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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と救世の後継者》
220/225

二話

 しばらくそうしてからガラス玉を地面に落とした。ガシャンと大きな音がしてガラスが割れる。中から紫色の心臓が出てきた。それはドクンドクンと今でも脈打っていた。魔王というのが規格外というのは知っていたがここまで生命体としてぶっ壊れてるとは思わなかった。ガラスの中から脈打つ心臓を持ち上げるヘリオード。


「じゃあな、ゼクト」


 そう言ったあとで心臓を握り潰した。虫を潰したかのように肉片が周囲に飛び散った。


 後ろにいるため顔は見えないが、その後姿は少し寂しそうに見えた。


「終わったな」


 と俺が言うとヤツはこちらに振り返った。


「お前はなんのためにここまで来たんだ?」


 ヘリオードが睨みをきかせると周囲に魔導力が充満する。全身にのしかかる圧で息苦しくなってきた。


「なにが言いたいんだよ」

「魔王を葬ることも、スリエルを屠ることも、世界を救うこともお前の目的じゃないんじゃないのか」


 気付いていなかったわけじゃない。


「どうしてお前がそれを言うんだよ」


 ただ少しだけ。ほんの少しだけほだされてしまったのだ。


「言っておくが、俺は誰かに許してもらおうだなんて思っていない。誰かに投降する気もない」


 本当のヘリオードを知ってしまったから。


 それでも、俺はこいつを許せない。


「そんなことはどうでもいい」


 深く、一度だけ深呼吸した。


「メームルファーズ」


 メーメを剣に変えて武装する。


「俺は一生お前を許さない。家族を皆殺しにしたこと、たくさんの人を殺したこと。正気に戻ったからとすました顔してここにいること。その全部が許せない」

「そうだ、それでいい」


 この気持ちを忘れたわけではない。しばらくの間、そっと蓋をしていただっけだ。


 ヘリオードが潰れた心臓を持ち上げて滴る血液を口で受けた。喉を鳴らして、血が滴らなくなるまで飲み続けた。


 突如、胸を押さえて苦しみだした。徐々に魔導力が上昇していくのがわかる。


「さあ、お前の目的を果たせ。人生を賭けてもいいほどの宿願だろう。ただし簡単にはやらせんがな」


 みるみるうちに変貌していく。人の姿からやつれた悪魔のような姿、人食い勇者の姿に変わっていく。


「こっちの方がいいだろう。さあ、ケリをつけよう」


 ダインスレイヴを思い切り振り上げた。


「言われなくてもそのつもりだ」


 剣の切っ先をヘリオードに向ける。


「お前を殺すためにここまでやってきた」


 俺が剣を構えると、呼応するようにヘリオードが重心を下げた。


 けれどその場から動き出すことができずにいた。それはおそらくヘリオードも同じだと思う。


 攻撃の手をいくつも考えるが、そのすべてが通用しない未来が見えてしまうのだ。脳内では攻撃すると大剣でいなされて、振り返る間もなく胴体が真っ二つにされるようなイメージが何度も何度も繰り替えされている。


 ピチャンと、どこかで水滴が落ちた。


 その瞬間、勝手に体が動いた。


 前進し、またたく間に接近した。


 目の前に火花が飛ぶ。ダインスレイヴとメームルファーズがぶつかり合っていることに今気付いた。


 浅く息を吐いてわずかに後退。するとヘリオードが前に出ようとする。そこでもまた勝手に体が動いた。


 後ろ向きな気持ちを体が制して踏みとどまる。突っ込んでくるヘリオードを躱して胴体に一撃。が、ヘリオードはダインスレイヴを地面に突き立てて真上に飛んだ。


 見てから飛んだのか読んでいて飛んだのか。そんなことは俺にはわからない。


 メームルファーズはダインスレイヴとは違って魔導書が武器になった姿だ。空中に浮いた相手は俺が追うんじゃない。


「いけ!」


 地面に這っている俺の影がヘリオードを追撃する。影は手の形になってヘリオードを捕まえようとするが、ダインスレイヴがそのすべてを切り払っていた。


 それでいい。この影に攻撃力は必要ない。


 即座に飛び上がって剣撃を見舞う。これは避けられるがそれでいい。


 避ける場所を予想して、置くように蹴りを打ち込んだ。ほぼ考えずにやった行動だった。剣撃と蹴りを一秒程度遅らせることで蹴りの方だけを攻撃として成立させる強引なやり方だった。


 右足で地面に向かってへリードを叩きつける。ここで地面に叩きつけられれば大きなアドバンテージがとれる。


 だが、そこまで甘くなかった。


「その程度か」


 ヘリオードは苦もなく着地していた。こうなると無防備な状態で浮かんでいるのは俺の方ということになる。


 それを見逃さないのがヘリオードという男だ。ダインスレイヴを振るっただけで強烈な真空波が発生した。


「くそっ」


 地面から影を伸ばして俺の足首を掴ませる。真空波を避けながら無理矢理自分の体を地面に引き戻した。


 こんな攻撃の応酬が幾度となく続いた。

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