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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
炎の加護を受けた少年
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そして月日は流れ

 * * *


 ヴァーミリオンの騎士となり、しばらくの月日が流れた。

 あれから俺とヴァーミリオンは共に過ごす時間も増え、まるで兄弟のように日々を過ごしてきた。

 騎士の誓いを交わして、三年。

 そう、三年の月日が流れた。

 びっくりだろ? あっという間の三年だ。

 あの時散々悩んだ俺の不安は特に的中することもなく、俺達はすくすくと成長していった。

 といっても、体が成長したのはヴァーミリオンだけなんだけど。

 俺……というか、ウェインは三年前から全く体が育つことはなかった。身長も、骨格もそのまま。髪の毛すら伸びない現状だったりする。爪だって伸びやしない。本来だったらこれはありえない問題だ。

 一緒にいるヴァーミリオンは大きくなっていくのに、俺だけ三年間、時が止まったまま。

 俺は大体その原因を知っているけれど、シアンさんや執事さん達は当然首を捻るばかりだった。病院にも連れていかれて、医者に体を診てもらったんだけど、そりゃ原因なんて特定できない。できるはずもない。

 心臓の動きだけは異様に弱いとは言われた。本当だったら体を動かすのもアウトなぐらい、ひどいんだってさ。

 だけどヴァーミリオンの騎士になった手前、そんなことは言ってられない。

 シアンさん達は不安げに俺のことを見ていたけれど、ヴァーミリオン自身は驚きもせずにその話を聞いていた。

 心配ぐらいしてくれたっていいんじゃない? と聞いてみれば、彼は鼻で笑い飛ばした。


「お前は幽霊だと自分で公言していただろう。だから驚きもしないし、不安でもない。三年も一緒にいて、今更何を言っている。だから未だにマナもないんだろう?」


 俺はがっくりと項垂れると同時に、そんなヴァーミリオンに心底安堵していた。

 やっぱりあの時、冗談にして流していたんじゃなく、きちんと聞いてくれていたんだなって。だからこうして受け止めて、普段と変わらずに接してくれているんだ。

 やっぱり主になる器の持ち主って寛大だなぁ、とまた更に彼を見直すきっかけになったのでした。

 向こうの世界だったら、俺はもう二十歳を迎えていることになる。高校も卒業して、進学か就職をしていたんだよな、今頃は。そう考えると、成人式にも出席することができなかったんだな、と考えてしまう。

 まぁ、それよりも貴重な体験ができてるし、大事な友人もできたし、今のところ生活には困ってないから、これでいいっちゃいいんだけどさ。

 朝練も終わり、朝食を食べた後の休憩の中、俺は部屋でぼーっと窓から外を眺めていた。


「おい、貴様」


 スライム以降はそんなに凶悪なモンスターも現れることなく、平和だった。現れたとしても、本当に小さなモンスターばっかり。

 俺も一緒に現場に連れていってもらって、実戦で戦ってみたりもした。ヴァーミリオンとシアンさんも見ていてくれたし、危険な状況ではないから出来たことなんだけども。

 完全に仕留めることはできなかったけれど、それでもいい経験にはなった。

 ただ三年もここで過ごしてきて気になったのは、ヴァーミリオンの家族と一度も顔を合わせていないことだと俺は思う。ヴァーミリオンもヴァーミリオンで実家である屋敷には全く帰らないし、帰ろうともしていないし。そんな気もないというか。

 普通親だったら離れて暮らしているとはいえ、自分の子供の様子を見に、年に一回ぐらいは顔を出すのが当然だと思うんだけど。

 向こうの常識がこっちの常識であるかはわからないから強くも言えないし、他人の家に口出ししていいような問題でもないし。

 ヴァーミリオンも気にしてないみたいだから、俺も敢えて聞かないんだけどな。

 侯爵である父親が仕事で忙しいから顔も出せない、というのは百歩譲ってわかる気がするけども、せめて母親ぐらいはな……。子供と離れていても平気な人なのかなぁ。どうなんだろうな。


「……聞いているのか、貴様!」


 いつの間にか部屋にやって来ていたらしいヴァーミリオンが、怒ったように声を荒らげている。

 振り返れば大きな鞄を持った俺の主が、ドアのところに立ってこちらをぎっと強く睨んでいた。

 なんだろう、その荷物。どこかに出掛けるのか? 旅行?


