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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
214/225

八十三話

 上手くいく。その、はずだった。


 魔法陣が描き終わった頃に異変を感じた。森がざわついている。そして四方八方から魔導力の塊が接近して来る。


 弾かれるように顔を上げて周囲を探知した。徐々にではなく、急に魔導力の塊が現れた。それはつまり自分がここにいることを知っていなければできない工作だ。


「やられた……!」


 最初から的を絞っていたと考えるしかなかった。スリエルは魔女を超える魔女である。が、それでも「なんでもできる」わけでもなければ「完璧」というわけでもない。世界中を探しても彼女以上に総合的能力が高い魔導師がいない。だからこそ頂点でしかないのだ。彼女よりもある一点において秀でているものや、彼女の探知能力をかいくぐるだけならばできる者は当然存在している。


 完全なる見落とし。それ以外の言葉は存在しなかった。


 急いでエネアの元に戻ると、彼女は寝ぼけ眼のまま支度をしていた。この魔導力をエネアも察知したに違いなかった。


「これはどういうこと?!」

「私が聞きたい! 魔法陣を起動させる!」

「できたの?」

「できた。だが、精度のほどがわからない」

「それでもやるしかないんでしょ?」


 スリエルはニヤリとほくそ笑んだ。


「当たり前だ」


 そして、二人は走り出した。


 走りながらスリエルはいくつかの疑問を抱えていた。魔女たちはどうしてこちらの動きがわかったのか。どんな作戦を立てているのか。魔法陣はちゃんと起動するのか。この胸の高揚感はいったいなんなのか。その疑問を抱いたまま、二人は魔法陣の元へとやってきた。


 スリエルが魔法陣の真ん中に立ち、エネアは魔法陣の外に立つ。今まで吸収してきた魂を開放すると、魂は魔法陣に吸い込まれていく。徐々に、徐々に魔法陣が赤く光り始めた。


「足りないな」

「完全じゃなくてもいいさ。魔王を復活させることさえできればあとはなんとかなるかもしれないしね」

「それじゃダメだ」


 そう、今の状況で魔王を復活させてもやられてしまうのは明白だった。復活させるのであれば、ここに向かってきている魔女たちを全員屠れるくらいの力を持って復活しなければ意味がない。


「だろうね。まあ、こんなこともあろうかと思っていろいろ作っといて正解だったのかもしれないね」


 と、エネアが言った。


「どういうことだ……?」


 スリエルはそう返すことしかできなかった。


 そこで複数の足音が聞こえてきた。魔女たちが到着したのだ。


「見つけたぞスリエル」


 背筋がゾクッとするような緊張感があった。同時に自分の顔がにやけていくのを感じていた。


 そんなスリエルの姿を見て一同が戦慄した。この状況であっても笑える神経が信じられないとでも言いたげだった。中には後退る魔女さえいるくらいにその状況は異様なものだった。


 七人の男女が前に出てきた。おそらく魔導師だろうが、一人一冊魔導書を持っている。そして魔導書を開くと魔導術が発動し始める。今まで見たことがないような強力な魔導術。強力ではあるが規模は小さい。七つの魔導書すべてが普通の魔導術の数歩先をいく技術を内包しているのがよくわかる。


 風が吹き荒れ、結界が張り巡らされ、鎖が手足を縛る。手足を動かしてみるが簡単に解けそうにはなかった。


 それが、どうしてか楽しかった。


「いいぞ、悪くない」


 今まで肩を並べるものなど存在しなかった。それは集団であっても変わらない。なにものも寄せ付けない孤高の存在。最凶の魔女。そんな存在が始めて脅かされている。これまでにない初めての感覚だった。


「一気に畳みかけろ!」


 男の号令で一斉に飛びかかってきた。


 魔導術の鎖を引きちぎり、魔法陣に厚い障壁を張りつつ外に出て迎撃する。


「やれるものならやってみろ!」


 魔王城を破壊しかねない勢いで光線を放射した。魔導書で作ったであろう壁に阻まれると思わず舌打ちが出てしまった。それでも笑みは顔に張り付いたままだった。


 炎を纏い、水の竜巻を起こし、何本もの光線を発射した。けれどこちらが仕掛ける魔導術の合間には相手の攻撃が飛んでくる。魔導書が放つ魔導術は、見た目に反してとても強力だった。


 こっちらが攻撃するたびに相手の攻撃を受ける形になる。それは相手の方が人数が多いため、どうしても攻撃を分散しきれないのだ。前後左右に散らばって動いているところから見ると、この動きもまた作戦のうちなのだと納得できる。納得できないのは魔導書の能力の高さだった。


「ここまでとは……」


 甘く見ていたわけではないが、あの強力な魔導書が何冊も揃うことでここまで能力が高くなるというのはわからなかった。


 策を練りながらの戦闘は楽ではない。相手の能力を分析しながら相手の動きを予想するのは簡単ではないからだ。一人ひとりの能力を把握するだけでも時間がかかる。


 そうやって観察に集中している最中、風の刃が左腕を飛ばした。その瞬間に均衡が崩れた。


「これで終わらせるぞ!」


 魔女と魔導師が一気にラインを上げてきた。


「ここまでなのか……?」


 世界最強の、魔女ならざる魔女だった。魔女でさえ相手にならぬほど強い力を持った女だった。

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