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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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中途半端な器とは?

「……はぁ。試験もどうなったんだろう。これじゃあ合否もわからないし、気になることがありすぎて落ち着かないし、でも考えることを止めるわけにはいかないし。ここまでくるとアディの事情まで気になってくるしで……あぁぁぁぁ、頭がハゲそう!」


 がしがしと頭を搔く。

 取り乱したところで結局は落ち着くこと以外なにもできないんだけれど、でもこのままじゃ動揺しっぱなしだし、床の上に横になって天井でも眺めるか!? でも小瓶からなにが零れていったかわからないから、それもそれで気になるし!

 液体でもなければ気体でもないようだけど、一体なにが入っていたんだ?

 体に害がなければいいけど、でもアディは俺から意思を奪おうとしているわけで、言うなれば俺を殺そうとしているんだから無害であるはずがないんだ。

 必ず何かしら体に影響が出てくるのかもしれない。毒だったらどうしよう。

 困った。本当に困ったもんだ。

 でも、このまま素直に死を迎え入れるほど俺は馬鹿じゃない。


「……結界ってことは、やっぱりここから外には出られないんだよな?」


 足元に展開されている魔法円の外へと向かい、手を伸ばしてみる。

 するとそこには確かに目には見えない壁のようなものが存在していた。不思議だ。俺の目には何も見えないのに。

 構わずぺたぺたと手で触れていると、しばらくすると痛みが走り、驚いた。


「……っ! な、なんだ!?」


 電気が走ったような衝撃に、すぐに手を離す。

 自分の手のひらを見てみると、そこには火傷に似た傷ができていた。赤く腫れていて、じんとする。げ、と思わず声が漏れてしまった。 

 この結界、無理にこじ開けようとすると俺が怪我するパターンか! よくある展開っちゃ展開だけど、逃げようにも簡単には逃がしてもらえないってことですか、そういうわけですか……。まぁ、そりゃそうですよね。

 はぁ、と深く溜息を吐き出し、俺はその場に尻餅を着いた。

 小瓶の中身も気になるけど、でも結界から出れないんじゃどうあっても同じだ。


「……今の痛みで、とりあえず動揺が引いたかも。引いて、落ち着いて……うん、どのみち逃げられないなら、もう少し落ち着こうか、俺」


 また大きく息を吸い込んで、深く吐き出す。

 受験に引き続き、本体に戻って動揺し、更に結界に閉じ込められてパニックになって……。この世界は本当に目まぐるしい展開ばかりが起こって俺も驚きだよ。驚きすぎて、笑ってしまいそうだ。

 さっきよりはだいぶ冷静さを取り戻してきたと思うので、この辺りで色々と考えを巡らせてみるのもいいかもしれない。焦ったって、なにも始まらないんだ。

 俺は胡坐をかいて、床を見つめた。

 せめてベッドなり布団なり用意されていたらなぁ、なんてことを思ってしまうのは、かなり贅沢な要求だよな……。捕まっている分際でなにを、って怒鳴られそうだけど、床は硬いよ、床は。

 床を手で叩きながら、俺は考える。

 話を脱線させる前に、まずはアディについてだけど。

 彼は最初、なんて言った? ここは、とある世界の学園の中、って言ったよな。あれがどういう意味かってことなんだけど。

 学園の中ってことは、ウェインが元々倒れた場所であるフォルトゥナ学園内に俺はいるんだろうか。学園って言われても、ここ以外の学園なんて全く知らないし、見当もつかないしな……。ずっとここで眠っていたんだろうか、校舎の中で。

 え、でもそれだと俺の体は三年間フォルトゥナ学園に保管されていたってことになるよな? ということは、俺の体はもう二十歳を迎えているってわけ?

 向こうの制服を着ているままだから、実感がないというか、むしろ何も変わっていないような気もしなくはないんだけど……。体の大きさも変わっていないみたいだし。

 あと、俺の力が弱くなる時を狙って本体に呼び戻された、みたいなことも言ってたよな。

 マナが足りなくなる時を狙ってたってことなのかな。これは俺の推測でしかないけど、ヴァーミリオンのマナは普通の人とはまた違うというか、他よりも強いのかもしれないし。だからそれを分けて貰っていた俺はこれまでアディ達の干渉を受けなかった、のかもしれない。

 あくまで推測だから、本当のことはわからないけれど。


「……それに俺のことを、中途半端な器って言ってたよな。なんだよ、器って。意思を消すって言ってたし、誰かが俺の体に入ろうとしているってことか? 眠れってどういうことだったんだろう」

『気になりますか?』

「うん、気になるよ。だって言ってる意味が全然わかんないんだもん。なんのための器なのかさっぱりだし、それがどうして俺なのかも…………って、え」


 俺は瞬時に体を起こし、身構える。

 周囲を見渡し、警戒する。

 なにかまた変な声が聞こえたような気がしたんだけど、俺の気のせいだろうか。幻聴か。また幻聴なのか?

