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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
いざ、フォルトゥナ学園!
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朝から物騒な物を持ち歩く主人

 * * *


 ヴァーミリオンが執事さんに呼び出されて部屋を後にしてからは、特に何事もなく一日が過ぎていった。

 胸を撫で下ろしながら、月の精霊の加護を授かるために部屋で過ごしていたらいつの間にか眠っていたらしく、目が覚めた頃にはすでに外が青白かった。

 体を起こして、ベッドの上からじっと窓の外を見つめていると、どうしてか胸が不安でいっぱいに埋め尽くされていく。

 やっぱり異世界であろうと、どこで生きていても悩みは尽きないのかもしれない。昨日の今日だから尚のことかもしれないんだけど。

 俺は溜息を吐き出して、もう一度寝転んだ。さてさて、今日は一体何回溜息を吐くことになるんやら。


「つうか朝から頭を悩ませるとか、苦労性だよな……」


 解決していくとするならば、順番はアディ達を止めた後にフォルトゥナ学園の入学問題、それから俺が元の世界に戻るための手段を探していく、なんだろうか。ん? それともヴァーミリオンとのいざこざを解決するのが先か?

 いやいや、そもそもそんなことを考える前に、まずは俺が強くならなきゃ話にならないんじゃないだろうか。だから根本的な問題がそこなわけで。大事なことなのに時間が経つとすぐ頭から抜けていくとか、どんだけ間抜けなんだよ、俺。

 おそらく今のままだったらアディにすら敵わないんだよ。ぐさりと、すぐに後ろから刺されてしまうかもしれないんだ。

 ヴァーミリオンにも一部ではあるけれどある程度の事情を話した今、さすがにそれじゃあ頭が上がらない。むしろそんな状況を引き起こせば、逆にヴァーミリオンに刺されるんじゃないだろうか。

 俺の騎士だった奴がそんなに弱いわけがない、もう少し戦えるはずだ、そんなの騎士失格だー、なんてな……。

 風が吹いているのか窓が少し揺れ、はっとした俺は勢いよく頭を振った。

 朝からマイナス思考はよくない、これからが大変なのにこんなところでへこんでいる場合じゃない、まずは頭をスッキリさせるのが重要だ。

 とりあえずそんなことを考えるのはやめておこうと、大きく深呼吸をしてみる。

 強くなろうとする前に、自分の仕事をしなくちゃいけないんだよ。いつまでもベッドの上でうだうだと悩んでいても仕方ない。仕事だ、仕事。はいはい、後ろ向きは終わりっと。

 まず、使用人としてどうするべきか。どうするべき、だろう。

 主人であるヴァーミリオンを起こしに行くべきかとぼんやり考えるも、とりあえず自分が着替えなくちゃ意味がない。

 よっこいしょ、と年寄りくさい気もするけど、一声上げると同時に立ち上がる。まだ寝ていたいだなんて弱音は吐いたりしないぞ。

 俺が立ち上がると同時に、タイミング良く部屋のドアも開け放たれた。乱暴に、いや、蹴破る勢いで誰かが入ってくる。その人物は言うまでもなく、ヴァーミリオンなんだけど。

 なんだ、なんだ。また何事だ。

 その場でシャツを脱ごうとしていた俺は手を止めて、目を丸くしてヴァーミリオンのほうを見る。

 俺が起こしに行く前に、主人が俺を起こしにきてしまった。なんてこった。

 ヴァーミリオンの目はいかにも機嫌が悪いんですというように細められていて、俺は察してしまう。なるほど、とにかくここはまず謝るべきだ、と。

 能天気に声でもかけたら本当に燃やされてしまいそうな気がした。


「……すみませんでした。明日はもっと早く起きます」


 だけど俺に突きつけられたのはヴァーミリオンの嫌味たらしい言葉ではなく、きらりと光る剣の切っ先だった。朝からなんて物騒なもんを持ち歩いているんでしょう。

 すでに殺されてしまうのかと、その尖った先を悠長に眺めていると、さらに切っ先が前に突き出されてくる。

 このままだと眉間に刺さってしまうんじゃないかと反射的に後ろへ下がった俺はベッドに足を引っ掛けて、せっかく起こした体がまた柔らかい羽毛布団へと沈んでいってしまった。

