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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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八十一話

 子どもたちにはスリエルとの繋がりを作るために魔導力による制約を付与した。子どもたちになにかがあるわけではない。なにかあった時にスリエルが見つけられるようにと付与したものだ。本来であれば魔王の依代とするためのものだったが、こうなってしまったら取りに帰る時間があるかどうかは難しい。


「魔法陣はいいけど依代はどうする?」

「私がやるからいい」

「魔法陣も依代も両方? 無理じゃないかな……」

「なんとかなる。心臓は地中にあるし、魔法陣さえ設置できれば魔王復活は目の前だ。いくぞ」


 スリエルは一人で部屋を出ていった。


「本気、なんだろうなあ」


 とは言いながらもエネアはスリエルのあとを追う。


 目立たない端の方の部屋に入って魔法陣を描き始める。エネアはスリエルのサポートのために城の周囲に結界を張る。侵入を阻害するための強力なものではなく、生命を察知する程度の弱いものだった。


 それから数時間、スリエルは魔法陣を描き続けた。石造りの床にはぽたりぽたりと汗が落ちる。汗を拭いそれでも魔法陣を描き続けた。


 朝日が昇り始めた頃、エネアが「おい」と声をかけてきた。


「来たか。人数は?」

「十一人だな。魔女四人はわかるけど、他の七人はいったいなんなんだ?」

「家に来た男の仲間だろうな。魔導書の上位互換」

「もうちょっと魔導書の情報を集めておくべきだったね。必要ないからと思ってないがしろにしてたのがここにきて仇になるとは」


 魔女になる者は魔導力が高く補助を必要としない。そのため世間一般では魔導書は「魔導力が低く魔導術を上手く使えない人のために作られた」とされていた。そのため世の中の魔女は魔導書に興味がない。


 はずだった――。


「おそらく、魔女四人は四人だけじゃ私とお前を殺せないと思ったんだろう。その中で上位の魔導書を操る者たちと出会った」

「それが事の顛末って? そんな都合がいいことってある?」

「世の中はそんなものだ。それで、そいつらはどこにいる?」

「まだ入ってきたばかり。警戒しながら進んできてる」


 どうやって追い返せばいいかと計算を始める。だが方法は一つしかない。


「殺すか」


 それだけの自信があった。家で感じた魔導力から察するに、魔女四人は間違いなく一人で倒せる。が、問題は魔導書の方だった。


「できる?」

「たぶんな。だが魔導書の方はわからない。もしかしたらやられる可能性もあるな」

「キミが弱気なのは珍しいね。それだけあの魔導書がヤバいってことか」

「そういうことだ。とにかくお前はこの城に隠れていろ。ばれないように何十にも魔導術をかけておけ」

「一人でやるつもりかい?」

「一人の方がやりやすいからな」


 エネアはため息を吐きながら笑っていた。


「アイツらを引き寄せながら城を離れる。時が来たらまた帰ってくるから、この魔法陣を描けるようにしておけ」

「私が?」

「消される可能性もあるからな」

「魔法陣だけじゃどうにもならないだろ? 肝心の魔導力の方は?」

「これがある」


 腕をまくって刻印を見せた。時間がある時に体中に刻んだ魔導力を吸収す刻印。正確には吸収した魔導力を逃さないためのものだ。


「命を魔導力に変えて自分の体に閉じ込めるか、狂気がすごいなあ」

「なんでもいい。それじゃあ頼むぞ」

「いつもこんなのばっかり……」


 聞かないフリをして魔女たちの元へと向かった。


 一度城から離れて森の中に入る。魔女四人よりも遥かに魔導力が高いため、気づかれないように行動するのには自信があった。


 大人数を相手にするのは問題ない。が、魔王城が必要以上に破壊されるのだけは避けたい。結果、行動の選択肢は多くなかった。


 森を抜けて近くの町にやってきた。まだ店も開いておらず、何人かの老人たちが歩いているくらいの静かな町。老人たちはお互いに挨拶をしており、それを見ているだけでもこの町が「いい町である」ことがわかる。


 だからなおさらにやけてしまう。きっと幸せそうな家族がいて、自分の人生に満足している人たちがいる。ゾクゾクっと、背筋に快感が走るようだ。


「クソくらえだ」


 右手に魔導力を集める。それから町が消えるまでは一分もかからなかった。殺した命は、スリエルが体に刻み込んだ刻印へと吸い込まれていく。


 僅かだが端の家屋の壁が残った。


「絞りすぎたか」


 ここ最近は魔法陣の研究ばかりで力を振るうことがなかった。しかしこれからは違う。命を脅かす輩を振りほどくために好きなだけ魔導力を使える。


「まあいい、次の町に行くか」


 今の攻撃で魔王城にいた連中が集まってくるに違いない。そもそもそのために町を一つ潰したのだからそうでなくては困る。


 魔導力が近づいてくるのを感じながらも町をあとにした。


 それからは森を焼き、田畑を荒らし、山を砕いて、そして人を殺した。魔女たちが追ってきても関係なく、任務のように、また生きがいのようにして世界を蹂躙した。


 数日と経たずにスリエルの名前が全世界に轟くようになった。彼女の名前はスリエル。またの名を世界最凶、厄災の魔女スリエルであった。

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