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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
炎の加護を受けた少年
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足でまとい、自分の身の丈

「すみません、貴方にしか対処できない問題です」

「わかった。すぐに向かう」


 ヴァーミリオンはもう俺の方を見向きもせずに、食堂から出ていってしまった。

 どこに行くんだろう、今から着替えてくるんだろうか。そんな悠長なことをしている場合か? 手遅れになる前に早く街に向かわなければいけないと思うんだけど、ここから馬車にでも乗って向かうのかな。

 街までどのくらい時間がかかるんだろう。偶然話を聞いてしまった俺の方が気掛かりで仕方ないんだが。

 そわそわしていると、シアンさんが傍にやってきた。


「……ウェインくん」

「ん、大丈夫。俺が行っても足でまといにしかならないから、ここで待ってるよ。それぐらい空気が読めるというか、なんと言いますか」


 シアンさんが気遣うように声をかけてくるけど、自分の身の丈ぐらいわかっているつもりだ。俺が行っても、邪魔にしかならない。

 それにヴァーミリオンが力を使えば何も心配する必要なんてないと思うんだ。あいつ、強いしな。自分の力を受け入れてなくても、それでもやる時はやる子だ。

 俺は天井を仰いだ。


「……いや、君にもついてきてほしいんだ。実際にその目で見て、受け止めてほしい。あの方の力を」

「……え、でも俺が行けばヴァーミリオンの集中を妨げることになるかもしれないよ? さっきだって、また口論になったぐらいだしさ。あいつだって、ついてきてほしくはないと思うよ」

「いや、君達にはそろそろいいタイミングだと踏んでいる。だが無理強いはしない。もちろん君さえ良ければ、だが」


 シアンさんが返事を待っている。

 そんな風に言われてしまったら、俺には断る選択肢なんてない。邪魔だと言われたならまだしも、逆についてきてほしいだなんて言われたら拒否なんてできないだろう。

 ただ、ヴァーミリオンがなんて言うかはわからないけれど。俺の前じゃ力を使いたくないとか言い出したらどうしようって思うし、怪我でもしたらお前のせいだなんて言われそうだ。そんなことがあれば俺の立場がなくなってしまう。

 でも、見たいといえば見てみたい。彼がどんな力を使うのか、他の人が恐ろしいと怯えるその力が、どんなものなのか。


「……ヴァーミリオンが来るなって言ったら、やめておくよ?」

「言わないよ。むしろあの方は自分の力を君に見せたいと考えているはずだ。そしてきっと、この男も他の人間と変わらなかったと、勝手に思い込もうとしているに違いない。私にはわかる」


 シアンさんが俺の肩に手を置く。


「君は私の影に隠れているだけでいい。だが、見届けてほしいんだ。彼の力を。君にとって、その力がどのように映るかを」


 その真剣な眼差しにはヴァーミリオンへの強い想いが込められていて。

 俺は頷いていた。頷くことしかできなかった。

 ヴァーミリオンの騎士となる者なら、きっとここは避けて通れない道だと思って。いや、通らなきゃいけない道なんだ。あいつの事を知るためには、絶対に。素通りは、許されない。


「シアン」


 支度を終えたヴァーミリオンが入口に立ってこちらを見つめていた。

 腰には剣を下げ、彼を象徴するような紅い革鎧を身に纏い、俺とシアンさんに目配せをしている。

 シアンさんには「早く片付けるぞ」、俺には「貴様も行くのか」と目で問いかけている。


「ウェインくん」

「……はい」


 シアンさんに背を押され、俺はヴァーミリオンの後を追うようにしてついていく。

 影に隠れているだけでいいと言われた割りには、俺の体には緊張が走り抜けていた。直接戦うわけでもないのに、おかしいよな。緊迫した空気が緊張感を高めているのかもしれない。

