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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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六十六話

 スリエルの魔導弾を避け続けるものの、ドーム型の結界の狭さがネックになってしまっている。かといって結界を広げると魔導術の威力は高く、範囲も広くなってしまうからそれはそれで問題だ。


「さっきの勢いはどうした!」


 魔導力が落ちようが魔導力の供給が絶たれようが魔女は魔女だ。莫大な魔導力と数多の魔導術を持つ稀有な存在。魔女としての地位を退こうが元々強大な存在であるためそこは関係ないか。


 魔導弾に光線に動物を模した召喚獣にとレパートリーが豊富だ。これをすべて処理するのには難儀する。大魔導書があると言っても俺は完全に使い切れるわけではなく、そもそも俺の魔導書は贋作だ。


 盾を造って攻撃を防ぐ。


 鎖を造ってスリエルを拘束する。


 たまに接近して攻撃をしかける。


 どれもこれもその場しのぎに過ぎない。


「苦い顔をしているな。もう限界か?」

「黙れ、足を掬われるぞ」


 地面が盛り上がって複数の棘が俺を貫こうとする。逃げても逃げても追ってくるその棘を蹴散らしながら逃げ続ける。チラリとスリエルを見れば楽しそうに笑っている。さっきまで憤怒の表情だったやつがどうしてこうなるんだ。正直なところ情緒不安定としか言いようがない。


 しかし俺は感じている。間違いなくスリエルの魔導力は減り続けている。おそらく考え方を変えたのだ。今は俺がいるから結界を破壊する魔導術を組むことができない。それならば供給源が絶たれようとも俺を殺してしまえばいい。脱出する方法はそれから考えればいいと思ったのだろう。


 そんな簡単にやらせるかよ。


 と言ってもここで使える大魔導書は限られてくる。黄の大魔導書は地属性。でもここで地面に干渉するということは結界の存続にも関わる。緑の大魔導書は風属性。狭い場所では使い方が難しい。赤の大魔導書も同じだ。結局、守るか拘束するかが一番使いやすい。


 しかしまだ見せていない大魔導書がある。


「目が死んでいないな」

「当たり前だ。俺はお前を殺すまで死ねない」

「やってみろ。だが今のままではお前は私を超えられない」


 そう、俺の実力が足りないせいでその大魔導書を発動させられない。たぶんとかおそらくとかそういう感覚的なものでしかないが、たぶん、おそらく、きっと、いや間違いなく、この大魔導書はコイツには効かない。これは主人だからこそわかる直感的で絶対的な感覚だった。


「そうやって下ばっかり見てると後悔するぞ」

「それでもお前の攻撃は私を貫けない」

「やってみなきゃわからないだろ」


 素早く接近しての斬撃を浴びせる。見えない壁によって阻まれる。


 スリエルの背後から氷の刃が襲いかかってきた。青の大魔導書でこれを防ぐ。


 紫の大魔導書で鎖を出して脚を縛る。スリエルは即座に鎖を砕く。


 彼女が手を振るといくつもの竜巻が出現した。緑の大魔導書でこの竜巻を無に返す。


 魔導力はスリエルの方が上。魔導術の種類も上。戦闘の知識も経験も彼女の方がずっと上。まだ余裕の表情を浮かべているところからもわかる。


 だが今の状態ではそこまでの差がない。俺が大魔導書を使っているから、ギリギリではあるが彼女の魔導術に対応できている。


 つまりそれは――。


「クッ……!」


 一瞬だけ鼓動が強くなって意識が飛びそうになった。息苦しさで思わず胸を掴む。拮抗していた戦線を離れて結界の方へと退いた。


 深呼吸をするが、この状況をスリエルが見逃すはずがない。


 いや違う。最初からこれを狙っていたのだ。


 激高していたあの女がどうやって気持ちを落ち着かせたのか。今のでそれがようやくわかった。


「クソ女……」


 大魔導書の贋作を使い続ければ体に負荷がかかる。しかし結界の中で立ち回るには大魔導書を使わざるを得ない。そうしなければスリエルの魔導術を防ぐことができないからだ。それをわかっていたから魔導力を温存しながら戦っていたのだ。


 温存しても勝てると踏んでいた。


 思わず奥歯を噛み締めた。結局、魔女スリエルにとってはその程度でしかないのだ。


 短く深く息を吸い込んだ。むせてしまい、地面にはポタポタと赤い雫が染みを作っていた。鼻血も出ているのか鼻もむずかゆい。


「いいぞ、それでいい!」


 嬉々としてスリエルが襲いかかってきた。最後は自分の手でということなのか。まだ勝ちが確定したわけじゃないということがわかっていないらしい。


「なにがいいんだ?」


 それでも大魔導書でスリエルの攻撃を弾き続ける。


「そうやって贋作に頼り続けていたらいい。お前はこの結界が消える前に自滅するだろうけどな」

「それを狙ってたんだろ。セコいやつだな」


 まだ戦える。


「セコい? 賢いの間違いだ」


 どうして俺が粘らなきゃいけないのか。そこに関してまだちゃんとした答えを出していないんだろう。


 コイツはまだわかっていない。俺がヘリオードを待っているとでも思っているのだろうがそうではない。


 逆なのだ。ヘリオードが魔王ゼクトを殺してしまっては、結界が解除されたときに魔導力がスリエルに全部集まってしまう。そうしたらもう勝ち目はない。勝ち目があるとすれば、すべての魔導力の供給が絶たれた今しかない。


「どうしたどうした! 威勢がいいのは口だけなのか!」


 結界の中で逃げられる範囲が狭まっていく。地面もめちゃくちゃに削られて、このままでは結界が崩壊してもおかしくないんじゃないかと思ってしまう。一応今は魔女四人の結界が上回っているが、魔女たちも常に魔導力を消費し続けている。

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