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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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居場所を与えようとして

 俺はきょとん、とヴァーミリオンを見つめた。

 どこにいたか。自分がどこに捕らわれていたか、だって? えーっと、どこだっただろう。

 一瞬、考えてしまった。脳裏に過ぎったのはもちろん学園の中、なんだけど。

 目が泳いだところを、ヴァーミリオンが見逃すはずもない。ただ、俺もハッキリとした答えを知るはずもなく。

 だってこれは単なる憶測でしかないんだし、伝えたほうがいいのか?

 ヴァーミリオンは話さなきゃ許さんとばかりに目で威嚇してきているみたいだけど。もしやこいつ、俺を目で殺そうとしているのか……? そうなのか?


「俺も結界の中に捕まっていたし、正確な場所まではわからないんだけど、ただアディは学園の中って言ってた。その後はルナと一緒に瞬間移動して逃げ出したし、結局どこにいたのかわからずじまいだよ。俺が知る限り、学園っていったらフォルトゥナ学園しか知らないんだけど。他にもあったりするのかなぁ?」

「学園の教師だというならば、そこしかないだろう。女は学園で住み込みで働いていると聞いていたしな、間違いない」

「住み込みなのか!? そんなこともできたりするんだ!?」

「街で住む場所を見つけられなかったのだろう。それに、いつ周囲に危害を与えられるかわからない。父様の考えそうなことだ。お人好しで、本当に……」


 確かにあの街の人達の様子を見れば、暇さえあれば罵声を浴びせて石を投げつけかねない。フォルトゥナ卿はそれを危惧して、アディ達を学園に招き入れたんだろうか。俺もあんなところで暮らせって言われたら、命の心配をしてしまうかもしれない。

 でもその場合、母親というよりも、アディの身を案じているようにも思える。

 同じ子供を持つ親として、せめて居場所を与えようとしてくれていたのかもしれない。親は生きる術が見つけられるけど、子供はまだ無力だから。フォルトゥナ卿も、そこはわかっていたんだろう。


「でもそんな父親のことが、好きなんだろ?」

「……まぁな。嫌われていたわけではないから、俺は余計父様に懐いていたところがある。居場所をつくってくれたのも父様だからな。だが母様は」

「うん」

「……母様は、苦手だ。それに、兄様も」


 ヴァーミリオンの顔が悲しげに歪んでいく。

 今まで父親以外の家族の話は聞いたことがなかったけれど、だけどその表情から察するに、以前の考察が実は的を得ていたのかもしれないと俺は思う。本当はあまりそうであってほしくなかったんだけど、な。

 親の、愛情不足。そして周囲からの評判を気にして、子供を手放してしまった。

 ヴァーミリオンが加護を受けてしまったばかりに、弟の分まで兄に愛情を注いでしまっている可能性もある。お兄さんのほうも、弟の影響で周囲に冷たく当たられたりしてるのかな……。

 でもそう考えると、ここまで性格が捻くれてしまう理由もわかる気がした。


「やっぱり、俺が考えていた以上にお前のほうは深刻だったみたいだ。小さいのに、よくこの状況に耐えていたな」


 可哀想。

 そう言えばヴァーミリオンは怒るだろうけど、だけど母親の愛情を受けられずにこの広い屋敷に一人で暮らすコイツの心情を思えば、俺はただその頭を撫でてやることしかできなかった。会った当初なんか、まだ十歳だったんだもんな。

