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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
炎の加護を受けた少年
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前向きになれたのは良いことで

 俺はといえば、大興奮だ。

 実際初めてヴァーミリオンの力を目にしたから、というのもあるかもしれないけど、それでも本当にその力はあいつそのものを表したような能力だったんだ。

 ヴァーミリオンの力は、炎。

 紅い髪の毛に、紅い瞳、服までちゃっかり紅い色をメインにしていて。なんということは無い。あいつが炎そのままのイメージなんだ。だから余計その力を見て、俺はなんの違和感もなくしっくりと感じ取ることができたのかもしれない。

 大体予測がついていたかといえば、ついていた。

 ほら、前に執事さんがヴァーミリオンの力を、我々を守り抜く熱き炎とか言ってたことがあっただろ? 本人は濁していたけれど、そのままの意味だったんだなぁ、と今になって思い返す。

 俺にとっては恐れるものでも、なんでもなかった。むしろ心強いものじゃないか。

 この世界の人達はその魔法みたいな力に、怯えすぎなんじゃないかと思う。過剰に反応しすぎっていうかさ。その力を逆手に人々を脅かすような存在がバックにいるのだとしたら、話は別だけど。

 俺はゲームとかアニメとかそっちで耐性ついちゃってるから、余計なんとも思わないのかもしれないけどな。特にゲームの世界では魔法なんて当たり前のように使ってたし。攻撃魔法はもちろんのこと、回復に、補助に、召喚魔法まで。

 どう考えても怖くはない。恐ろしくもない。魔物を退ける力に頼もしさしかない。

 俺は広場に目を向けた。


「……そういえば、さっきの子は無事だったのかな」


 助けるためとはいえ、強く突き飛ばしてしまった子供のことを思い出す。

 周囲を見渡してみるけど、あの褐色肌の子の姿はどこにも見えなかった。逃げることができたならそれでいいんだけど、モンスターに襲われたショックでトラウマになったりはしていないだろうか。声をかけて気遣えれば良かったんだけど、姿が見えないなら仕方がない。

 住人は住人で、モンスターがいなくなったにも関わらず建物の陰から出てこようとしないし。むしろ遠巻きにこっちを見てひそひそと陰口を叩いているみたいだ。

 なんか感じ悪いよなぁ……。

 ヴァーミリオンもガウェインさんも、住人達に迷惑をかけるような事は何もしていないのに。守ってくれたのに、その仕打ちはないでしょう。

 俺は無意識に顰め面をして、舌打ちをしていた。


「そんなことばかりしているから二人が傷つくんだよ。二人が助けてくれなかったら、どうなってたと思う? 今頃この辺り一帯スライムに食われて、更地にされてるところだ」


 だけどそんなこと言ったって、きっとこの街の人達には何も通じないんだと思う。差別的なのはどの世界でも共通だなぁ。みんな仲良くできたら理想的なんだけどなぁ。理想は理想でしかない、ってか。自分で考えといてアレだけど、悲しいよな。


「おい、帰るぞ」


 複雑な心境で辺りを見回していると、ヴァーミリオンが声をかけてくれた。

 なにか腑に落ちないところもあるけと、俺一人がどうこう言ったって仕方がない状況なんだ。一人前のヒーローなら、そこをなんとか説き伏せてしまえる程の説得力もあるんだろうけどな。その辺りは俺ってホント力不足。どの世界でも影響力が皆無というか、小さすぎる存在だよな。


「なにをボケっと突っ立っている」

「自分の無力さに足から沈みそうになっていたところです」

「またそんなくだらないことを考えていたのか。お前が戦力にならないことは初めから知っていたろう。自分にもなにかできると勘違いしてここへ来たのか」


 うぐ、と言葉が詰まる。

 俺みたいなのが何かできるわけじゃないことはここに来る時点で理解していたさ! でもさぁ、お前もストレートに言う奴だよなぁ、と俺は肩を落とす。

 もうちょっと気遣うことを知ってほしいよな、オブラートに包むとか。せめて言葉を選ぶとか。……そんなことを思ってみたりもして。


「お前は戦力にならない。でも、俺にとっては良いきっかけになった。お前のおかげで、少しばかり前を向いても良いと思うようにはなれた。そう考えれば、完全な役立たずとまではいかなかったな」


 思いがけない言葉を耳が拾い、俺はその場で固まる。

 は? と彼の顔を見て、もう一度フリーズしてしまう。

 妙に清々しい顔をしているヴァーミリオンに、首を傾げてしまった。頭に浮かぶのは、ハテナばかりだ。


「……俺、なんかしたっけ?」

「した。お前に諭されるのは正直腹が立つが、いや、かなり癪に障るが。でも、考えを改めることができた。お前のような変わった人間がいるのも、悪いことではないと思った」


 ぷい、とヴァーミリオンはそっぽを向いてしまった。でも口角が僅かに上がっている様子を見ると、機嫌が急降下しているわけではなさそうだ。不機嫌なように見えて、実は照れている……?

