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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
炎の加護を受けた少年
40/119

閉ざされた部屋で、彼女は

 * * *


 閉ざされた部屋の中で、女は一人、ただくすくすと声を上げ笑っていた。とても楽しそうに、だが堪えることもできないのか、時折吹き出すようにして肩が揺れている。

 眠りにつく少年を前に、笑いが止まらない。

 これでようやく欲しかった物が手に入る。自分の物にすることができる。

 焦がれた日々はとても長かった。焦がれたところでどうにもできず、ただ指を咥えるだけの時間はもうすぐ終わりを迎えることになる。

 後少しだ。あと一歩で、あの力が手に入る。

 器にした少年には申し訳ないが、運が悪かったと思い、消えてもらうしかない。

 物事を成し遂げるためには犠牲など、つきものだ。心から欲しい物を手に入れるには、いちいち犠牲者になど構ってはいられない。

 本来もう少し小さな器であれば、すぐにでも中を食い尽くし、奴に身体を与えることができた。

 偶然覗き込んだあの少年が邪魔をしなければ、奴を思いのままに動かし、全てを自分の物にすることができたのに。あの少年さえ邪魔をしなければ、ここまで手を焼くこともなかったのだ。

 中途半端に妨害され、中身だけがどこかに飛んでいってしまった、中途半端に大きな器。

 中身がなければ、奴が満足しない。奴が思い通りに、動いてはくれない。

 だが偶然にも、その中身を見つけた。

 厄介なことに、炎の加護を授かった子供、光の加護を持つ男が傍にいたようだが。

 だが、いい。

 暗闇に浮かび、青白く仄かな冷たい明かりで地を照らす月のように、奴はじわじわとそこにある物全てを静かに侵食していくことだろう。

 誰に気づかれることもなく、ひっそりと眠るようにして、奪っていく。陣が完成し、中身が戻った時、それは始まる。

 女は手に持つ小瓶を眺める。中には大事な物が潜んでいる。中身が体に戻ってくることを待ち望む、彼女が閉じ込められている。

 誰もが聞いたことのない話だ。

 精霊を人間の手中におさめるなど、考えたこともない話。

 だから女はおかしくて仕方なかった。笑いが止まらなかった。妨害はあったが、自分の思い通りに話が進んでいる。

 さぁ、ここからが面白いところだ。

 自分達を見下した人間達に、力を見せる時が訪れる。

 忌み嫌われた子を産んだ女と見下され、災いを齎すために子供を産んだ女と見放され、異端な男を愛した女と侮蔑され。お前達が否定してきた人間は、素晴らしき力を手に入れて、もう一度その前に姿を現すことになるだろう。

 次に光を失うのはお前達だ。自分達が与えられた苦痛を、そのまま返すように与えてあげよう。

 女の前には、子供の姿があった。

 普通の人間とは違い、肌は浅黒く、髪は月に照らされた雪原のような白色に似た銀だ。

 瞳は金色に輝き、その視線は床に転げて眠る器に注がれている。

 この子供のおかげで、女は孤独な人生を歩むことになった。この子供のおかげで、大事な人を失くすことになった。この子供が、女の全てを奪ってしまった。

 捨てるのは簡単だった。手放してもよかった。

 だが女は傍に置いたままだった。

 なぜならこの子も、女の考える道には必要不可欠な存在だったからだ。

 愛など無い。腹を痛めて産んだ子などという建前など、どうでもいい。そんなものは関係ない。

 この子供は道具だ。自分の描く未来に必要な、ただの道具。だから生かしているだけ。

 本人は気づいていないだろう。誰かを頼らねば一人で生きていくこと等できない、か弱き子供なのだから。

 女は笑った。おかしくて、堪らず笑った。

 後はあの体から中身を引きずり出し、器に戻すだけだ。

 もう少し。あと、もう少し。


 微笑む女の顔を、満月の瞳が見透かすように見つめていたことに、彼女もまた、気づいていない。

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