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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
知らない世界、知らない家族
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自分の想いに蓋をして

「とにかく、よくあの子を助けてくれたな。モンスター相手に立ち向かうだなんて、以前のウェインだったら考えられん行動だ。強くなったな」

「え!? ま、まぁな! ヒーローを目指す者だったら当然のことだし!」

「ひーろー? なんだそれは。お前は騎士になりたいんじゃなかったか?」


 騎士? またウェインの新たな情報が入ってきたぞ。

 ぽかん、とおじさんを見上げていると、後ろから大人達が驚いたように大きく声を上げる。どうやらまたモンスターが動き始めたみたいだった。


「ウェイン、お前は早く家に帰りなさい。後のことは俺達に任せておけ。あの程度のモンスターならば手こずることもないだろう」

「うん、わかった! おじさんも怪我するなよ!」


 そう言うとおじさんは俺の横をすり抜け、モンスターの元へ駆け抜けていく。その手には長い槍が握られていた。なるほど、確かにあのリーチの長さなら手こずることもなさそうだ。

 だけどそれを見て。やっぱりここは日本じゃないんだ、と改めて感じる。あんな槍を所持していたら、周りの人に通報されてすぐに警察のお世話になっているところだ。

 剣と魔法の世界に行ってみたいとは思っていたけど、まさか俺が本当に異世界転生するなんて考えもしなかった。しかも初っ端からモンスターと対峙するなんて、なかなかない体験だ。あの頃は魔物相手に拳を振る舞ってやりたいとか簡単に考えていたけど、とんでもない話だった。

 でも、剣道で得た知識や経験が役に立つことができてよかった。対人戦なんてしたことがなかったし、どうなることかと思ったけど、とりあえず切り抜けることができて良かった。

 子供の命も守れたし、ヒーローとしては大満足の一歩でした。

 住人達がいるところまで戻ってきた俺を迎えてくれたのは、さっきまで川で遊んでいた子供達と母さん、それに姉さんだった。

 みんなは俺の姿を見るとすぐに駆け寄ってきて、笑顔で「すごかったね」と褒めてくれた。母さんも「頑張ったわね」と頭を撫でてくれて。相変わらず酸っぱいにおいが俺の鼻を曲げそうになったけど、まんざらでもなく、にこりと満面の笑みを浮かべた。

 やっぱりヒーローはこうでなくっちゃな。

 後ろで姉さんがじとりと怪しんでいたけど、俺は敢えて見て見ぬ振りをした。ああいうのは自分から関わっていくと大変面倒くさいことになると、比呂の経験上、よーくわかっているからだ。

 きっと、ウェインだったら絶対そんなことはしないと声を大きくして言いたいんだろうなぁ、とその視線を流しながら、俺は深く溜息を吐き出したのだった。



 * * *



 とある屋敷の、あまり人が寄り付くことのない隅にある一室で、少年は一人椅子に座り、ぼんやりと宙を眺めていた。

 窓はカーテンで閉め切られ、部屋の中は陽の光が入らず薄暗く、肌寒い。少年は何をするわけでもなく、ただ座り、心ここに在らずといった様子で天井を見上げていた。

 彼は孤独だった。

 彼は常に独りだった。

 友と呼べる者もなく、唯一の家族には距離を置かれ、傍にいるのは屋敷で働く使用人と、父の従者だけ。その使用人さえ用がなければ少年に近づくことはなかった。

 自分のなにがいけなかったのか、生まれ持つ力のせいで忌み嫌われたのか、少年にはよくわからない。気づいた時にはすでに独りだった。

 だからこそ、少年は自分の中で勝手に答えを導き出してしまった。家族に恐れられ、周りにも恐れられ、少年の持つべき力は己の中で凍りつく。

 暗い部屋で、一人こうしているのがちょうどいい。闇はすべてを隠してくれるから、ちょうどいい。

 自分の想いに蓋をして、少年は今も、これまでも、これから先も、独りで生きていこうと思った。

 蓋が外れることは、二度とないだろう。外してくれる人も、自分の前に二度と現れることはないだろう。そもそも自分に近づく人間など、いやしない。


 控えめにだが、扉を叩く音が聞こえた。

 だが少年がその音に反応することはなかった。

 扉が開き、主の返答を訊ねることもなくその人物は勝手に侵入し、少年の背後へと近づいてくる。


「失礼します、ヴァーミリオン様」


 女にしては低く、掠れた声が少年の耳に届く。

 女は床に膝を着き、姿勢を低くし頭を下げると、自分の主である少年に用件だけを伝えた。


「とある集落で、十歳になる少年が魔物を相手に一人立ち向かい、捕らわれていた子供を助けたという噂が届きました」


 だが少年は天井を見上げたままで、返事をすることはない。


「私はこれから噂のあった集落に向かい、その勇敢なる少年と話をしてきます。今度こそ、貴方に相応しいパートナーとなることを願って、彼をここへ連れてくる次第です」


 どうせそいつもすぐいなくなる、すぐに自分の前から消えていく。誰を連れてきたところで無駄だと、少年、ヴァーミリオンは鼻で笑う。

 彼女も可哀想なことだ。父からヴァーミリオンの護衛騎士として世話を押し付けられ、朝から晩まで部屋から一歩も出ることのない子供などを監視し続けなければいけないなんて。

 彼女だけではない。この屋敷で働く者、すべてだ。

 すべてが哀れで、同情せざるを得ない。

 パートナーなんていらない。必要ない。俺は一人で、生きていける。自分の騎士だなんて、いらない。そんなものはどうだっていい。


 少年は目を閉じた。

 少年は全てを諦めていた。手に入らないのならば、最初から希望なんて抱かない方がいい。

 少年は天井を見つめていた。

 俺の事など放っておけと、胸の内で呟いて。

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