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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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七十五話

 エネアを見る。いつものように笑みを浮かべていた。


 フォークを手にとってウィンナーを口に放り込んだ。


「待て待て、いつも言ってるじゃないか。食事ってのはサラダから食べるもんなんだよ」

「決まってない」


 モクモクと好きなように食事をしていく。食べなくても平気なのと食べる必要がないのは違う。スリエルにも食欲はあるし、彼女の体もまた食事を求めていた。


「サラダから食べないと太りやすくなる。それに胃にもよくない」

「大丈夫だ。太ったら痩せればいい。胃の方はまあ、なんとかなる」

「キミって子は本当に言うことをきかないな」


 なんて言いながらもエネアは笑っていた。


 こんな生活が二年ほども続いた。スリエルは順調に力をつけ、魔女四人と対峙しても問題ないくらいまでには成長した。この結果にはさすがのエネアも驚いた。短期間でここまで成長するとは思っていなかったからだ。


「そろそろいいんじゃないか?」


 スリエルが腕を組んで言った。


「そろそろとは?」


 エネアがティーカップを置いた。


「魔女になってもいい頃かと思ってな」

「その話か……悪いがまだ早い」

「早い? 十分な力はつけただろう」

「そうじゃない。次の魔女が決定してしまった」

「決定したって、誰が決めるんだ」

「魔女の選定というのは、師匠の魔女が弟子の魔女候補に対して儀式を行い、その儀式で魔女と認められることで正式な魔女となる」

「魔女の儀式で魔女になるのか? それは誰が決めてるんだ?」

「その儀式をすることで魔女の適正が問われるんだよ。魔導力であったり魔導術の種類であったり、私のように器用さであったりね。つまり儀式という名の鑑定術さ。魔女がこの世界で四人いると、必ず儀式は失敗するようにできている」

「なぜ私にかけなかった?」

「まだ猶予があると思ったからだよ。魔女の弟子たちはまだ若く実力も大したことはなかった。しかし頭角を現した魔女候補がいたんだ。まさかこんなことになるとは思わなかったが、おそらく大丈夫だ」

「なにが大丈夫なんだ。意味がわからん」


 エネアは咳払いを一つした。


「前回魔女の枠が空いたのはどうしてかわかってるかな?」

「私が殺したからだろう」

「つまりそういうこと。必要な時に殺せばいい。殺した瞬間に儀式を行えば、当然キミは魔女になる。だから心配することはないよ」

「まあ、それはそうだ」


 だが腑に落ちない。なにが、どうして腑に落ちないかはわからないが、胸の中で不満がモヤのように湧き出ていた。


「能力としてはもう十分だ。顔も、前のキミとは似ても似つかない。これからは修練の時間を減らして魔王の痕跡を探そう」

「勇者と魔王が戦った場所に行くのか」

「ああそうだ。出会った頃と違い、キミは相当に隠蔽術が上手くなったね。魔導力や気配を完璧に消せるようになった」

「隠蔽術を最初に教えたのはこのためか」

「そういうこと。これが使えないとキミの居所がすぐにバレる。というよりもキミが持つ強大な魔導力のせいでいらないものまで引き寄せるから。そこまでの魔導力を振りまいてたら魔女が放っておかないだろうしね」


 目に見えてスリエルの目が輝いていた。


 魔王に憧れていた。魔王の強さに、気高い生き様に、人を恐れさせるその威光に。ようやくその魔王に近づくことができる。


「いつからだ」

「今すぐにでも行きたいって顔してるね」

「このためにお前の下についたんだ」

「わかっているよ」


 ため息を吐きながらエネアが立ち上がる。ゆったりとした動作で出入り口に向かいローブを羽織った。


「どうしたんだ? 行かないのか?」


 スリエルが口端を上げた。


「行くに決まっている」


 早足でエネアへと歩み寄り、自分もまたローブを羽織った。


 外に出た。冷たく強い風が山を包み込んでいた。エネアが張った結界がそうさせている。魔女や魔導師だけではなく、一般人が近づく可能性もあったからだ。


「結界は?」

「そのままでいいよ。じゃあ行こうか」


 エネアが指を鳴らすと地面に魔法陣が出現した。


「こんな仕掛け作ってたのか」

「そりゃ、ね」

「家の中に作ればいいんじゃないか?」

「家の中だと狭すぎるんだよ。瞬間移動の魔導術はかなり難解で魔法陣として組み込むにはかなり大掛かりになる」

「この魔方陣であれば短縮できる」

「本気で言ってるのか……?」


 エネアが怪訝そうに見つめる。


「帰ってきたら教えてやる。とりあえず行くぞ」

「はいはい、わかりましたよ」


 パンパン、と二回手を叩くと魔法陣が発動。二人の体は僅かに宙を浮き、魔導力の歪みと同時に体が消えた。

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