六十七話
少しずつ、少しずつ終わりが近づいてきているのを感じていた。誰が最初に力尽きるのか、それが問題にはなってくる。
「逃げてばかりでどうにかなると思うなよ!」
そんなことはお前に言われなくてもわかっている。
それでも俺の攻撃が通らない以上は機会を窺うほかにできることがなかった。
この状況であってもスリエルは生き生きとしていた。数多の魔導術を操る姿は、確かに稀代の魔女と言われても納得できる。なによりもこの狭い空間内できちんと魔導力を制御している。
元々大きな範囲を攻撃する魔導術を魔導力によって縮小させるというのはかなりの技能が必要だ。その魔導術を保てないから大きな魔導力を必要とするはずなのに、小さな魔導力で大規模な魔導術を操るのだから当然だ。
地面から湧き上がる炎の柱を青の大魔導書で処理する。少しだけ頭がボーッとしてきた。
背後に回り込んだ光の球体の群れを白の大魔導書で処理した。
そこで鼻にむず痒さを感じた。鼻血が垂れてきたのだろう。
視界がグラリと揺れて、思わず地面に膝をついてしまった。
目の前に影が落ちた。
「限界、か」
顔を上げるとスリエルが嬉しそうに口端を上げていた。
「かもな」
力が入らない。それもそうだ、適応できない大魔導書を使い続けた。体に負荷がかかるのも当たり前で、それに文句を言うのは筋違いだ。
「でもお前だってだいぶ魔導力を消費したな」
「消費したところで今のお前を殺すことくらいできる」
「今の俺、ね」
鼻で笑ってやった。
「俺は限界まで戦うことで今の俺の役目は終わりだと思ってる」
「だがこの結界が壊れればまた魔導力が私に集まる。お前が私を殺せなければ終わりだ。外の魔女や契約者だけじゃどうにもならん」
「だろうな。契約者の数も足りないしな」
「それでも私と戦うのはなんでだ?」
「逆に訊かせてもらうんだが、どうして今俺を殺さない?」
「まだ訊くことがあるからだ」
「じゃあさっさと訊いた方がよかったんじゃないか? 俺がいつ牙を剥くかわからないぞ」
「お前にそんな牙はない。大魔導書のせいで体はボロボロ、魔導力だって低下し続けてる。大魔導書の贋作を持つことで魔導力の流出を抑えられてないみたいだな。キャパオーバーだ」
「だろうな、今の俺ならな」
スリエルが舌打ちをした。少しだけイラッとし始めたらしい。
「この状況でお前との戦闘を長引かせる理由ってなんだと思う? ちなみにさっきの質問の答えにも直結する」
「さあな、長引かせることにメリットはない。だが私と戦った理由ならわかる。贋作を持ち得たのがお前だけだからだ」
「わかってるじゃないか。なら長引かせることの理由にも見当がつくはずだ」
「なにを言ってるんだ……?」
「共給源を絶たれたせいだろうな。お前の魔導力もかなり低くなってきたみたいじゃないか」
「それでも今のお前を殺せるくらいの魔導力はある」
「さあ、どうだろうな」
まだわからないのか。
そろそろいいかもしれない。わからないのなら教えてやるまでだ。
「お前の魔導力がギリギリまで落ちるのを待ってたんだよ」
刀身が黒い剣を振りかぶる。
「メームルファーズ!」
黒の大魔導書、その贋作が光り出す。
「知ってるか、黒の大魔導書の能力を」
そう、こいつの能力は――。
「異常を正常に戻す力だ……!」
今ようやく、シャルが言っていた「最後のピース」がなんのかわかった気がした。
アイツは最後までそのピースがなんなのかを言わなかった。そんなものはないのかもしれないと思った。だが違う。言えなかったんだ。こればっかりは俺たちがなんとかできるものではなかったから。
そう、最後のピースは単純だ。
スリエルの懐に飛び込むための策。これに尽きる。本当に最後のピースに当たるかどうかはわからない。が、俺がそう思うのだからそれでいい。
「なにをっ!」
スリエルが魔導弾を放ってきた。地面も結界も俺自身も、まるでどこに当たってもいいとっでも言いたげな乱暴な攻撃だった。
スリエルの攻撃は非常に強力だが、青の大魔導書で防御すれば問題なく防ぐことができる。




