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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
炎の加護を受けた少年
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ワンプレート朝ご飯

 シアンさんが、あんぐりと口を大きく開けて呆けている。

 この反応はもはや呆れているのだろうけど、俺の瞳の輝きは増す一方だ。

 異世界での、俺にとっての背中を追うべきヒーロー的存在。

 今度会った時は、ガウェインさんの武勇伝を直接聞いてみよう。いや、聞いてみたい。どんな理由で戦って、どんな敵を相手にし、どんな結末を迎えきたのか。知りたい。話を聞きたい。

 遠くまで任務で出掛けていると言っていたし、それなりの場数を踏んできたに違いない。

 今度ガウェインさんに会うのが楽しみだなー! むしろ今別れたばかりだけど、早く会いたいなー!


「……ウェインくん、まさか本当にガウェイン殿の騎士になるつもりでは」

「えっ!? いや、違うよ! 憧れてはいるけど、それとこれとは話が別だよ!」

「ヴァーミリオン様の騎士はもう君しかいないんだ……。確かにガウェイン殿の器の大きさ、騎士としての力量は私も目を見張るものがある。君が憧れてしまうのもわかるような気もする。だからといって彼に君を任せるわけには……」

「え、え……? お、落ち着いて、シアンさん。俺、そんなこと言ってないってば!」

「せっかく私が見つけた唯一の人材をガウェイン殿に奪われるわけにはいかない……。例えウェインくんが彼に憧れていようと、私がそれを許すわけには……!」

「人の話聞いてないよね!? シアンさん、しっかりしてよ! ねぇ、シアンさん!」


 素振りを続けるわけにもいかず、シアンさんに話を聞いてもらうためになんとか声をかけ続けていたら、時間はあっという間に食堂へ向かう時刻へと針を進めていた。


 俺はガウェインさんのこともあり、るんるんと浮き足立ったまま食堂へ行くと、食卓の上にはまた美味しそうなワンプレート朝ごはんが用意されていた。

 あっちの世界で言う、カフェで食べるようなお洒落な朝食だ。

 バターがたっぷり乗った二切れのトーストと、ポテトサラダ、カップには野菜がたくさん入ったスープが皿の上にワンセットとなって乗せられている。隅にはミントのような葉が添えられていて、俗に言うインスタ映えする素敵な朝ごはんだ。

 スマホがあれば写真を撮ってネットに載せたくなる一品だよなぁ。ネットもない時代でお見事です。


「相変わらずお洒落な盛り付けだね……! お金を払って食べるご飯だよ……すごい」


 いただきまーす、と両手を合わせてこんがりと焼いたトーストを頬張れば、バターの染みた部分がしっとりとジューシーで、噛めば噛むほど旨みが溢れ、俺の口の中に幸せがいっぱい広がっていく。本当に美味しい。じゅわりとした効果音付きだ。

 生粋の日本人である俺は米が懐かしくて、むしろ朝食は米しかありえないと思っていたけど、こっちの世界であればパンでもいける。

 この世界の、特にこの屋敷のパンが美味しすぎるんだと思うけどさ。


「ねぇ、執事さん。このパンって、ここで作ってるの?」

「いやいや、まさか。馴染みの店がありまして、毎日そこで仕入れてくるんですよ。美味しいですか?」

「うん、すごく美味しい。こんなに美味しいパン、俺は初めて食べたかも。驚いたよ」

「そうですか、ありがとうございます。パンを作っている店主に伝えておきますね。喜びますよ」


 いや、本当に毎日ありがとうございますって感じ。

 給与を貰えるようになったら、絶対にこのお店に行きたいって思う。パン屋さんなら、他にも色々な種類のパンが置いてあるんだろうなぁー。

 ここ最近お菓子を食べていなかったので、なにか甘い菓子パンが食べたくなってきていたのである。コロネとか、ミルフィーユサンドとか、メロンパンとか。

 本音を漏らせばチョコが食べたいんだけど、この世界にあるかもわからないし、あったとしても高級だったら手を出せないし、執事さん達にお願いするわけにもいかないしで、なにかと困っていたりする。

