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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
炎の加護を受けた少年
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可愛げのない主、ハードルの高い問題

 木刀なんて持っていく人いるの!? 危ない人だとか思われたりしない!? 荷物検査とかないよな!? こいつは危険人物だとか思われたりしたらやばいじゃん!!

 どうしよう、と悩んでいればヴァーミリオンがそばに来て、無造作に木刀を俺の鞄に突っ込んだ。人が悩んでいるのに、そんなことは関係ないといった様子だ。

 その俺には持ち合わせていない豪快さがいいよね……。悩んでいても引っ張っていてくれそうな男前っぷり。これはその辺の女の子が放っておかないだろうなー。

 ヴァーミリオンにしてみたら、悩むぐらいなら持っていけ、って感じなんだろうな。


「そういえば今更なんだけど、寮生活なんだっけ」

「そうだ、本当に今更だな」

「寮で暮らしたことなんてないから緊張するなぁ。というと、一人部屋のわけがないから相部屋になるんだよな? それってもちろん俺はヴァーミリオンと一緒ってこと?」

「あぁ、俺とお前はもうパートナーを組んでいるからな。いつでも、どこでも、共に行動しなければならない」

「まぁ、騎士と主だもんな。だったらいいんだけどさ」

「なにがだ?」

「ヴァーミリオンは周りに敵が多そうだから、騎士である俺が守らないとっていう使命感があるわけですよ。こんな俺でも、一応」


 しばらく、じーっと俺を見ていたヴァーミリオンだったが、数秒も経てばハッと鼻で笑い出した。しかも、皮肉っぽく目を細めて。


「甘く見られたものだな……俺がお前に守られるとは、笑わせてくれる」

「いや、騎士なんだからそう思うのは当然だろ!? 実際煙たがられる現場を何度も見てきたわけだし、心配にだってなるでしょうよ!」

「圧倒的に力も腕も、俺のほうが上だがな」


 またそんな可愛げのないことばかり言って、この子は……!

 俺も俺で三年間頑張ってきて、以前よりはだいぶ強くなってきたと思うんだけどな! ヴァーミリオン相手に毎日実践してきたわけだし、モンスターだって直接相手にしてきたし!

 完全なる足でまといからは抜け出した気でいるんです、俺自身は。

 ヴァーミリオンの方が強いのは当然なんだけど、それでも一応ボディーガード代わりにはなるはずだ、たぶん。

 ぷんすかしていれば、またくすくすと笑う声が聞こえた。今度は嫌味たらしくもなく、素直に楽しそうに。


「あのなぁ……」

「ならば楽しみにしていよう。お前が俺を守ってくれる、その時まで」


 くそーっ! 嫌な奴!

 俺は鞄を閉めて、ベッドの脇へと置いた。くすくすと笑い続ける奴を尻目に、ふん、と窓の外へ目を移す。

 ヴァーミリオンはよく笑うようになった。常に眉間に皺は寄っているけど、それでも初めて会った時のような顰め面ではなくなった。

 ようやく子供らしくなってきたというか、年相応になったというか。

 あんな目に遭っていたから心が塞ぎ込んでいたんじゃないかと心配していたけど、だいぶ良くなってきているようだ。

 あの時のこいつの心情を考えれば、今でも辛いし苦しくなる。

 当事者でない俺が苦しくなるんだから、ヴァーミリオンなんかもっと辛かったはずだ。

 だからこんな風に柔らかく笑うようになってくれて、正直安堵している。

 きっとシアンさんや執事さんは俺以上にほっとしているだろうけど。

 会った時は疲れ切っていたシアンさんも今では顔色が良くなり、元気を取り戻したみたいだ。

 もう前みたいにガウェインさんに肌がどうこう言われることもないよな……。あの時はなんとも気まずい空気だったことを思い出す。


「とりあえず、あとは一人でも平気そうだな。お前はステファニーのところへ行くんだろう」

「えぇっ、ちょ、どこ行くんだよヴァーミリオン!」

「俺は部屋に戻る。今の内から色々と自分の物を整理しておきたいからな。お前のように女と遊んでいる暇はない」

「俺一人であの子のところに行けっていうのかよ! そんなの無理だ、絶対無理! 女の子と接点持ったことのない俺にはハードル高すぎだって! 会話なんか続くわけもないし!」


 こんなこと言ったら向こうでは即童貞扱いされてしまいそうだと自分で恥ずかしくなるけど、背に腹は変えられない。

 話してみたいし、仲良くしてみたい! でもいくら体はウェインでも中身は比呂。イケイケドンドンみたいに、そう上手くはいかないんです。

 しかも一人だったら何話したらいいかわからないじゃん!? 何も話せずに気まずい雰囲気になるのだけは避けたいだろ!? やっぱりそこは従兄弟であるヴァーミリオン様のお力添えが必要でな……!


