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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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パワハラ、隠されている気配

 ヴァーミリオンもその後を続いてくる。もちろん剣を手に握って、刃を剥き出しにしたままで。

 俺は振り返りざまにそれを見て、ぎょっとした。目が飛び出しそうになった。

 ホントとんでもないヤツだよ、この子は!


「お前はバカか! せめて鞘にしまってから走れよ! 誰かとすれ違う時にぶつかったりして怪我でもさせたら大変だろ! それぐらい周りに気をつかえよ!」

「……貴様、騎士の主でもあり使用人の主人としてでもある俺にその口の利き方はなんだ! やはり首でも切らなければ礼儀は覚えないのか!? いい加減認めたらどうだ!」

「認めるってなんだよ! というか、そういうのをパワハラって言うんだぞ! 朝からいきなり剣を振り回されたらこうもなるわ! どんなご乱心だ!」


 ヴァーミリオンの瞳に、一層強く火が灯ったような気がする。轟々と、燃えている。やばい、燃やされる。

 それは怒りを表しているようで、俺はつい息を呑んでしまった。

 認めろというのはきっと、おそらくウェインの中にいたのが俺だったんじゃないかってことを今ここでハッキリさせておきたいんだろう。白黒つけるまで俺を追いかける気だな。

 認めるもなにも、すでに自分で散々地雷を踏んでしまったんだ。言わずとも察してほしいところだけど、そんな俺にも意地というものがある。そう、これは譲れない話なんだ。

 せっかく隠し通そうとしていた問題を変に暴かれてしまって、それを自分から白状するのもぶっちゃけ癪に障るんだよな。

 だから俺はヴァーミリオンに応えることなく、逃げた。

 今だってあいつを巻き込みたくないって思いはあるんだよ、これでも一応。

 すべてを聞き出さなきゃ気が済まずにまた後ろを追い回されるんだろうけど、構わず逃げる。追いかけたきゃ好きなだけ追いかけてくれ、捕まるつもりはないから。

 階段を一段飛ばしで下りようとすると、その踊り場でちょうど月の精霊の姿を見つけた。

 ルナは窓から外を眺めているようだった。

 なにか神妙な面持ちで、一心に外を見つめている。

 雰囲気がいつもみたいにほんわかしていないというか、何を見ているのかわからない瞳に、なんとなく声をかけるのを躊躇ってしまった。

 気になるものでも見つけたんだろうか。それとも不安なことがあるのか。

 話しかけていいものかと考え、らしくもなく戸惑ってしまった。

 俺が階段を下りてくる足音に気づいたのか、ルナがこっちを振り向いた。


『……ヒロさん』


 はい、なんでしょう。そう答えたかったけど、名前を呼ばれて思わず心臓が跳ね上がってしまった。

 それは偶然会ったから呼ばれたような軽い声のトーンじゃなくて、どこか緊張しているような、これから待ち受けるであろう展開を予想しているような、なにか重いものを感じた。

 俺は目で「なにかあったのか」と訊ねる。

 するとルナはゆっくりと顔を縦に振った。


『なにか、あまり良くないものが近づいてくる気がします。気配は隠されているようですけれど、それでも感じます。これは一体……。もしや、すでに向こうが動いて……?』


 そう言いかけて、俺の後ろに目を移す。

 おそらくヴァーミリオンが迫ってきているんだろう。あら、と口元に手を当てて驚いている。

 それを拍子に、ルナの雰囲気がいつもみたいにまた柔らかくなった。


『すみません、もしやお仕事の途中……には見えませんね。追いかけっこでもしているのですか? なんだか楽しそうですね。といってもヴァーミリオンさんは鬼のような形相で追いかけてきているようですけど』

「これが楽しそうに見えるか!? 殺されかけてるんだけど! 助けてくれよ、ルナ!」

『助けるもなにも、走り込みだなんてさっそく体力作りですか? 良いではないですか、これからの戦いに向けての特訓だと思えばそれで。ヴァーミリオンさんもそれを見越してヒロさんを追いかけてくれているのかもしれませんよ?』