「その様子を見るに、シアンの話を聞いていなかったな……。ぼけっとして、だらしのない男だ! それでも俺の騎士か!」

「……お出かけ?」

「あのな、もうすぐ入学試験があるだろう。俺達は合格するだけの力は持ち合わせている。だから寮に入る準備を今から始めていろとシアンが言っていただろう。忘れたのか」

「そんな話、してたっけ?」

「していた。お前は上の空だったが、やはり聞いていなかったんだな……! 今もそうだった。俺が声をかけたのに、気づきもせず外を見ていて……!」


 俺より頭一つ分も大きくなったヴァーミリオンを、下から見上げる。いや、ホント大きくなったよな、この子。

 確かウェインが身長百四十センチぐらいしかないのに対して、大きくなったヴァーミリオンはすでに百六十センチを越えている。

 むむむ、十三歳にしてこの大きさ。成長期ってすごい。これでは比呂本体もすぐに越されてしまいそうな気がする。


「……大きくなったなぁ、ヴァーミリオン」

「何をしみじみと言っている。お前が小さすぎるんだ。かろうじて生きているような体をして。今のお前を見ていると、すぐにでもここから消えてしまいそうだな」


 俺もそう思っていたんだけど、でもあれから三年も経っていれば一生このままなんじゃないかって気もするよ……。

 その成長っぷりを眩しそうに見つめていれば、ヴァーミリオンが中身の入っていない鞄を俺の顔面に向かい投げつけてきた。

 横暴なところは三年経っても変わっていないようです。見事顔で受け止め、鞄の金具がちょうど鼻に当たってしまった。これは痛いと、思わず涙ぐんでしまう。


「いつまでもぼさっとしているなよ。これがお前の鞄だ。必要な物はすべてここに入れろ」

「必要な物っていっても……俺が使ってる物って全部屋敷のだし、特には」

「部屋着ぐらい持っていけ。寮に入れば屋敷に戻ってくる時期も冬の間だけになる。休日まで制服でいる気か、貴様は」


 その言い方だと、こっちの世界の学校は長期間休業になるのは冬休みしかないってこと?

 ということは、ずっと寮暮らしになるわけなのか……、それはそれで寂しくなるな。この慣れ親しんだ屋敷から離れることが。

 三年も暮らしていれば当然思い入れも深くなるわけで。


「そういえば聞いてなかったんだけど、学園では何年間過ごすことになるんだ? やっぱり標準的に三年ぐらい?」

「五年だ」

「うぇ、五年!?」

「そうだ。だが五年も経たない内に、パートナーを見つけた者は好きに学園から離れていく。パートナーを組んだ者同士、二人で学園長に申請すればそれで完了だからな。一応卒業扱いにはなる」


 じゃあ俺達も、五年もいるわけじゃないのか……?

 でも、ヴァーミリオンの場合は普通の子と違ってフォルトゥナ卿のことを踏まえなきゃいけないから、五年間フルでいなくちゃいけないのかもしれない。

 長いなぁ。長いよね。だって卒業する頃にはウェインもヴァーミリオンも、十八になってるってわけだ。

 むしろ五年もいてパートナーを見つけられないって、それはそれでその人に問題があるように思われるんじゃないかって考えてしまうよな……無粋だけど。見つけられない人も中にはいたりするんだろうか。気になる。


「……しっかし、十八か」

「なんだ」

「いや、十八になったらヴァーミリオンはどれだけ背が高くなっていくのか、ちょっと想像してみた」

「は?」

「たぶん俺の背は悠々と越えていっちゃうんだろうな。百八十近くになったりして。悔しいけど」


 十八にもなって俺の身体もこのままだったら相当やばいよな。他人から見たら絶対病気扱いされそうな気がする。

 というか、そもそも成長していかないってことはやっぱり俺達、一度死んでるから何も変わらないんじゃないか? そこで時間がぴたりと止まっているというか。

 ウェインもやっぱり亡くなっていて、俺はただその体を借りて動かしているだけだとして、もし俺がウェインから離れたらそこには一人の小さな男の子の亡骸だけが残るんじゃないか……って考えたら、それ普通に怖いし、もうどうにもならない。

 ぶるりと体を震わせる。


「お前の背など、とっくに越しているはずだが?」

「うん、そうだね……そうだったね……」

「なんだ、本体はもっと大きいということを言いたいのか?」

「今のヴァーミリオンよりは大きいですよ……」


 む、と眉根が顰められたような気がしたが、俺はもう気にしない。

 長い間一緒にいてわかったのが、ヴァーミリオンはかなりの負けず嫌いということだ。でもって、プライドも相当高い。

 今のはきっと、俺本体がヴァーミリオンよりも背が高いことが気に入らなかったんだろう。さらりと言ったが、彼の中ではもうウェインと幽霊を切り離して考えているっぽい。

 だから冗談で流しているんじゃなく、実際そういうものなんだと考えているみたいだ。

 まぁ、本体は十七歳だから。それなりに身長はあって当然だから。


「お前の中身がどのくらい背が高いのかは知らないが、今は俺の方が大きい。それは紛れもない事実だ」

「いや、俺は張り合ってないからね? 身長なんて個人差があるし、お前はこれから大きくなっていくんだから気にしなくてもいいんだよ? むしろ気にしなきゃいけないのは俺のほうなんだよ?」

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