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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と人喰い勇者》
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七話

 どうしてこうなったのか、と聞かれれば上手く答えられない。


 ウエストレギオンからノースレギオンに何時間もかけてやってきたのだ。もうかなり疲れたぞ。


 この世界には四つの大陸がある。北のノースレギオン、南のサウスレギオン、西のウエストレギオン、東のイーストレギオンだ。それぞれの大陸が魔女がいてその大陸を守る、というのが世界の常識である。一応警察はいるのだが、魔女という存在は警察さえも手が出せない不可侵の領域である。


 が、大陸はかなり大きい。端から端まではだいたい二千キロメートル。大陸を跨ぐというのは、どれだけ近距離であってもそれなりの時間を要するのだ。


 鉄甲車を乗り継ぎ、北の大地に降り立った。さすがに寒いが、極寒地区からはかなり離れているので寒い程度で済んでいる。


 そこまではよかった。


 駅で待っていたツーヴェルとフォーリアに引きずられるままにカフェに向かう。そこで、なぜか俺が学生として〈マルハインツ学園〉に通うことになっていた。


 年齢からみれば俺はもう学校を卒業した年齢だ。なぜまた通わなければいけないのか、という気持ちがないわけでもない。卒業して間もないという年齢であるため、年さえ誤魔化せば行かれないこともないが。


 犯人はフォーリアではなかった。が、マルハインツの生徒である可能性があると言うのだ。


 同時に、この地域に収められていた魔導書の一つが紛失した。協力してやる代わりにその魔導書の行方も探せ、ということらしい。魔女同士のやりとりに俺を巻き込むなって感じだが。


 魔女が動いたとなれば一大事になる。それならば、溶け込めるような人間を上手く使ってしまおうということなのだろう。身勝手にもほどがあるとは思う。が、俺にヘリオードに止めを刺させるという条件で受け入れた。


「ほら、行くわよ」


 長い髪の毛を手で跳ね上げ、メーメが凛として歩いていく。


「はあ、なんでお前と一緒なんだよ……」


 メーメは俺と一緒に高等部、ルルとアンは中等部へと忍びこむ。さすがにコイツらの体型で高等部は無理がある。そういう体型のヤツがいないわけじゃないだろうが、三人も同時にというのは難しい。ということでメーメだけが高等部に配属になった。


 まあジャンケンで決めてたから、誰がなってもおかしくはないんだが。


 初等部、中等部、高等部が一つの敷地内にあるエリート校。超大金持ちか、人並みを数倍外れた天分を持つ者くらいしか入れない学校とのこと。


 ルルとアンに別れを告げ、俺とメーメは高等部の校舎に入った。そこではナディア=レイターと名乗る女教師が待っていた。身長は俺と同じくらい、深い茶色の長髪を後頭部のところで結っている。長目つきは非常に鋭く、メガネを掛けているのでより強調される。女性らしい体型に、タイトスカートから伸びる長い脚はタイツに包まれている。どうやら元々フォーリアに言われ、学校の偵察をしている人物であり、この学校で唯一事情を知っているようだ。


 カバンを渡され、一通り説明を受けた。両親の仕事の都合で三年五組に転校、メーメは俺の許嫁という設定でいく。いろいろと無理がありそうな気もするのだが。


 そこで魔導書の盗難についても話を聞いた。盗まれたのは三日前、図書館の深い場所に安置されていた。魔導書の名前はタルタロッサ。水属性で武器は鎌、クラスはアクアリーパー。メーメと同じく前衛だ。持ち出した人間の目撃情報が一つだけ。深緑のローブを身に着けている、身長は小柄で百七十センチもない。それ以外の特徴がまったくないらしい。これじゃ目撃証言としては弱いんだが。