 ま、まぁ、よくわからんが前向きになれたのは良いことだ。


「だが最後に一押ししてくれたのはシアンだがな」


 前を向いたのはいいが、だが悪態をつく生意気っぷりは健在だった。

 ここにもっと可愛げがあればな! 俺も複雑にはならないんだけどな! 持ち上げといて叩き落としにかかるって、ひどい奴だよ!

 ぶぅっと拗ねたように口を膨らませ、唇を尖らせれば、ヴァーミリオンは笑った。声を出して笑った。肩をくつくつと揺らし、それは楽しそうに笑った。しまいには手で腹を押さえている。

 普段笑ったことの奴が、目尻に涙を浮かべながら笑っているなんて。そのうち地面に倒れて笑い転げるんじゃないかと唖然としそうになりつつも、俺はお返しとばかりに、皮肉をこめて言ってやった。


「……明日は大雪が降るな、こりゃ。いやいや、嵐の間違いか? 赤ちゃんが妙に笑う日は天気が崩れるって言うしな。似たようなもんだな」


 どうだ、と見返してやれば、目を細めてこちらを凝視する赤い瞳とぶつかって。


「……なんですか」

「笑えば可愛げがあると言ったのはお前だろうが。忘れたとは言わせんぞ」


 素っ頓狂な顔をすると、ヴァーミリオンはむっと一気に眉根を潜めた。あ、これは少しばかり機嫌が降下した時の表情だ。

 俺は首を傾げたまま、腕を組んで考えてみる。

 そんなこと、言った……ような気も、しなくはなかった。

 たぶん言ったとしたら、初めての朝練の時だよな? あの時お互いの頬を引っ張り合って、憎まれ口を言った時に思わずぽろりと口から出ていった言葉。

 まさかそんなことを覚えていたのかと、俺は驚いた。


「……あー。もしかして、気が変わってモテモテの人生を歩みたくなった、とか?」


 そう言えば、ヴァーミリオンの鉄拳が俺の頭めがけ振り落とされた。

 ごすん、とそれは見事に脳天をとらえ、目の前に星がチラついたような気がした。

 いでぇっ、と悲鳴が漏れ、殴られたところを押さえながらその場にしゃがみこむ。

 にゃろう、加減もせずに本気でゲンコツしやがったなー! 口は災いの元、余計なことを言うんじゃなかったと俺は後悔する。

 ズキズキと痛む箇所をさすっていると、傍にシアンさんが駆け寄ってきてくれた。


「お疲れさま、ウェインくん。いや、一時はどうなることかと焦ったよ。怪我もないようだし、ほっとした」

「シアンさん。……ガウェインさんは?」

「ガウェイン殿はもうフォルトゥナ卿の元へ戻っていったよ。ヴァーミリオン様が君を助けたところを見届けた後、すぐにこの街から離れたはずだ。長居するには適さない場所のようだと危惧していたからな」


 そう言って視線を移した彼女が見つめるその先には、街の住人達の姿があった。

 モンスターもいなくなったし大喜び、なんて雰囲気は到底なく、未だこちらを怯えた目で見つめているようだ。

 変わらず感じの悪い人達だ、と隠せずに重い溜息を吐き出してしまう。悪く言えば救いようがないというか、なんというか。


「気にするだけ無駄だ。気にして奴等がその考え方を改めるぐらいならば、とっくに改善されている。なんせ子供相手にも容赦のない心の狭さなんだからな」


 ヴァーミリオンは来た時と同じように、いつの間にか鞘から抜いた剣を大きく振り上げ構えていた。

 スライムの破片を掃除する時も剣を使ってたけど、上手く力を込めやすいとか、そういうものがあるんだろうか。手に馴染んだ武器であればその方が使いやすい、とか。魔力を流しやすい、だとか。とにかくここから直接屋敷に戻るつもりなんだろうけど。

 しかし、そんな怯えるような人達の前で瞬間移動なんて、していいもんなのかな。それこそ色々噂されるような気がする。

 俺はもう少し人目を忍んだ方がいいと思うんだけどな。


「……なぁ」

「なんだ」

「こんなところで魔法なんて使っていいのか? 更に怯えさせるだけだし、また言われちゃうんじゃないか。お前はそれでいいのかよ」

「だから気にしすぎだ。この力を持つ以上勝手に噂は流れていくし、どこの家の子か、なんという名前か、どんな力を持つのかはこの国にいる者なら誰でも知っている話だ。例外にお前がいたけどな」


 ヴァーミリオンはまた意地の悪い笑みを浮かべながら余計な一言を付け足した。

 この世界の人じゃないから知らないんです、とは俺も声を大きくして言えないけど。

 そういえば、と考える。

 ウェインの両親はヴァーミリオンのことを知っていたんだろうか。特に嫌がる様子もなく、喜んで俺を家から見送っていたようだけど。姉さんも清々しい顔をしていたし、な。

 気になるけど、今となっては聞くに聞けない話だ。

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