五十六話
次の瞬間、なにかが目の前を遮った。
それがなにかはすぐにわかった。俺の手に剣が握られていないことがそれを物語っているからだ。
「シャル!」
光がシャルに着弾。その勢いでふっとばされて、壁に背中を打ち付けた。胸にはすっぽりとシャルが収まっていた。
「おい、大丈夫か」
抱き上げたシャルの胸には大きな穴が空いていた。
「駄目ね。修復は不可能よ」
シャルはため息をついた。だが、なぜか笑っていた。
「どうして笑う」
「笑いたくもなるわ。主人が無能じゃ、大魔導書だって大したことないのよ」
「それは、すまなかった」
他にセリフが見つからない。俺のせいで大魔導書を一冊失ってしまった。
いや、一人の魔法少女の命を落としてしまった。
「やけに素直ね。まあ、いいけど」
シャルは震える手で一冊の魔導書に触れた。魔導書は魔法少女として具現化し、シャルの手を取った。
「姉さま」
メーメが深くため息をついた。こういうところは非常によく似ている。
「こんな最期とはね。我が妹ながら最低な終わり方だわ」
キュッと、強く手を握っていた。
「でもこれでチャンスが来たわ。姉さまにとっての最高のチャンス」
「妹が死んでチャンスを得るなんて考えたくもなかったけどね」
「仕方ないのよ。さあ、儀式を始めましょう。私がまだ生きているうちに」
わかっている。これは大魔導書の能力を転写しろと言っているのだ。大魔導書が失われる前に、次の大魔導書を作れと言っているのだ。
たとえ、それが贋作であったとしても。
シャルとメーメが魔導書に戻り、俺は二冊の魔導書を重ねて魔導力を込めていった。
先程のように白い空間にやってきた。だがおそらく、今回は俺の存在は必要なさそうだ。
二人の魔法少女が向き合っていた。
「もしかして、最初からこういうことを想定していたの?」
「こういうこともあるだろうな、程度には考えていたわ。でも姉さまが近くにいたから楽観視できたわ」
「楽観視って、消滅するかもしれないってことを楽観視するのはおかしいでしょうが」
「消滅することはおかしいことじゃないわよ。だって私達は「モノ」だから。それに随分と長く生きたし、もういいかなって思ってたの」
「アナタの使命を私に押し付けないで欲しいのだけれど……」
そんなことを言いながらも、メーメは両手を大きく広げた。
「それでも、私の妹であることに代わりはないから」
「そういうところ、私は好きよ」
静かに、ゆっくりとメーメの胸へと飛び込んでいく。
「じゃあね、お姉ちゃん」
二人の体が重なり合って、次の瞬間には現実の世界に戻ってきていた。
最期にシャルの声がした。
『お姉ちゃんのこと、よろしくね』と。
前回のように俺の介入が必要ないのも、二人が同じコンセプトで製本された姉妹だからかもしれない。
これで二冊の大魔導書の贋作が俺の手元に来た。
なんとなく、この勝負を左右するものの存在が見えてきた気がする。
「どうするの、ロウ」
メーメが俺を見上げていた。
「一つ、やってみたいことができた」
メーメに耳打ちし、魔女四人の元へと向かわせた。俺は契約者の元に走る。
「イズミ」
「なんですかいきなり! おしゃべりなんてしてる時間はありませんよ?!」
それもそうだ。スリエルの強烈な攻撃の大半をさばいているのはイズミなのだ。イズミが防御の手を緩めれば俺たちは壊滅しかねない。
「大丈夫だ。そのままじっとしいててくれればいい」
「じっとって……」
俺の魔導書を青の大魔導書に当てて贋作を作り出す。
「悪いな、もういいぞ」
イズミは怪訝そうな目をしていたが、自分の役割がわかっているからこそ戦闘の方に意識を戻していた。
続いてウィロウ、アルフィス、クルーエルの元へと走り大魔導書を複製していく。
最後にレアの元へとやってきた。
「やるんですか」
「この方法が一番良さそうなんでな」
魔導書を白の大魔導書に近づけた時、レアに手首を掴まれた。
「一人でやるつもりなんですか?」
「俺にしかできないことだからな」
「普通の魔導書なら問題ないとしても、大魔導書の贋作を数多く所持してロウの体が保つかどうかは未知数。それはツーヴェル様もおっしゃってました」
「俺の体の前にこの世界が滅ぶぞ」
「それならそれで、私はアナタと添い遂げたい」
ぐっと、手首を握る手に力が込められていく。徐々に顔が紅潮していくのがわかる。
「じゃあ添い遂げればいいだろ」
「だからその前に死んでしまったら意味がないと――」
腕を引いて、そのまま唇を奪った。
「なら待ってろ。俺は死なん」
レアが呆けている間に魔導書を複製、その勢いでスリエルへと突進していった。