 説明はそこで終わってしまった。 ナディアは「私も次の授業があるので」と冷たく言い放ってからいなくなった。事件を解決する気があるのかないのか。


「クソ、やってくれる」

「愚痴を言っても始まらないわ。行きましょう」


 三年五組に向かって歩き始めた。


 設定もクソも考えてない。才能があるか金があるか、ではどんな才能があるのか、そうでないならなぜ金があるのか。考えれば考えるほど頭が痛くなる。


 というかなぜ俺が考えなければならないのか。


 そうやっているうちに、目の前で揺れていた黒い頭が立ち止まる。教室についたのだとわかるまでに少しだけ時間がかかった。簡素なスライド式のドアではなく、少し高そうな木造の開き戸だ。


「入るわよ」

「待て待て、まだ授業中――」


 俺の言葉などなかったように、メーメは教室のドアを開けた。


 頭を抑えている時間などない。彼女を一人にしておくのは危険だからだ。


 教室に入ると、何十個とある瞳が俺とメーメを注視する。中には机に突っ伏して寝ている者、窓の外を見続けている者もいるが、教室にいる人間の九割は俺たちを見ている。


 教師の後ろにはホワイトボード。生徒たちが使う机はそのホワイトボードを中心にして湾曲。そして後ろにいくに従って高くなっている。


「キミたちは転校生の?」


 授業をしていたのだろう、白髪交じりの中年教師がそう問いかけてくる。


「ええ、遅くなって申し訳ありません」


 メーメは淑やかに頭を下げた。口調も穏やかであり、いつもこうならどれだけ楽だろうかと思うくらいだ。

「いえいえ、話は聞いていますよ。私は担任のボッシュ=メイソン、数学教師であり魔導術式教師です。それじゃあ挨拶をお願いします」

「ええ、承知しましたわ」


 生徒たちの方を向き、指先でスカートを持ち上げたメーメ。静かに一礼し、また静かに頭を上げた。


「メーメ=ブラックと申します。今まで病気で、あまり外に出たことがありませんの。いつも彼にいろんなことを聞いていたのですが、病気も良くなってきたので、この学校に通わせてもらうことになりました。ちなみに、彼と私は結婚しているのでよろしくお願いしますね」


 開いた口が塞がらない。コイツは一体なにを言っているんだと、俺だけじゃなく教室中がそういう空気になってしまった。


 メーメを見れば、俺の方を向いてニッコリと笑う。許嫁じゃなく、もう婚約した体で話を進めろということか。


「えー、コホン。ロウファン=ブラックです。両親の仕事の都合でこの学校に通うことになりました。転校という形ではありますが、いろいろと事情があって学校には通ってませんでした。また、別の事情で彼女とは婚約してます。よろしくお願いします」


 これでいい。事情があると言っておけば、相当空気が読めないヤツじゃなきゃ突っ込んでこないだろう。


「それじゃあ、二人は一番上の窓際に座ってね」

「「はい」」


 さすがエリート校と言うべきか。一瞥くれる程度で、特に興味なんてないって感じだ。


 階段状の通路を歩き、言われた席に腰を下ろした。まあ、窓際はメーメに取られたわけだが。


「今、なんの授業だかわかるか?」

「そうね、ホワイトボードの文字からするに、術式設計かしら」


 俺が耳打ちをすると、彼女もつぶやくように返してきた。


 カバンの中から【魔導術式設計Ⅲ】と書かれた教科書を取り出す。ついでに他の教科書も、机に入れるついでに中身をめくってみた。


 正直まったくわからない。基礎魔導術なら散々叩きこまれたが、今ここにある教科書はその上位互換ばかり。応用魔導術ⅢーBとか、なにをやるのか見当もつかない。他にあるのは魔導物理学Ⅱ、魔導工学Ⅱ、術式文法応用B、薬草学Ⅱ、魔獣学Ⅲ、近距離戦闘術Ⅳ、

中距離戦闘術Ⅱ、遠距離戦闘術Ⅲ、応用戦略D+、地学Ⅳ、魔導歴史Ⅴ。それに薄いノートが十二冊。短い期間しかいないからノートが薄いのだろう。が、ここまで入念に教科書を仕込む必要はどこにあるのだろうか。どの教科書をめくっても、一ページ目からさっぱり頭に入ってこない。

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