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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と救世の後継者》
222/225

四話

 ルルが銃弾を二発、三発とヘリオードの背中に叩き込む。タルトがヘリオードの足首から先を切断した。


 ヤツは地面に倒れ込み、腕の力だけで俺たちがいない方向へと逃げていく。いや、そっちに逃げるしか方法がないのはわかっていた。


 正面には俺がいて、背後にはルルがいて、俺より近い右側にはタルトがいる。そうなれば左側に逃げるしか道がない。


 だから迷いなく、追いかけるのではなく移動することができた。ヘリオードの動きを見る前に移動したなら、その結果は明らかだ。


 今まで脚での移動だったから追いかけられなかった。でも脚が使えなくなった今、全力で駆けていけば追いつける。


 ヤツは膨大な魔力を使って体を修復し始めていた。傷口から白い煙が上がっているが修復速度はそこまで早くない。


「アン!」


 アンを召喚して思い切り突進させた。


「おおおおおおおおおおおおおお!」


 槍を突き出し風を纏う。その暴風の塊がヘリオードにぶつかった。


 アンとヘリオードの魔力がぶつかった。


 どうやってもアンが勝つことはありえない。が、負傷している状態であれば更に深手を負わせることができる。


 アンの体がはじき出されるのと同時に斬りかかる。ダインスレイヴで受けられてしまう。けれどどこか弱々しく今までのヘリオードのような暴力的な力は感じられない。


「もう、終わりにしよう」


 剣型のメーメに目一杯の魔力を込めた。


 ぐぐっと体が沈み込んでいく。


 次の瞬間、ヘリオードが大きく吠えた。低い音と高い音が混ざったなんとも言えない声だった。耳を塞ぐことなどできない。そんな暇があるのならばこの剣に力を込めることだけを考えるべきだ。


 意識が一瞬だけ途絶えた、ような気がした。


「あきらめろ」


 へリオードがそう言った。


「お前がな」


 俺が返す。


 もうここしかない。


「ここしか、ないんだよ……!」


 耳からなにかが垂れてきたような気がした。頭が痛くて今すぐにでも倒れてしまいたい。眠ってしまいたい。


「死んでも、か」

「死んでもだ」


 この身朽ち果てようとも、この野望だけは譲れない。


「俺は、死んでも、お前を殺す」


 その瞬間、剣がぐいっと沈み込んだ。


 まるで野菜を切るように、肉を裂くように、メームルファーズがダインスレイヴに沈み込んでいく。


 そして嘘のようにダインスレイヴを切り裂いた。


 ヘリオードがわずかに後退する。カランと、ダインスレイヴの残骸が地面に落ちる音が聞こえた。


 その音を切り裂くように一歩前に出る。


 疲れ切った体で風を切り、無理矢理腕を振って足を踏み込んだ。


 そして、剣を斜めに振った。


「よくやった」


 通り過ぎる際にそんな声が聞こえてきた。


 気がつけば地面に膝をついていた。立ち上がる元気もないまま後ろを振り返れば、ゆっくりとヘリオードの胴体が斜めにズレるところだった。


 ゆっくり、ゆっくりとヘリオードの体が地面に落ちた。俺もその場で倒れてしまいたい。けれどそれだけは駄目だ。


 膝に手を当てて立ち上がる。足を引きずってヘリオードのところへと向かった。


 地面に横たわる下半身。仰向けになった上半身。そんなヤツは笑顔を浮かべていた。


「なに笑ってんだよ」

「こういうのも悪くないな」

「これから死ぬっていうのにか」

「今までちゃんと死ねなかったんだ。もういいだろ」


 呼吸が弱くなっていくのを感じる。


「そう、だな」


 力に振り回されて、スリエルに操られて、殺したくもないのに人を殺し続けてきた。俺がヘリオードの立場であっても殺してくれと思ったかもしれない。それでもコイツは責任を背負って生き続けた。


「もういい、眠れ」

「その、つもりだ」


 ヘリオードは大きくため息をついた。かと思えば体が灰色になり、そのまま空気に溶けて消えていった。サラサラ、サラサラと、まるでそこに最初からなかったかのように消えてしまった。最後には塵の一つも残っていなかった。


 あっけなかった。ここまで簡単に終わるだなんて思ってもみなかった。


 足元から崩れていく感覚があった。もう気を張らなくてもいいせいか、知らないうちに全身の筋肉が弛緩したようだ。


 全部終わった。世界も守った。家族の敵を討った。けれど心は晴れなかった。


 そんな晴れない心のまま地面に突っ伏す。体に力が入らない。レアやメーメの声が聞こえてくるが応えるだけの気力もなかった。


 でも死にたいとは思わなかった。ただ、今は泥のように眠りたかった。


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