一話
ヘリオードが上空から降りてきた。どこか晴れやかな顔をしているところからも、自分の役目を果たしたらしい。
奴は疲れた顔、ボロボロの姿で俺の前に立った
「終わったのか?」
「滞りなく。そっちは」
「終わった。これで俺たちの役目も終わりだな」
人喰い勇者ヘリオードから始まった魔女スリエルとの戦いも終わってみればあっけないものだった。まだ完全に気が晴れたわけではないが、一段落ついたという意味では胸がすいた。
しかし、俺の考えとは裏腹にヘリオードは神妙な面持ちのままだった。
「まだ終わってない」
そしてそう言ったのだ。
「なにが終わってないんだ?」
「魔王はまだ完全に死んでないってことだ」
「お前が殺したんだろ?」
「今回の魔王はな。だがこのままではまた次の魔王が生まれてもおかしくない」
「そんなにポンポンポンポン誕生するもんなのか、魔王ってのは」
「簡単じゃない。実際、スリエルだって生きている間や精神体になってからと数百年時間をかけた。逆に言えばそれだけの時間をかければ魔王が生まれてもおかしくない」
「じゃあその根本を排除しないといけないのか」
「そうだ。ついてこい」
ヘリオードが言うように、俺たちはヤツの後ろについていった。中には自分で動くことができない人間もいたので動ける人間だけでヘリオードについていく。具体的には俺、レア、魔女四人だ。
魔導術で体を強化した状態で巨大な城の階段を下っていく。その間、誰も口を開くことはなかった。
一階に到着したヘリオードだが、中腰で移動しながら床を撫でていた。
「なにしてるんだ、お前」
あの姿を見て勇者や英雄といった言葉を浮かべるような人はいないだろう。
「この下なんだ」
「なにが?」
「魔王の痕跡だ。魔王の魔導力というか、脈動というか、具体的に言うには少し言葉にし辛いんだがとにかくなにかある」
「なるほどな、それを消さないとまた魔王が生まれると」
「そういうことだ。どれくらい先になるかわからないが危険因子を排除するに越したことはない」
「次に魔王が復活した時に俺たちは生きていないがな」
それでも排除した方がいいのは俺もわかっている。俺がわからなければ誰がわかるというのだ、とさえ考えるくらいだ。
「でも魔王がいない方がいいことくらいはわかっているはずだ」
魔王が誕生し、スリエルが魔王を復活させた。魔王さえ誕生しなければ俺の家族が死ぬことはなかった。魔王が誕生したからヘリオードは勇者になって、ダインスレイヴを持ち、人という道を踏み外した。そしてスリエルがそれを利用して多くに人々が英雄によって無残に殺された。その中に俺の家族が存在しているのだ。もしまた魔王が復活するならば、似たような悲劇が繰り返されるのは目に見えている。
「とにかく、城の地下になにかあるってことでいいんだな」
「そうだ」とヘリオードは言ってから拳に魔導力を込め始めた。
「このまま床を破壊する。下がっていろ」
「はいはい」
全員ヘリオードから距離をとった。
ヤツは深く深呼吸してから魔導力を高めていった。そして、その拳を目一杯床に叩きつける。とてつもなく器用なのか、ヘリオードの周囲二メートル程度の円形を保ったまま床にヒビが入り、そのまま地下へと落ちていった。これを器用と思ったのは俺だけじゃないらしく、魔女四人も口笛を吹いたりなんかをしていた。
「脆いな」
「ヘリオードが言ってたいように地下があったってことだろ?」
ヴェルが鼻で笑って地下へと降りていった。続いて他の魔女たちも次々に飛び降りていく。
「私たちも行きましょう」
「――そうだな」
レアが俺の手を握ってきたので、顔を見合わせてから二人で降りた。
地下室というには深く、それでいて無骨だった。赤青黄色と様々な淡い光を放つ壁面は、ただ地面を掘っただけ、岩を砕いただけのように雑な造りだった。十数軒の家が建つくらいの広さで、中央には白い台座があった。上になにが置かれているのかはわからなかったが、近づいていくと徐々に理解していった。
ガラスの球体。その中に紫色の物体が浮かんでいた。ヘリオードがガラス玉を手にとってジッと見つめていた。
「俺の考えが間違っていなけりゃ、それは魔王の遺物ってやつじゃないか?」
「ああ、これが、本当に倒さなきゃいけない相手だ」
魔王復活の元凶、ってとこなんだろうな。方法だとか動機だとかそんなものには興味がない。俺は魔王もスリエルもどうでもいいと思っている。その存在は迷惑なものだが、だからこそそいつらの出生や経歴なんてクソ食らえだからだ。
「んじゃ最後はお前が終わらせろよ」
「もとよりそのつもりだ。簡単にはいかなかったが、これでようやく安心できる」
ヘリオードは何度か深呼吸した。魔導術を使っているところを見るとガラス玉にかけられている魔導術を解除しているんだろう。