「俺を助けるつもりで、お願いしますヴァーミリオン様……!!」

「断る」

「お願いしますって! 一緒についてきてくれよ!」

「時間の無駄だ」

「おーねーがーいーしーまーすー! 傍にいるだけでいいから! 俺の横にいてくれるだけでいいから!」

「くだらん」


 どうにか彼女との接点を持ちたくて、俺はプライドを捨ててヴァーミリオンの服の裾に泣きつく。だけどヴァーミリオンは断固として頭を縦に振らない。

 にゃろう、きっと自分はなにをしなくても女の子が勝手に寄ってくるタイプだからって絶対に協力しないつもりだな! モテない男の苦労なんて知らん奴なんだ……くそぅ!


「ヴァーミリオン、お願いだってば!」

「嫌だ」

「ヴァーミリオン様、頼みます!」

「拒否する」

「ヴァーミリオン様ぁぁぁ!」

「いい加減にしろよ、貴様……っ」


 泣きつく俺を足で蹴って、引き剥がそうとしている。

 なんてひどい扱い……っ。それでも諦めない俺も俺……!

 しばらく押し問答を繰り返していると、またドアの方から変に強い視線を感じた。

 今度は誰だろうと、ヴァーミリオンの横から顔を覗かせると、そこには先程逃げ出したはずのあの金髪の少女が立っていた。つい数分前の時と同じように、じっと俺のことを見つめている。

 ステファニーだ! え、また戻ってきてくれたの!? なにか俺に用事!?

 彼女の顔を見ただけで、胸がときめきで弾けるなんて……! これはかなりの重症だ!

 ヴァーミリオンの足を顔面で受け止めている場合ではない。

 にこりと微笑むと、ステファニーの瞳はまた逃げるように伏せられてしまった。


「……」


 あぁ、どうしてそんなに俯いたりするんだろう。

 逃げ出す様子はないので何をしているんだろうと眺めていると、彼女の目線は下を向いたまま動かない。

 うん? どうしたんだ?

 ステファニーの視線を追っていくと、その手にはスケッチブックが握られている。片手にスケッチブック、片手には鉛筆かペンが握られていて、せっせと一生懸命何かを描いている……みたいだ。

 あんなところで描いてるの? あれじゃ描きにくいし、手元もブレると思うんだけど……大丈夫なのか? 今すぐにでもその場でしなきゃいけないことなんだろうか。


「……ヴァーミリオン、あれ何してるんだろう?」

「なにがだ」

「ステファニーがドアのところに立って、なにか一生懸命描いてる」


 は? とヴァーミリオンも振り返ってみれば、顔を上げたらしく、こちらを凝視するステファニーと視線がぶつかった。

 何をしているんだと口を開きかけ、そこから一歩踏み出そうとすると、甲高い声が耳に突き刺さった。


「動かないで!!」


 ビクリと、部屋に響く大きな声に驚いた俺の体が固まる。

 動くのは許さんとばかりの形相で、彼女はこちらを強く睨み上げた。

 怒った顔も可愛いなぁ、なんて空気を読まずに思ったりもするけど、どうして動いたらいけないんだろう。

 困ったようにヴァーミリオンを見上げれば、呆れた様子の彼と目が合った。

 だから言っただろう、と目で訴えかけているようだった。


「あ、の……ステファニー、だよね? そんなところで何してるんだ?」

「……どうして私の名前を知っているのかしら」

「えーと、ヴァーミリオンに聞いたんだ、けど」


 ふーん、そうなの。と彼女の視線は興味無さげにすぐにまた下を向いてしまった。ペンを動かす手は止まらないことから、意識はそのスケッチブックに向いているのかもしれない。

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