 この世界の物価の相場がわからないから、いつか買い物に出掛けたりもしてみたいな、なんて思ったりしていて。

 機会があれば街に足を運んだりしたいんだけど、と考えながら口をもぐもぐと動かしていると、ドアをぎぎ、と静かに開ける音が聞こえてくる。

 静かに開けようとしているつもりだけど、残念ながら音が外に漏れてしまっている感じに、怪しさ全開だ。

 なんだ、と入口の方を振り向くと、ヴァーミリオンが顔を半分覗かせていた。

 珍しいことだ。彼が食堂に姿を現すなんて。

 いつもは部屋に閉じこもって一人で食事を済ませるヴァーミリオンが、考え方を改めここで食べようとしているんだろうか。

 朝練でケンカして以来顔を合わせていなかったから、実に一週間振りだ。

 俺は敢えて気づかぬ振りをして、スープを口に含んだ。茶化せばまたケンカになるだろうし、下手に自分から声をかけて機嫌を損ねさせても困るし。触らぬ神に祟りなし、だ。

 食事を続けていると、ヴァーミリオンがわざわざ俺の隣にやってきた。嫌な予感しかしないが、それでも目の前にある朝食から視線を逸らさずにカップに口をつけていると、咳払いをする声が聞こえてきた。

 嫌だなぁ、こういうの。変に圧力をかけてくるなよ。俺、まだ朝ご飯の途中なんですけど……。


「……なにかご用ですか、ヴァーミリオンさん」


 仕方なく声をかけると、彼は鼻を鳴らした。


「おかしな臭いがすると思ったら、どうやら原因は貴様のようだな。この屋敷に異臭を持ち込むとは、一体どういうつもりだ」

「……は? 異臭?」

「臭うぞ。臭いを辿ってきたら、ここに着いた」


 臭いって、え、俺の体臭ってこと?

 最近毎日風呂に入ってるし、顔も体も頭も清潔にしているからだいぶ以前の、ヴァーミリオン曰く豚小屋のような臭いは消えたと思っていたんだけど。俺ってまだくさかったのかな。

 みんなが口に出さないだけで、実は酸っぱい臭いを漂わせていたとか!? え、もしかして今もぷんぷん放出させてるの!?

 堪らず俺は自分の腕の臭いを嗅いだ。


「……貴様、なにをしている」

「だって臭いんだろ!? だったらもっと早く言ってくれよ! 自分ではもう体臭は消えたと思ってたんだけど!!」

「は?」

「やだやだやだ、シアンさんも執事さんもメイドさんも誰も言ってくれないんだから! 恥ずかしいなぁ、もう! あ、もしかしたらガウェインさんまで気遣って黙っててくれたのかな!? うへぇ、そりゃまずいって! あんなに近づいておいてさー!」


 ぴくり、とヴァーミリオンの眉が動いた。

 俺はそのちょっとした変化に気づかずに、反対の腕の臭いを嗅ぎ始める。でもやっぱり体臭というのは自分では全くわからないもので。

 続けて襟元を引っ張り、服の中に鼻を突っ込んで嗅いでみるものの、俺にはどうも無臭にしか感じない。

 豚小屋みたいな臭いなんてしないと思うんだけどなー。臭いを嗅ぎすぎて鼻が段々スースーして痛くなってきたぞ。


「……その男か」

「はい?」

「その男の臭いがこの屋敷に広がっているのは、貴様の仕業か。なぜ貴様がアイツのマナを吸っている。頭が痛くなる程の異臭だ」

「異臭って……。ガウェインさんは俺が倒れたところを看病してくれたの。マナが空っぽで死にかけてた俺に、自分のマナを分けてくれて」

「マナが空っぽ……?」


 ヴァーミリオンが、すっと目を細めて俺の体を見つめる。


「幽霊のような男だとは思っていたが、まさか本物だったとはな。マナが空っぽの人間など、この世界には存在しない。しかも魔力を使えないくせに空っぽだなんて、面白おかしいにも程がある。貴様、一体何者だ」


 どき、と心臓が跳ね上がり、俺は言葉を詰まらせる。

 何か確信めいた発言に、嫌に心拍数が上がり、胸がぎゅっと締めつけられる。

 だから、朝ご飯中に止めてほしかったんだけど。せっかくの美味しいご飯が、なんていうか、手をつけられなくなる。

 幽霊だとか、そんな人間はこの世界に存在しないだとか、俺が一体何者かなんて、図星を突かれた時と同じで返答に困り果ててしまう。答えられない。答えを知らない。

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