い放ってきた人物は一人しかいない。熱視線を送られていた理由も、ここに来てわかった気がする。

 あの人がアディの母親だったのかと、なんとも複雑な気分になる。

 学園の中でも、プリントが散らばったというのに誰一人として手伝わず、遠巻きにではあったが生徒に誹謗されていた、あの女性。

 いつもあんな扱いを受けてきたことを考えれば、この地に住む人々を憎むのも、なんとなくだけどわかるような気がした。

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