 ヴァーミリオンの場合それもありそうだけど、大体の理由は違うと思う。あれは俺が白状しないからあんなに怒り狂ってるんだしな。

 でもなぁ、だからといってなぁ……。やっぱり話すとなると癪に障るよなぁ。


「……貴様っ!!」


 そうこうしている内に、ヴァーミリオンがやってきてしまった。

 子供のくせに、変わらず表情は鬼のままだ。お前、大人になったらどんな威厳たっぷりの顔になるんだよ……。俺はそっちも心配だよ。

 でも剥き出しになっていた剣の刃は、きちんと鞘に入れられている。あ、よかった。しまってくれたんだ。

 俺が指摘したことでようやくその危険性に気がついてくれたんじゃないだろうか。だからといって、俺の身の安全が保証されたわけじゃないんだけどさ。

 ルナはそんなヴァーミリオンを見て、なにが面白いのかにこにこと微笑んでいた。

 まさかこんな状況で端から煽っているんじゃないかとギクリとしたけど、どうやらそんな感じでもない。心臓に悪いから今はやめてくれよ、ルナ……。


『あらあら。本当に全身から燃え盛る炎が見えるような、凄まじい怒りを上手く表現されているようですね。まだ幼い子供だというのに、彼は妙に上手く力を扱えるように思いませんか? ヒロさんがこちらの世界に来た時からあんな感じだったのでしょう? 自分のものにしているというか、自在に操っているといいますか』

「いや、まぁそうなんだけど! 今はそんなこと話してる余裕さえないんですけど!」

『どうやって自分の力を制御することを覚えたのでしょう。アディさんも上手く使えていたようですけど、やはり過去の出来事がなにか彼らに制御するきっかけを与えてくれたりしたんでしょうか。なかなかこれも難しいと思うのですけれど。ヒロさんも今のうちから目で見て覚えておいたらよろしいのではないでしょうか』


 ヴァーミリオンはゆっくりと階段を降りてくる。静かに、だけど足音だけはしっかりと立てて。

 目が合った瞬間、俺は思い知る。

 あぁ、また蛙が蛇に睨れているんだと。もちろんこの場合は俺が蛙で、ヴァーミリオンが蛇だ。

 なるほど、確かにこれじゃ動けない。動けばおそらく丸呑みにされてしまう。

 嫌だ、嫌だ。頭からがぶりと食われていくのは嫌だ。牙でも立てられたら失神してしまうかもしれない。

 もしかしなくとも、ヤツはあの鞘で俺の頭を強打するつもりでいるんだろうか。

 腹に負った傷よりも酷いことになるかもしれない。いや、二度と動けなくなるんじゃないかってぐらい、かなりの重症を受けることになるだろう。さてさて、どうしたもんか。

 立ち向かったところでヴァーミリオンの機嫌を損ねる時もあるしなぁ。


「貴様、逃げ足だけは速いようだな……。だが足だけ速くても、相手に勝たなくてはいけない時、どうする。どうやって勝つつもりだ。その辺りまできちんと考えているのだろうな」

「だからそれは特訓をして、なんとかだな……!」

「この地を滅ぼさんとしている奴等がいるというのに、悠長な男だ。あの時以上の怪我を負うことになるかもしれないのに、そんなことで勝利を手にすることができるのか? 甘い、全てにおいて考えが甘い」

「お前の言うことも尤もかもしれないけど、それとこれとは話が違うだろ! なんで俺がお前に殺されかけなきゃいけないんだよ! しかも主人に刃を向けることは、使用人には許されない話だろ!」


 ヴァーミリオンは、鞘の先を俺へ突きつけた。


「これも特訓だ。お前はもう少し覚悟を決めろ」

「はい? 特訓!? 一方的に剣を振り回されて逃げてるだけのこの状況が、特訓だって!? 特訓っていうのは、互いに剣を持って打ち込むことをだな……!」


 ずい、と喉元へ鞘を突き出されて、俺はそれ以上口を挟めなくなってしまった。

 ルナは俺とヴァーミリオンの間で、なにやら興味深そうに交互に顔を眺めている。まるでテレビドラマで展開されているであろう修羅場的シーンを楽しげに見ている主婦のような顔つきだ。

 いや、そんなわくわくした目で見られても困るんですけど! むしろ止めてほしいんですけど!

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