 ヴァーミリオンは驚いたように目を丸くしていたけど、俺は構わずわしゃわしゃと頭を撫でてやった。

 アディも、そうなんだろうか。アディもヴァーミリオンと同じように、母親が苦手だと思ったりしているのかな。

 アイツも母親に厄介者として扱われていたことを覚えてる。アディの場合は母親に褒めてもらいたくて、その言いなりになっているようにも見えたけど。

 やっぱり認めてもらいたいのかな、自分の存在を。ただ一言褒めてもらえたら、それで満足かもしれないのに。自分の力をいいように使われて、そのためだけの存在だなんて。


「……お前のような男が、兄だったら良かったのに」


 ヴァーミリオンが小さく呟いた願うような言葉は、残念ながら俺の耳には届かなかった。


「え? なんか言ったか? 悪い、考え事してた」

「っ、な、なんでもない! そ、それよりもいつまで人の頭を馴れ馴れしく触っている! やはりお前と話していると本題から脱線していってしまう! 話の腰を折るなよ!」

「あー、いや、ごめんごめん。つい、出来心で。お前もお前で、そんなに小さいのにどこまでも苦労してるんだなって改めて感じてさ。いつか胃に穴があくんじゃないかって心配しちゃうよ」

「……同情はいらんぞ」

「してないってキッパリは言えないけど、でもお前のプライドのことを考えたら同情するのはいけないって思うよな。無駄に鼻が高い子供になっちゃって。そこが折れたりしないかも不安になるよ、俺は……」


 瞬間、ひくりとヴァーミリオンの頬が引き攣ったのを俺は見逃さなかった。これ以上この話を続けると、またヴァーミリオンの怒りが火山のように噴火してしまうことだろう。

 別に嫌味で言ったつもりはないんだけど、ヴァーミリオンはそう捉えてしまっているのかもしれない。

 違う話題に変えなきゃいけないとは思いつつも、そこはやっぱりアディの話から脱線していったらおかしいだなんて思われたりするんだろうか。でも他に話すようなこともないしなー。

 そもそもこうしているのも早朝から俺の生温い覚悟が許せずにヴァーミリオンが怒ったことが発端なんだから、ここからは自分の身を考えてトレーニングでも始めてしまったほうがいいのかもしれない。無駄に時間を過ごすよりは有意義だと思える。

 だけど敵のいる前でトレーニングをするだなんて、集中できるか? アディのことだから、いつ、どこで俺の行動を読んでいるかもわからない。すでになにかしらの力を使って聞き耳を立てている可能性もあるしな。

 部屋で月の加護を受けるためにじっとしているのも落ち着かないし、俺はすでに使用人なんだから仕事もせずにブラブラしているのもおかしな話だ。

 ならヴァーミリオンのために動いたほうがいいんだろうか。だけど、何をする? こんな状態で、一体なにを。あぁもう、アディの登場で色々狂ってきちゃうな。

 うーん、と悩むものの、なかなか答えを導き出せない。


『……やはり、油断はできません。してはいけない』


 ルナがぽつりと呟いた。

 また自分に言い聞かせるようにしていて、不思議に思った俺が彼女のほうへ視線を向けると、ルナは難しい顔をして肩を落としていた。

 一体なにが油断できないんだろう。アディのことだけでもいっぱいいっぱいだっていうのに、さすがにまた揉め事が起きたら頭がパンクしそうだ。

 ヴァーミリオンは黙ってルナを見つめていた。


「油断できないって、なにが。アディがここにいるってだけでも油断できないのに、これ以上どうしろって」

『なにか、胸騒ぎが続いています。先程感じていた嫌なものはアディさんだと思っていたのですが、それとは他に違う気配を感じました。地面に潜む土竜のように静かに動いているようです』

「もぐら、って……。また、なんだそれ。もう俺の想像が追いついていかないよ」

「それがわかるなら月の精霊も苦労はしないだろう。嫌なものは嫌なものでしかない。それが奴らの手先かもわからないからな。ルナの言う通り、油断はしないでおくぞ」


 それはそうかもしれないけど、と俺は眉を顰める。いや、マジでどうにもできないんですけど。

 アディ以上のなにがこの屋敷にやって来るのかと、逆に恐ろしくもなる。まさかのラスボス、世界の終焉が、と体を震わせていると、緊張感漂う空気を打ち破るように執事さんがやって来た。


「すみません、ヴァーミリオン様。少しだけお時間、よろしいでしょうか。報告しなければいけないことがありまして……」

「じい」

「し、執事さん! はっ、ど、どうしよう!」


 なぜお前が驚いている、と言わんばかりのヴァーミリオンの怪訝な目が俺に向けられた。

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