 屋敷の時に引き続き、誰かが俺に付き纏っているみたいで、背筋が凍りついてしまう。ストーカーかよ!


「……誰もいない、よな?」


 暗くて奥までよく見えないけれど、でもこの部屋の中に人の気配はしないと思う。

 だけど今、誰かが俺に話しかけたよな? 女の人の声だったと思うんだけど。

 また俺をどこかに呼び込もうとしてるのか? 連れていこうとしてるのか? だからいい加減俺を振り回そうとするのやめてくれってば……! そういうの、好きじゃないし!

 しかし気になるものは気になるので、確かめるように俺はその声に向かって呼びかけてみる。

 気づかない振りをしていればいいのに、自らそこに足を突っ込みに行くタイプで、ホント俺ってば嫌になっちゃう……。


「ここに俺以外の誰か、いますか? 誰か、俺に話しかけたりしてます? いるならいるで、一声頂けないでしょうか……! 宜しくお願いします! もう気になって仕方ないんです……! このままじゃ、夜も眠れなくなるぐらいに!」

『いますよ。貴方のちょうど目の前に』

「――――っ!!」


 声がした! やっぱりまた声が聞こえたー!

 俺は慌てて後ずさる。

 だって今、ちょうど目の前にいるって言ってたぞ! 俺には何も見えないけど、誰かがしゃべった! 確かにしゃべった! 俺の声に、反応した……!

 幻聴って問いかけに答えてくれるもんなの!? それとも俺が都合良くそう解釈しているだけなのか!? 俺の頭、やばくない!?

 なんにせよ、鳥肌が止まらない。だって声がしたのは事実なんだ。

 俺は自分の身を守るように、体を両腕で抱きしめた。


「だ、だだだ誰もいないのに何を言っているんでしょうか……! お、俺の空耳なんじゃないのかなぁ!? 気のせいじゃないのかなー!? 俺の前には誰もいないのに、嘘でしょ!? アディの嫌がらせなんじゃないのか!? あいつ、なにか仕掛けていったんじゃないのかー!?」


 幻聴だと思いたい。怖すぎる。

 震え始める俺を見て面白かったのか、目に見えない何かがくすくすと鈴の転がるような可愛らしい音色で笑みを零す。

 気のせいなんかじゃないってことなのかな。そうなのかな!? それはそれで嫌なんですけどー! ショックだよ、俺は! バカにされてる!


『あらあらあら、これは失礼しました。なんだか面白い方だなぁ、と思っていたら、そういったものに免疫のない方なんですね。この純粋さを先程の彼やあの方にも分けてあげたいぐらいです。初めまして、異世界から流れてきた少年さん』

「え、えっ、えぇ!?」

『そういえば見えないのでしたね。どうしたら見えるのかしら。力を今より弱めたり、強めたりすれば、あの方々に勘づかれますし……。どうしましょう、でしたら貴方をこちらに引き込んでみますか? よろしいですか?』


 引き込むってなに!? 引き込んでなにするつもり!? 引き込まれたら俺、どうなっちゃうの!? どうするのー!!

 いやいやと頭を振ってみせても、伝わっているのかどうかがわからない。むしろ伝わっていても、はたして俺に拒否権はあるんだろうか。この短い会話でも、主導権はあちらさんが握っているように思える。

 それに気になったのは、これはウェインの部屋にいた時に聞こえた声の主と同一人物なのか、それともまた違う何かなのか、だ。声の感じからすると違うような気もするけど、でもあの時はいっぱいいっぱいで違いなんてわかんないんだよな。

 結界の中で無闇に逃げ出すこともできず、ただ見えない相手に怯えることしかできない。

 はたして俺はアディの言った通り、この声の主の言う通り引き込まれ、意思を無くしてしまうのか。そしてそのまま命までをも奪われてしまうんだろうか。

 むしろこの声は敵なの? 味方なの!?

 アディは俺が抗うなら自分が相手になって痛めつけてやる、みたいなことを言っていたような気がするんですけど、どうなんでしょう!?

 答えは流されてみなきゃわからない、なんてことはないよな? だって引き込まれても、そこから戻れなきゃ意味がないんだから!

 ただ俺は姿のない相手を前に何も言えず、下手に抵抗もできず、震えることしかできなかった。相手がなにを考えているのかも、よくわからなかった。

 アディはこの正体を、知っていたのだろうか。

 俺は目の前に広がる空間を見つめながら、頭の片隅で、隣にはもういない相方のことを思い浮かべるのだった。

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