表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
知らない世界、知らない家族
12/119

突然の旅立ち

 うろうろすること数分、結局俺は家に帰ることにした。

 噂を聞きつけた騎士がどうして俺に会いに来たのかはわからないが、このまま散歩を続けていても、気になりすぎてどうも集中できそうにない。

 彼女は父さんと母さんに会いに行ったみたいだが、一体何の用があるんだろう。

 そろり、と玄関から家を覗き込むと、ちょうど外に出てこようとした騎士と鉢合わせになってしまった。


「あぁ、ウェインくん」

「っ、ど、どうも……」


 まだ話し込んでいると油断していた俺は驚き、心臓が一気に跳ね上がる。別に盗み聞きしようとしていたつもりではなかったのだが、彼女にはそう見えてしまったのではないだろうか。

 はぐらかすように曖昧に笑い、ぺこりと軽く頭を下げる。


「ご両親には話をつけたよ。昼にはここを発つから、なにか必要な物があるなら持ってくるように。衣類や生活用品はこちらで揃えている物を使ってもらうから、心配はしなくてもいい」

「……はい?」

「今のうちに家族と別れを済ませておくといい。それにここには君の友人もたくさんいるだろう。挨拶を済ませたら入口までおいで。馬車を用意してある」


 話が見えないとはこのことである。家に帰ってきたばかりの俺に、昼にはここを発つとは一体何事か。

 だからなぜこの世界の人達は自分の言いたい事を伝えるとそれで終わりなんだ。一から説明してくれなければ俺なんて理解もできず、ちんぷんかんぷんである。

 すると騎士の後ろから目尻に涙を浮かべた母さんが飛び出してきて、俺の体を力いっぱい抱きしめた。

 抱きしめられた瞬間、またあの酸っぱくてキツイ体臭が周囲に散ったような気がするが、どうだろう。騎士は平然としていて、臭いなど全く気にしていないようだった。流石だ、動揺もしていない。


「あの、母さん……一体何事? 俺、今の自分の状況が全く把握できてないんだけど。出来れば説明してもらえたら助かるなぁ、なんて」

「ウェイン……あなたが家からいなくなるのは寂しいけれど、きっとこれが夢への第一歩なのだと思っているわ。あなた、騎士を目指していたものね。母さん、応援しているから。頑張ってくるのよ」

「は? いや、だからそれ一体どういうこと?」

「騎士の方がわざわざ遠方からウェインを迎えに来てくれたのよ。あなたを騎士の候補として、向こうのお家で迎え入れてくれるんですって。よかったわね」


 はい!? ますます意味がわからないんですが……! 騎士の候補で、向こうの家が迎え入れるって、どういうことなんだ!?

 先程も言った通り、俺の中の騎士のイメージは、お城で王様やお姫様を守る重要な役割を担っていて、鎧を纏った強くてかっこいい人という印象が強かったんだけど。

 騎士になるにはまず面談、実技の試験を受けて、合格した者だけが見習いとして宿舎に移り、何年も訓練を重ね、ようやく団に所属するという過程が自分の中では成り立っていた。この世界ではその概念すら違うということか。なんだか混乱してきたぞ。


「……騎士って、お城で仕事する人じゃないの?」


 怪しまれない程度に、情報を聞き出そうと訊ねる。


「それは聖騎士でしょう? 騎士は自分が主と認めた人に対して忠誠を誓い、一生傍で主を護り続ける護衛のことよ」

「は……はぁ?」

「騎士、と言うよりナイトと呼ぶほうが我々の中では一般的だな」


 俺と母さんの会話を聞いていた騎士が割り込んでくる。


「ご両親から聞いた話によれば、なんでも君はフォルトゥナ学園に入園し、騎士道精神を鍛えたいということだったな。ならばこの話は君にとって、最大のチャンスになるのではないか?」

「ふ、フォルトゥナ学園? 騎士道精神?」

「フォルトゥナ家の力となってくれるのならば、我々も全力でサポートしよう。フォルトゥナ学園はフォルトゥナ家が運営する場だからな。制服や学用品も全てこちらで用意するし、学費も無料で提供する。ウェインくんが生活するにはなんの問題もないだろう?」


 俺の知らないところで、俺の知らない話が勝手に進んでいっているような気がする。というか、勝手に進んでる。当の本人は置いてきぼりで。

 転生させるならさせるで、やっぱり記憶も全てウェインのものを頭に叩き込んでほしかった。

 知らない単語や、騎士への概念が理解できなくて、果たしてどう対応したらいいのか、俺は喜ぶべきなのかどうかもわからずに、ただ流されることしかできない。

 そして荷物という荷物も持たずに、むしろ手ぶらの状態で俺は馬車に押し込まれてしまったのだった。友達と呼べる友達もいなかったし、俺はまだそんなにも家族に感情移入できていなかったし、別れらしい別れは特に何もなく。

 でも姉だけが妙に清々した顔をしていた事だけは、よく覚えている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