四話
朝、カラダの重さに目が覚めた。
右腕にはアン、左腕にはメーメ、胴体に覆いかぶさるのはルルだった。いつも通りというかなんというか、一人増えたのがまた厄介だ。
ネグリジェとか下着とか、いくら寝るだけだっていってもちゃんとした格好をして欲しいものだ。白くて長い脚とか、艶めかしい唇とか、大小の柔らかな膨らみとか。
って俺はなにを考えてるんだ。三人とも見た目はまだ幼いのだ、劣情を抱くなんて間違ってる。
テキトーに三人のカラダを避けて自由になった。ダブルベッドでよかったとしか言いようがない。
「おはようございますぅ……」
一番最初に起きたのはルルだった。「ふわー」とアクビをしながら背伸びをするが、胸に実ったたわわな果実が揺れると、どうしても目のやり場に困ってしまう。
赤い髪の毛はボブカットで、髪の毛だけじゃなく全体的にふわふわしている。メーメやアンを見たあとだとかなり和み要員だ。ついでに言うとルルの属性は炎、魔導器はレクレギオンという名の銃、魔導書には攻撃系の魔導術ばかりが記されている。
「魔導書に欲情してるの? 変態ね」
「前の主人もクズだったけど、今回の主人も体外クズね。この変態」
いつの間にか起きてきて、なぜさらっと罵倒されなければならないのか。
メーメは闇属性、魔導器は剣のレーヴァテイン、魔導書に書かれているのは呪詛などのステータスダウン系。
「うるさい、さっさと着替えて準備をしろ。情報収集に行かなきゃならない」
「目的には確実に近付いてる。もしそれが達成されれば、貴方は一体どうするつもり?」
「さあ、今はまだわからんな。もしかしたら、アイツと同じになっちまうかもしれないな」
三人の着替えをぼーっと眺めながらそう言った。アイツらの肌はなんであんなに艷やかなんだとか、なんであんなに柔らかいんだとか考えていた。
「なかなかに楽天的ね。嫌いじゃないけど、まずはレディの着替えのときくらいは後ろを向いていて欲しいかしら」
「別にいいじゃねーか、今更なんだし」
「まあいいけど」
「いいのかよ」
「私はよくない!」
アンに殴られた。
そのうち慣れるだろうと思うが、今は目を背けておこう。
アンの属性は風、魔導器はピナーカという槍、魔導書には補助や援護をするものが書かれている。
イスに座ってベッドの方に背を向けた。
俺が旅をするのには理由がある。簡単にいえば魔導書を集めることなのだが、それは手段の一つに過ぎない。
最終的な目的は一つ。千年前に魔王を倒した、今は亡きはずの勇者を殺すためにほかならない。
名はヘリオード=エイクス。勇者は他にも存在し、徒党を組んで魔王討伐に向かった。その中でもたった一人で魔王を倒した最強の人間。それがヘリオードだ。
しかしその実、彼は魔王を倒す頃には人間ではなかったらしい。魔剣ダインスレイヴを手にし、ときには一晩で村の住人を食い殺すこともあったという。
魔剣ダインスレイヴは強大な力を持つが、その代わりに人を食う。生気を吸い、生き血を啜り、魂を糧とする。持ち主は正気を失い、ダインスレイヴが持つ力に振り回され、そして死ぬのが運命だという。
ヘリオードは魔王を討伐した際、一度王と謁見している。その後姿を消したのだが、死ぬことなく人を食らい続けた。結果的に千年以上生き延びて今に至る。
「はい、着替え終わったわ。行きましょうか」
「ちょっと! 私まだ終わってない!」
「新入りなんだから口答えは慎みなさい」
「待ってるからさっさと着替えろ。メーメだって一人じゃ出てかないから」
背中の向こうにいるアンに言った。どうやらルルもまだ着替え終わっていないらしい。
メーメの手伝いもあり、数分後には着替えが終わった。
荷物をまとめて宿を出ると、降り注ぐ陽光で目の前が真っ白になるようだ。
昨日は魔導書を奪取するために夜更かししてしまったからだ。チェックアウトの時間が迫っているので起きないわけにもいかない。
近くのレストランに寄り、朝食を済ませることにした。朝食というには遅く、昼食というには早い、なんとも言えない時間だ。
「ねえ、訊いてもいい?」
全員が注文し終わってすぐ、アンが頬杖をついてそう言った。
「答えられることならなんでも」
「そう、じゃあ遠慮無く。アンタが勇者ヘリオードを追っているのはメームルファーズから聞いた。でもなぜ追っているかまでは本人に訊けって言われたの」
「なるほどな。隠すことでもないから言うが、俺は十歳のとき、ヘリオードに両親と妹を殺された。両親だけじゃない。住んでいた町は全壊、生き残りは俺だけ。そりゃ悲惨なもんだったよ」
「なんでアンタだけが? 町が全壊するくらいなのに」
「逆だよ。アイツは大規模な攻撃を仕掛けてきたわけじゃない。あり得ない速度で人を狩り、建物を壊した。人ひとりが、範囲魔法も使わずに住民を殺したんだぞ? 取りこぼしは俺だけで、他のヤツらはみんな殺された。人の臭いみたいなのを感じてるんじゃないかってくらい鋭敏で、俺が助かったのだってあの人が守ってくれたからだ」
「あの人?」
「魔操師だよ。俺の師匠って言ってもいい。まあ、あの人は俺に魔導書を渡しちゃくれなかったけどな」
「じゃあメームルファーズやルルインカーシュとはどうやって出会ったのよ」
「師匠と別れた俺は一人で旅をし始めた。その中で古代遺跡を探索してたんだ。もういろんな冒険者に踏破されて、魔導書だって残ってないんだろうなと思ってた。けど、床が崩壊して落ちた場所にメーメが魔導書の状態で眠ってた」
「じゃあルルインカーシュは?」
「奪った。悪徳宗教の教祖が聖典として所持してたからな」
「なにそれ、アンタって強奪犯なの?」
「そうするしか方法がないならそうするさ」
確かルルと契約した時のゲームはキングオアデッドだったな。お互いの駒を取り合うゲームだが、ルルがポンコツ過ぎて一瞬で勝ってしまったヤツだ。




