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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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蓋を閉める存在も、今はいない

「いま絶対、こいつ無神経に口うるせぇ奴だなって思っただろ? 顔に出てるし、お前の考えてることって大体わかるんだよ。ただ俺も言っておきたいんだけどさ、この無神経に他人に物事を口に出すっていうのは、ある意味お前と同じようなものなんだぜ? お前も、俺達にずーっと同じこと言ってきたの。俺達もそれに随分腹が立ったもんだよ。子供相手だから我慢してきたけどさ」

「ガウェイン殿、その話は今、関係ないのでは。病人の前で止めてください」

「ウェインもかわいそうだなって思ってたんだ。お前のことだから厳しいことばっか投げつけてたんじゃないかなって。色々溜め込んでたんじゃないのか? あいつもあいつなりに、言えないことを自分の中に抱え込んでさ」


 ヴァーミリオンは爪が食い込む程、強く拳を握った。ガウェインが自分を怒らせるためにわざと言葉を選んでいるのだとしたら、大したものだと思った。

 あいつが本当にストレスで倒れたと考えているのかは知らないが、随分とヴァーミリオンの癇に障ることを言う。

 確かに以前の自分は相手の気持ちなど考えずに突き放してばかりいたかもしれない。それが周囲の人間を不快にさせていたというのなら、ヴァーミリオンが頭を下げて謝らなければいけないことだ。

 だがガウェインは、ウェインを引き合いにしていちいち言葉を繋いでいく。かわいそうだの、なんだのと。

 ヴァーミリオンがウェインを不幸にしているのだと遠回しに言っている。まるで虐めているかのように責めてくる。

 ウェインが、ウェインが、ウェインが。

 何も知らないくせに。あいつのことを、何も知らないくせに。ウェインの中にいるのがウェインでないことも、気づきもしないくせに。


「………………なよ」


 開いた蓋は閉まらない。

 誰かが閉めてくれなければ、感情が溢れていくばかりだ。でもその蓋を閉める存在も、今はどこにもいない。


「ヴァーミリオン様?」


 ヴァーミリオンの様子に気づいたシアンが声をかける。だがそれに答えてやれる程の余裕が、今の彼にはない。


「…………のことを知らないくせに、勝手な憶測でべらべらと喋るなよ」


 俯いていた顔を上げ、振り返る。

 その先で椅子に腰かけるガウェインを、炎が捉える。


「あの男をよく知りもしないお前が、今ここで兎や角言うな!!」


 ガウェインが腕を組み、ヴァーミリオンを見つめる。その興味深そうに、観察するような仕草を見せるあの態度が、また彼の神経を逆撫でていく。

 見透かそうとする目が腹立つのだ。あの男は何を思い、こちらを見つめているのだろう。ヴァーミリオンが怒りを露わにしたことに、思惑通りといった様子なのだろうか。

 わからないし、知りたくもない。むしろ、今はどうでもいい。ただこの苛立ちをぶつけなければ、気が済まなかった。炎は大きくなるばかりだ。


「騎士の誓いを交わしていない? 交わしたさ。俺はあいつと、誓いを交わした! 生涯俺の騎士であることを約束したんだ! あの男以外の騎士など、俺には必要ないと判断したから! 俺が自分で初めて一緒にいたいと思えた奴だったから……!」

「ヴァーミリオン様、でしたらやはりウェイン君と」

「だがそれはウェインではない! ウェインではあったが、あいつはウェインではなかった! 会った時から心のどこかで気づいていたんだ、おかしな奴だと!」


 悔しくて、唇を噛む。

 血が滲んだって構わない。でも、それでも悔しかった。ここまで叫んでいる自分が。

 誓いを交わした時に話半分で聞いていて、その時が来たらなんて、覚悟もしていたはずなのに。いざ彼が目を覚まさなくなれば、こんなにも取り乱している自分が。落胆している自分が。結局は受け止めきれていなかった自分がここにいて、腹が立つほど悔しくなる。

