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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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五十七話

 どうして俺が他の契約者を順繰りに回れたのか。それはメーメが伝令を伝えてくれたからだ。


『作戦があるから俺を守れ』


 そうして魔女たちは俺を守ってくれた。


 メーメが戻ってきて俺と並走する。


「こんなことをするためにたくさんの魔導書と契約させたわけじゃないってツーヴェルが怒ってたわよ」

「それでもやるしかない」


 この方法は非常に理にかなっていて、けれど異常なほど危険を伴う。そんなことは百も承知だが、レアにも言ったように俺が死ぬ前に世界が終わってしまったら意味がない。


 魔女四人を盾にしながら前に出る。


「戻ってきたか」


 少しずつスリエルの体も動き始めている。完全に動く前になんとか殺す道筋を作らなければいけない。


「悪いな、待たせたみたいで」

「短時間でだいぶ貫禄がついたな。ま、ただの贋作を身に着けただけだから上っ面だけそう見えるんだろうが」

「たしかに俺が贋作を身に着けてるな。貴重な大魔導書も一冊失ったしな」

「勝ち目なんてもうないだろう。どうだ、降伏するならお前だけでも生かしておいてやらなくもない」

「なんで俺だけなんだ?」

「そこまで数多くの魔導書と契約できる人間は希少だからだよ。そうだな、愛玩動物みたいな感覚だな」

「丁重に断らせてもらう。一人で生きていくつもりは毛頭ないんでな。それにまだやれることをすべてやってない」

「やれることをすべてやり、尚且一人じゃなかったらいってことか」

「二人でも三人でもダメだ。俺の周りの人間は殺させたりしない」

「傲慢だな」

「傲慢でいい。傲慢じゃなきゃ、お前の前に立とうとなんて思わなかっただろうしな」

「なるほど。その傲慢さが今この状況でもあるわけだ」


 スリエルは笑いながら周囲を見渡した。


 魔女四人と大魔導書の契約者たちが作り出す球体の障壁。結界を練り込んだ、生半可な魔導術では破壊できない強固な檻だ。


 その檻が一瞬で完成した。地盤を慎重に作っておいて、あとは一気に積み上げるだけにしたのだろう。


 こうして、この空間には俺とスリエルだけになった。障壁は白く濁っているので他の連中がどうなっているのかはわからない。


 すべてが終わったら、ツーヴェルにはちゃんと謝罪しておいた方がいいかもしれないな。


「まさか、こんな手を使うとは思わなかった」


 スリエルが笑みを浮かべる。


「こうでもしなきゃ一対一にはなれないだろ」

「なんだ、そんなに私のことが愛おしいのか。そうならそうと言えばよかった。いつでも相手にしてやったものを」


 ちらりと、スカートをたくし上げてみせた。白い太ももが徐々に姿を表すが、俺はそんなものに興味はない。


「誰にでもそんなことしてるのか?」

「気に入った者だけだ、当然だろう」

「気に入れば誰でもいいってことか」

「そうやって気持ちを引き止めることは大事だ。どんな方法を使っても私の元に置いておきたい人物というのはいるものだ」

「今までもいたのか」

「何人かいた。だがそれはお前には関係ない」

「それもそうだな」


 スリエルは結界をぐるりと見渡してため息をついた。


「それにしても、こんな中途半端な結界で私を閉じ込めたつもりになっているとは。最凶の魔女も侮られたものだな」

「確かに、普段のお前ならこれくらい壊すのだって造作もないだろうな。普段なら、の話だけどな」

「お前がなにをしようとも、お前たちと私の力量を覆すことなど出来はしない。その証拠を、今、見せてやろう」


 一瞬にして両手に強大な魔導力の塊を出現させた。黒と紫が混合した、非常に禍々しい魔導力だった。大きさ以上に威力が高い。高圧縮された魔導弾は、その大きさの何百、何千倍の破壊力を持っているだろう。


「お前たちがしていること、その全てが無意味だと証明してやる」


 その両手を俺の方に向けた。


 だから俺は右手を胸まで上げた。


 そして、すべての魔導書を開放した。


「フェルメール・リフレクト」


 魔導術を使って打ち出された魔導弾を弾き返した。


 スリエルが驚いた顔で反射された魔導弾を避けた。地面には大きな穴が空いたが、これも結界のせいで威力が軽減されているのだと思われる。本来、あれだけの魔導力を打ち込まれたら建物ごと吹っ飛んでもおかしくない。


 上手くいくかどうかはわからなかったが、頭の中にその魔導術が流れ込んできたのだから仕方がない。ほぼ自動で魔導術が出てくるのは素晴らしくもあり気持ち悪くもあった。


「なぜだ」


 眉間にシワをよせる顔なんて初めて見た。


 そうだ、コイツのこういう顔が見たかった。


「わかってただろ。俺がなにをしてたか見てたんだから」

「わかっている。だが、その魔導術を使えるかどうかはまた別の話だ」

「贋作を集めてきたんだから使えてもおかしくないと思うがな」

「贋作は所詮贋作だ。真作の能力が使えるとは限らない。なによりも、お前には黒以外の血は流れていないはずだ」

「血が流れてなきゃ使えないのか?」

「当たり前だ。大魔導書と人間の子孫が契約者になるんだ。大魔導書と血統が揃わなければ――」


 そこで、またスリエルの表情が元に戻った。あの嫌味な笑顔だ。


「そうか、そういうことか」

「なんだよ急に。気持ちが悪いな」


 その時、鼻に痒みを感じて手を当てる。


 指先にはわずかに鮮血がついていた。

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