 降参するように両腕を上げて、恐る恐る声をかけた。


「あの、ヴァーミリオンさん……? なぜ俺は朝から命を狙われているのでしょう。朝、起こしに行かなかったのがそんなにお気に召されなかったのですか? そんなに俺に起こしてほしかったと……?」

「昨日の続きだ」

「はい? 昨日の続き? すみません、ちょっと言っている意味がよくわからな……」


 ヴァーミリオンは横たわる俺の上から覗き込むように見下ろしてきて、また剣を構える。

 え、そのまま突き刺す気なんじゃないの? もしかしなくても本気だよね、この子。

 若干ではあるけど目に殺意がこもっているような気がしなくもない。

 俺がベッドの上から転がり落ちると、狙い済ましたかのように剣がマットレスへと突き刺さる。

 わざと俺がベッドからいなくなったのを見計らってから振り下ろしやがったな、あんちくしょう。

 わたわたと四つん這いになってヴァーミリオンから距離を置き、床に尻を着いて振り返ると、ヤツは面白くなさそうに舌打ちをしていた。

 ベッドがボロボロになっちゃったじゃないか、なんてことを……!


「……は? ちょ、ちょちょ、ちょっと。一体なんの真似だよ、これって」

「言っただろう、昨日の続きだと。人の話すら聞いていないのか、貴様」

「だ、だから意味がわからないって言ってるだろ! なんで俺がお前に殺されかけなきゃならないんだ!? 今度の敵はお前ってどういう状況だよ、これ! 昨日の友は今日は敵、ずっと敵ってか!?」


 突き刺さっている剣を抜いて、ヴァーミリオンは再度俺へと向き直る。


「お前に聞こう。本当にそのままでいいと思っているのか?」

「な、なにが? なにがそのままでいいって?」

「そんな腕のままで、お前はこの地を滅ぼそうとする者を相手に戦おうというのか。色々と現実を舐めているのではないか。いくら背後に月の精霊がいようと、お前の実力が伴っていなければそう簡単に済む話ではないと思うがな」


 それはそうかもしれませんけど、と俺は尻餅を着いたままじりじりと後退していく。

 ヴァーミリオンは剣を握ったまま、俺へと向かって近づいてくる。

 いや、言ってることはわかるんだけど、せめて剣を収めて穏便に済ませてもらえないかと思うのですが、さすがにこれは無理ですかねぇ……。無理だよなぁ。

 ヴァーミリオンの主張にも一理あるし、強くならなきゃいけないことは自分でもよくわかっているつもりなんだけど、だけどやり方が強引すぎやしないだろうか。これじゃ話が全く頭に入ってこないんですけど。むしろお前が俺の立場だったらどうなんだよ、絶対キレるだろ。

 そういえば、月の精霊。そう、ルナさん。

 こんな時に、月の精霊様はこの部屋にいないんだろうか。

 ルナがいたら止めてくれるんじゃないかと考えたけど、だけど彼女の場合は「稽古をつけてもらえて良かったですね、ふふふ」だなんて他人事に笑い飛ばしてしまいそうな気がする。

 でも部屋の中で剣を振り回されるのもどうかと思い、俺はすかさず床を張ったまま廊下へと飛び出した。

 自分でも情けないとは思いつつも、あの場所にいたままじゃマジで危ない。

 暴れるヴァーミリオンを相手にするのはまだいい。でもさっきみたいにベッドが犠牲になったりと、部屋にある物を壊すのは駄目だ。これ以上屋敷にある物を傷つけるわけにはいかない。俺のメンツにもかけて。

 執事さんの困った顔が目に浮かぶようだ。


「貴様、逃げる気か!」

「そういう問題じゃないだろ! 物を壊すな、物を! 誰がお叱りを受けることになると思ってるんだ、お前は!」


 廊下に出れば、他の使用人さん達もいるだろう。そんな中で刃物を振り回すだなんて、さすがのヴァーミリオンも躊躇ってくれるんじゃないだろうか。

 それに騒ぎを聞きつけた執事さんが助けてくれるかもしれない。いや、むしろ助けてほしい。今すぐにでも。切実に。

 俺はとりあえず人のいそうな場所、ホールへと向かって走った。いくら朝早くといえど、使用人さん達もそろそろ動き出しているかもしれないからだ。

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