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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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八十五話〈ロウファン〉

「この世には王が必要だ! 絶対なる力を持つ、絶対なる王が!」


 剣に斬られる間際にスリエルが言った。


「それはお前が決めることじゃない」


 コイツにかけるような情けはないと、俺は思い切り剣を叩きつけた。


 まばゆい光とともにスリエルの体を縦に分断し、一撃で頭から股までを真っ二つにした。


 それでもまだスリエルはまだ目を見開いている。


「そんな……」


 しかしその瞳には生気がない。違う、少しずつ失われているのだ。黒の大魔導書に分断されて浄化されている。その証拠に体の切断面がパラパラと灰のようになって空気に溶け初めていた。


 その姿は儚くて、なぜか少しだけ切ない気持ちにさせられた。どうしてこんな気持になるのかわからない。わからないが、コイツにはコイツなりの理由があってこんなことをしたのかもしれない。かもしれないが、俺はそれを許すことはできない。別に人類がどうなるとか世界が滅びるとか、実際問題どうでもいい。英雄になりたいわけでもないし誰かから称賛されたいわけでもない。


 ただ、人生の中で邪魔だった。排除しなければいけなかった。結果的に誰かを助けることになっただけだ。俺の生き様は最初から最後まで自分のためだ。


 振り返り、剣を振り払った。それと同時に真っ二つになった体が地面に落ちた。トスっと、軽い音だった。


「必要、なんだ……」


 真っ二つになってもなおそう言い続けていた。


「魔王みたいに力ですべてをねじ伏せるやり方は古いんだよ。今の世界のことを古いやつが決めようとするなよ。お前は過去で終わっておくべきだったんだ」

「私の、夢が……」


 スリエルはそんな言葉を発した。消えゆくなかで僅かに涙を流す。


 俺にはわからないが、コイツにはコイツの生き方があったのだ。それはわかる。だがその生き方が独りよがりで、人々から後ろ指さされるようなものだっただけだ。


「お前の夢はここで終わりだ」

「お前も、私と一緒だ……」


 二つの瞳が俺を見上げていた。悲しい、澄んだ瞳だった。


「同じ、なんだよ……」


 その言葉の後でスリエルは目を閉じた。体は半分以上灰になってしまっている。


「同じなもんか。お前が余計なことをしなきゃ、俺はヘリオードに憎しみを抱くこともなかった。自分の欲望のためになにかをなそうと思うこともなかったんだ。ただ、自分の目的のために犠牲を払おうとする部分だけは似てるかもな」


 そう、似てるだけであって同じではない。それに俺はなにもかもを切り捨ててここにいるわけじゃない。


「悔しいなあ……」


 そうしてスリエルは口を閉ざした。体が消えていくことでもう喋ることもできないのだろう。


 腹が消え、胸が消え、首が消えた当たりでスリエルが再度口を開いた。


「父さん、母さん、私は……」


 そして、消えた。最後はまるで少女のような声色だった。幼く、無邪気で、小さな呟きだった。


「最後はあっけなかったな」


 俺はメーメを元に戻した。


 まるで見計らったかのように結界にも限界が訪れた。頂点から下に向かってひびが入る。そしてガラスが割れるようにして結界が消滅した。


「俺の勝ちだ」


 空中で灰と化していくスリエルを見ながら言った。


 スリエルは倒した。だがまだ終わっていない。この戦いは魔女スリエルとだけの戦いではないからだ。


「さて、あとはお前だけだぞ」


 天井を見上げる。そう、あとは「アイツ」の帰還を待つだけだ。

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