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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
201/225

七十話

 スリエルはそれから山を生活圏とした。動物や魔獣を狩り果物や野菜と採取。火は自分で起こせる。料理はできないが水と火があれば食事は問題なかった。


 時に、やってきた野盗を殺すことで金品を得ることもあった。金の価値はわからなかったが、それが大切なもの、重要なものであることは理解できた。孤児院の大人たちが大事にしていたからだ。きっとどこかで使いみちがあると思っていた。


 こうして約二年ほど山で暮らした。


 が、スリエルが八歳になる前にある出来事が起きた。病にかかったのだ。二年以上も病気にかからなかったのが逆に珍しいくらいだった。だが元々不衛生な場所で暮らしていたため、怪我を負い、そこから感染症になるのも時間の問題だった。


 息は荒く体は熱かった。居住区としてた狭い洞窟の中でさえ、まるで別の場所に来てしまったかと思うほどに広く感じた。


 そんな時、人の声がした。


 体を起こそうとするが上手く力が入らない。


 思い切り息を吸い込もうとすると、土埃が口に入ってむせてしまった。このままでは体を動かすことも魔導術を使うこともできない。


「おい! 子供だ! 子供がいるぞ!」


 男がそう言った。続いて足音が聞こえてくる。


「ホントだ。まだ十歳にもなってないんじゃないの?」


 今度は女の声だ。


 足音が二つ、スリエルの前で止まった。目を開けているのも難しいので、男の顔も女の顔もわからない。だが、やがてやってきた浮遊感に、自分が抱き上げられているのはわかった。


 そこで意識がぷっつりと切れた。スリエルが思っているよりもずっと容態が悪くなっていたのだ。


 洞窟に入ってきた男女はそのままスリエルを連れ出した。


 スリエルが次に目を開けたのは男女の家だった。二人は夫婦であるものの子供がおらず、スリエルのことを大層可愛がった。しかしスリエルは気を許すことはなかった。大人たちに虐待され続けてきたせいで誰も信じることなんてできなかった。


 何日も、何日も、夫婦はスリエルに食事を与え、風呂に入れて、絵本を読み、共に寝た。それでもスリエルは懐かなかった。目に映るものすべてが敵に見えて仕方がなかった。


 スリエルという少女の世界は、スリエルという少女のまま完結してしまっていた。


 夫婦のことは信用していない。だが食事があり、寝床がある。ここには「生きるために必要なもの」が揃っていた。ただそうとしか思わなかった。


 スリエルは夫婦の子供として育てられながら、様々な学問を学んでいた。当然魔導術に関するものもあった。頭がよく、物覚えも早かった。その代わりに感情が欠如し、道徳というものにまるで関心がなかった。彼女の中にある信念は一つだけだった。


〈自分のために動け〉


 それだけだった。


 そこには善悪が存在しなかった。


 やがて夫婦に子供が生まれた。スリエルはその子をいじめることはなかったが可愛がることもなかった。そこにいることは知っていたがどうでもよかった。小さく蠢き、泣き叫ぶなにかという印象しかなかった。


 夫婦の家に来ておよそ五年、スリエルは十二歳になった。その頃には魔導師としてかなりの力を持っていた。学校で魔導術を使い、夫婦と共に何度も学校に呼び出されていた。それがまたどうしても嫌だった。


 それでも保証された衣食住を手放すのはもったいなかったので、夫婦の言うことも教師のいうことも利いていた。


 その精神バランスが崩れる日が近いことをスリエルは知らなかった。


 教師に呼び出された次の日、スリエルはクラスの男子数名に呼び出されることとなった。学校でも人気がない暗い場所だった。


「来いよ」と言われた際、スリエルは黙って従った。それにも理由があった。


「お前生意気なんだよ」


 そう言われて肩を押された。心底面倒くさいと思った。


「なんか言えよ」


 別の男子が膝裏を蹴ったために体が崩れ落ちる。ため息を吐きながらも苛立ちが少しずつ湧き上がってきた。


「もういいじゃん。やっちまおうぜ」


 また別の男子がいった。なにをやるのかはわからないが自分に良いことでないことくらいは誰だもわかる。


 そして、男子たちの手がスリエル伸びてきた。手はスリエルの服を掴んで引きちぎる。それは夫婦が最近買ってくれた服だった。


 どうしてか、それがとてつもなく腹立たしかった。


「お前たち、それは自分の意思でやったんだな?」

「なに言ってんだお前。わけわかんないこと言ってんじゃねーよ! いつもいつも暗い顔しやがって!」

「そうだそうだ! 気色悪いんだよ!」


 また、ため息をついた。


 もうどうでもよくなってくる。


 男子たちについてはどうでもいい。しかし服を破られたことに関しては怒りを覚えていた。


 だから、腕を前に出して魔導術を行使した。


「燃えろ」


 次の瞬間、目の前にいた男子が炎に包まれた。男子たちは騒ぎ立てて、けれど腰を抜かしてその場に尻もちをついてしまっている。


「そうしていろ、やりやすい」


 スリエルは片っ端から魔導術の実験台にしていった。風の魔導術で切り裂いて、氷の魔導術で凍らせて、土の魔導術生き埋めにして、水の魔導術で顔を覆った。


 そうして、五人の男子生徒が全員死んだ。


 服が破かれたまま家に帰ることになったが周りの目など気にならなかった。家に帰ってすぐに着替えたため服が破られてことに関して夫婦にはなにも言われなかった。服はクローゼットの奥底に丸めて押し込んだ。


 次の日、夫婦と共に学校に呼び出された。スリエルが男子たちに連れて行かれるのを目撃した者がいたのだ。


 スリエルは言い訳などしなかった。


「アイツらが私の服を破った。暴力を振るわれるかと思って怖かった」


 と、涼しい顔で言った。教師たちは口々に「信じられない」と言った。夫婦もまた「本当のことを言いなさい」と顔をこわばらせていた。


 今まで少しでもイラつくことがあると周りに向けて魔導術を使ってきた。そのツケが回ってきたのだ。


 スリエルは大きくため息をついた。


「ため息を吐きたいのはこっちの方だ!」


 父親代わりの男が手を大きく振り上げた。あの手は間違いなく自分を叩くものだろう。


 すべてが面倒くさかった。なにもかもが自分の敵だった。いや、自分の敵だと認識した。


 彼を強く睨みつけた。次の瞬間には男の腕が吹き飛んでいた。そのままスリエルは部屋にいるもの全員を睨んだ。数秒の間に夫婦や教師、その場にいた全員が肉片に変わってしまった。顔についた血を拭い、スリエルは部屋から出た。

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