 なにが起きてもいいようにと、理解していたものだと思っていたけど。簡単に心の整理はつかなくて。こんなところがやはり子供なのだと、周囲に笑われるのだろうか。馬鹿にされたりもするのだろうか。

 精一杯強がって、大人びたつもりでいたけれど、結局中身は子供のままなのだ。こんな風に怒りを爆発させてしまうのも、喚き散らすのも、堪えることができないのも。全てはまだ自分が子供だから。何もかもが未熟だから。

 泣いてたまるものかと拳を強く握りしめる。

 特にこの二人の前では、絶対に涙は流さない。己のプライドにかけてもだ。


「……なぁ、ヴァーミリオン。俺、一つお前に聞きたいんだけどさ。こんな状況になって、少しでも、ほんのちょっとでも、全てがどうでもいいって自暴自棄になったりしなかったか?」

「なんだと……」

「ウェインが倒れたことで、今までのことがどうでも良く思えてきたりしなかったか?」


 ヴァーミリオンは、言葉が詰まる。その指摘には、思い当たる節があったからだ。

 心臓が痛い程、飛び上がった。


「……だとしたら、なんだと言うんだ」

「あのさ、それすっげー失礼だからな。ウェインにも、そのお前しか知らない奴にも」


 ガウェインは椅子から立ち上がり、壁に寄りかかる。視線はヴァーミリオンを見つめたまま、目を細める。

 隣でシアンが不安気に二人を交互に気にかけていたが、決して口出しはしてこなかった。自分の出る幕ではないと判断しているのだろう。あくまで傍観する立場を貫くつもりだろうか。

 ヴァーミリオンは大きく舌打ちをした。ガウェインの、見透かしているような態度とその言い方が、やはり気に入らなかった。


「どうでもいいってことは、今までそいつと歩んできたもの全てを放棄するってことなんだよ。自分から投げ出すって言ってるようなもんだ。それって失礼なことだと思わないか? 全部投げ出して、その後にもしそいつと再会できたとして、お前は素知らぬ顔をして目を合わせることができるか? 俺だったらできないね。恥ずかしくて、申し訳なくて、そいつに背中を向けちまうかもしれねぇ」


 そんなの、わかってる。

 でもそれは、会えたとしての話だろう。もしかしたらウェインはもう目を開けないかもしれない。開けたとしても、それはあの幽霊ではないかもしれない。

 だとしたら、どうすればいい? どうすれば、耐えることができる? どうしたら傷つかずに済む?

 ヴァーミリオンにはきっと、耐えられない。足場が崩れていき、あとは闇に落ちていくばかりだ。手を指し伸ばしても、誰も助けてはくれないだろう。

 今だってもう、足が震えそうになっているんだ。彼がいなくなってしまうことが怖い。頭ではわかっていても、心が追いついていかない。

 炎が消えてしまう。風に吹かれて、ヴァーミリオンの中で燃えていた炎が、このままでは消えてしまうかもしれないんだ。


「だったらまだ、諦めんな!!」


 ガウェインの声に、肩が大きく揺れる。


「何が気に入らねぇって、俺達のことを信用していないのはもちろんのこと、ウェインが倒れた時点で全てを諦めているそのしみったれた顔だ! 一人で全部わかったような顔しやがって! いいか、お前のそういうところがガキだって言うんだよ!」


 子供じゃなければ、どうするというんだ。大人だったら、どうしているんだ。

 子供でも、大人でも、取るべき行動に違いがあるというんだろうか。

 ヴァーミリオンはガウェインの言いたいことがわからず、眉を下げて言葉の続きを待った。


「俺が言いたいことはだな!」


 ずかずかとヴァーミリオンの元へ近づいてくると、ガウェインはその額を指で強く弾いた。


「……っ」

「お前はどうあっても子供なんだ! どんなに大人びていても、結局は子供であることに違いない! だったら無理しねぇで子供は子供らしく、俺達を頼れ!!」

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