 ふと、ヴァーミリオンの背が目に入った。

 目の前を歩く少年はどんな気持ちで街に向かうのだろう。やっぱり、面倒くさいとか、仕方ないからさっさと片付けようとしか考えていないのだろうか。

 相変わらず自分の力と向き合おうとはしていないのかな。

 もし俺が彼の立場だったらどう思うだろう。

 特殊な力が使える分、それこそ正義のヒーローになりきって剣を振りかざすのかな。俺にしか倒せないんだから俺が倒すしかない、俺がやってやる、って自分の力を驕ってさ。


「……」


 自分で考えといてなんだけど、そんな人にはなりたくないと思った。そんなヒーロー、誰も望んでいないし、俺も望みたくない。

 というか、負けフラグが立っているようにしか見えないんだけど。俺がやるしかないって勝手に自分で自分を追い込んでいるし。

 真剣に考え込んでいると、ヴァーミリオンが急に鼻で笑った。


「……?」

「なぜお前がそんな顔をしている。まるでお前のほうが今から戦場に赴くような面持ちだな。意味がわからん」

「うーん、色々考えてたんだよ。俺なりに」

「考える必要もないだろう。戦うのは俺だ」


 そりゃそうなんだけどさ。身も蓋もない言い方だなぁ。


「俺がヴァーミリオンだったら、今からどんな気持ちで街に向かうのかなって考えてたんだ。でもさ、よくわからなかった。俺じゃ負けるフラグしか立たない」

「当然だ。お前は俺じゃないからな。俺の気持ちは俺にしかわからない。それにお前のようなへっぴり腰で敵に勝てるわけがない」

「いや、うん、そうなんですけどね! それ言われたらおしまいなんですけどね! って、そうじゃなくてさぁ! ていうかあの時のことまだ覚えてるのかよ!」

「見ればわかるだろう、きっと。……無駄話はここまでにして、行くぞ」


 玄関先に迎えでも来てるのかと思い、そのまま飛び出していこうとすると首根っこをヴァーミリオンに掴まれ、引っ張られた。

 うぐ、と息を詰まらせた俺は尻餅を着くと同時に床にひっくり返る。

 わぁ、恥ずかしい! シアンさんの前でカエルみたいな格好をさせないでくれよ、緊張感の欠片もない!

 なんだ、と顰め面でヴァーミリオンを睨めば、彼はいつの間に鞘から抜いたのか剣を掲げていて、それを俺に向かい突き刺そうとしてた。


「えぇっ、ちょ、いくら俺のことが気に入らないからってそれはないだろ……! そこまで俺のこと嫌い!? 剣を向けちゃうぐらい俺のことが嫌い!?」

「貴様……ここからは余計な口を挟むなよ。いいか、決してこの先はお遊びの場ではない。油断をすれば命を落とし兼ねない危険な場所だ」

「そ、れは……わかってるつもり、だけど」


 だからといって人に刃を向けますか、普通! 子供の頃習わなかったのかよ、カッターやハサミの先を相手に向けてはいけませんって! あ、今まさにその子供なんだけどさ!

 体をがくがくぶるぶる震わせていると、ヴァーミリオンが構うことなく俺の真横に剣を突き刺した。

 ひゃあああ! と声にならない叫びを吐き出すと同時に、地面には真っ赤な魔法陣が描かれていく。

 なんだ、これ……! よく魔法使いが召喚魔法を使う時なんかに表示されるアレに似ている気がする。ロールプレイングゲームで見たことがあるぞ。剣を突き刺しただけでどうしてこう展開されていくんだろう。どんな仕組みだ?

 これもヴァーミリオンの持つ特殊な力の一つなんだろうか。魔法陣は俺達三人を囲うようにして描かれ、光を放つ。

 唖然としていると、またヴァーミリオンが俺の首根っこを掴み、後ろに引っ張った。


「ふぐぅ……!」

「はみ出すな。別の場所に飛ばされるぞ」


 別の場所ってなにそれ、と訊ねる前に、視界が一点した。ほんの一瞬の出来事だった。

 瞬きをすると同時に、さっきまで屋敷にいたはずの俺達は見知らぬ道のど真ん中に立っていた。

 え、ここどこ? 困惑した様子でヴァーミリオンとシアンさんを見上げれば、二人の視線はすでに先を見ていて。俺の方を見向きすることもなく、二人は円陣から駆け出していった。


「……え?」


 状況が掴めない俺はパニックを起こしかける。

 走る二人の背を見つめながら、ただぼけっとその場に尻餅を着いたまま動けない。

 ま、待って。どこに行くつもりなの? 状況は? 説明は?

 そう声をかけようにも、二人はどんどん先へ進んでいってしまう。


「ど、どういうこと? え、どこ行くの!? 一言も説明がなかった……!」


 置いてきぼりにされた俺はどうしたらいいかわからず、ただおろおろとするばかり。だがここに一人放置されるのはまずいと、それだけは直感的に感じる。

 兎にも角にも、二人の後を追うようにドタドタと走り出す。

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