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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
190/225

五十九話

 スリエルは自分の手の平を真剣に見つめていた。


 ハッとしたように顔を上げて俺を睨む。眼光だけで人を殺しかねない、そんな勢いがあった。


 ようやく気づいたのだ、俺の真意に。この状況の真相に。


「貴様、よくもやってくれたな……!」

「気づかないお前が悪い」


 また黒い衝撃波だ。


 しかし最初の頃の勢いなどない。障壁を重ねればちゃんと防御できる。


「こんな、こんなこと……!」


 必死で魔導力の消費を抑えているんだろう。二の腕を抑えて自分の体を抱きしめていた。こんなスリエルは見たことがない。


「この障壁のせいか!」


 そうだ。俺がコイツをここに閉じ込めたのは俺とスリエルを閉じ込めているこの障壁を作り出すためだ。そして勝機がない俺がここにいるのはスリエルが弱体化するまでの時間稼ぎにすぎない。


「外部からの魔導力の供給を断ち切った。お前は魔導力を外から取り入れることができなくなったはずだ。魔導力が膨張して動けなくなったなんてこともあったからな、お前だけの魔導力で戦ってるわけじゃないことはよくわかった」

「でもこれは障壁のせいだけじゃない……もしかして誰かを上に行かせたのか!」

「気がついたか? でももう遅いぞ」

「なぜわかった!」

「最初からおかしかっただろ。腐っても世界最凶の魔女だったお前が、俺たちを圧倒していたお前が、遊ぶようにして俺たちと戯れてるのは納得がいかなかった。でもあることを前提にすれば辻褄が合う。いや、合い始める」

「ある、前提?」

「人々を殺して魔導力を略奪する。その行為も大きな意味を持ってくる。お前の魔導力を底上げするという意味でいえば十分なはずだがお前は殺人を続けた。にも関わらずお前の魔導力は思ったよりも増えていない。お前が動けなかったときもそうだが動けないほど強力な魔導力ってなんだ? なんでそんな力があるのに使わない? 元々魔導力が高いお前でも御しきれない魔導力なんだろ? 城ごと吹き飛ばすことだって造作もないはずだ。ではなぜやらなかったのか」


 今度は俺が笑う番だ。


「できなかっただろ。すべての魔導力は別のところに行ってたんだからな」

「お前、どうしてそれを」

「いろいろ考えた末の結果だ。誰か、もしくはなにかに魔導力を搾取されている。だからお前は自由に動けないし戦えない。この城を破壊しないのだってそれが原因じゃないのか?」

「馬鹿な。そんなわけがないだろう」

「いろいろ考えたんだ。この城に俺たちを誘い込んで、外側からぶっ壊せばそれだけで戦力を削ぐことができるんじゃないかって。なのにお前は城を壊さないように慎重に戦ってた。この城が破壊されたら困るとでも言いたげにな。それにお前の立ち回りだっておかしいだろ。まるで時間を稼いでるみたいだ」


 徐々にスリエルの顔が青くなっていく。


「お前は城の上部に位置する砲台を吸収したって言ったな。でも俺たちはそれを確認できないんだよ。それに、俺が思うにあれは砲台なんかじゃない。外から魔導力を吸収する吸引器だ」

「それは想像に過ぎない」

「想像だろうがなんだろうが、今までの状況やお前の行動を見ている限りその可能性は十分高い。お前の方が確かに強いかもしれないな。でもお前より頭が悪いわけじゃないんだよ。お前が全知全能じゃないってなんでわからないんだ? 今まで魔導力でねじ伏せられたからか? 残念だったな。もうそれは通用しない。お前はこの障壁を破ることはもうできない。ここで俺の相手をするしかないんだよ」


 見る見るうちに魔導力が低下していく。まだ差はかなり開いているが今までよりも戦うのが楽になっている。


「気づかなかったか? 一人だけ、あの場から姿を消したヤツがいるんだぞ」


 思考を巡らせているのか、スリエルが俯いてブツブツとなにかをつぶやいていた。


「別に損もないから言ってやる。いつだろうな、どこからだろうな、どうやってだろうな。あの男、ヘリオードが気配を消してどこかに行ったのは」

「この、痴れ者が……! 私は最凶の魔女スリエルだぞ!」

「それは過去のお前だ。今のお前はせいぜい過去の魔女四人分くらいだろうがよ。弱くなった魔女四人に不完全な大魔導書の契約者すら殺せないんだからな」

「黙れ黙れ! クソっ!」


 スリエルがギアを一つ上げた。彼女の体を包み込む魔導力が上昇した。まだこんなに魔導力を隠していたのか。


「失敗したか……?」


 挑発するには早すぎたかもしれない。


 だが今魔導力を上げたということは持久戦にさえ持ち込めれば俺一人でもスリエルを倒せる可能性が出てくるということだ。


 剣を構え、ラストスパートをかけようかという魔女と対峙する。俺が朽ち果てる前になんとかしてくれ。


 俺は自分の敵に対してそう願うしかなかった。

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