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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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五十五話

 それでも俺たちの攻撃が骨を断つことはできなかった。皮膚や肉は何度も切り裂いた。だがそのたびに再生されてしまうのだ。


 何回かに一度は骨を切断するに至った。だが切断した瞬間から再生されてしまえば意味がない。


 俺は攻撃さえ届けばなんとかなると考えていた。それは大魔導書の魔導術は通常の魔導術を確実に上回るからだ。


 だが現実は甘くない。攻撃を受けた瞬間から急速な回復系の魔導術をかけられてしまったら意味がないのだ。


「なにか手はねーのかよ!」


 アルフィスはすでにイライラしはじめている。動かないただの的にさえちゃんとした攻撃が通らないのだから無理はない。


「手がないわけじゃない。ただし、俺がスリエルに取り付いていなきゃならない」

「回復系魔導術の無効化、か」

「そういうことだ。だから道を開けろ」

「そう言われたらしかたねーな」


 こんな状況だというのに楽しそうな男だ。悲観しそうになったらこの男にまかせておけばなんとかなってしまうのではないかと勘違いさせられてしまう。


 アルフィスとウィロウが俺の前に出た。イズミは依然として障壁を展開し続けてくれるので二人も非常に動きやすいだろう。


 光弾であったり風の刃であったりとスリエルの攻撃は苛烈を極める。それでもコイツらはすべてを撃ち落としていった。


 そしてイズミ、アルフィス、ウィロウが俺が通る道を作った。


 すぐさまスリエルに取り付き黒の大魔導書を展開する。スリエルを中心にして黒い球体が現れ、膜のようにしてスリエルを包み込んだ。スリエルの皮膚に浸透し、スリエルが持つ魔導術のほとんど無効化できたに違いない。


 しかし、これが長く続かないことは俺だってよくわかっている。わかっているから今まで使わなかったのだ。ネタが割れてしまえば二度三度と使うことは難しいだろう。


「ここまでして私の機能をすべて無効化するのは不可能か」


 いまだにスリエルの攻撃は続いていた。弱くなったのは事実だが、攻撃そのものは変わっていないのだ。


「完全に無効化できなくても弱体化させられればいい」


 特に厄介な自動回復がなくなればそれでいい。


 腕を切り落とし、足を切り落とし、それでも宙には浮いているが再生する様子はまったくない。


「どうした、再生してみろ」

「黙れ愚図が」


 ピリッと電気のようなものが走ったかと思えば、少しだけ体の動きが鈍くなる。まだこんな魔導術を隠してたのか。


「勘違いするなよ愚図め。攻撃力だけだと思ったか。再生能力を見ておいて私の力を侮るとはいい度胸だ」


 どんどんと体の動きが鈍くなっていく。


 それでも反対側の腕を切り落とした。


 けれどその後は膝をつかざるを得なかった。体の動きだけではな。重力かなにかを操作してるのか上から抑えつけられている感覚がある。


「私はな、粋がってる人間を踏み潰すのが大好きなんだ。お前のことも、きちんと、力で、ねじ伏せてやる」


 爆発的な魔導力の鼓動。少しずつ、スリエルが強大な力に適応しつつある。なんとしてでもコイツの胸に剣を突き立てなければならない。時間をかければかけるほど不利になるのは明白だった。


 しかしスリエルの魔導力は次第に大きくなっていた。俺の腕は抑え込まれ、足は数センチしか上がらなくなった。全身に回る痺れのような感覚も強くなっていた。このままでは攻撃を防御することもできなくなる。


「自動回復を封じたからなんだというのだ。大魔導書の使い方もろくに知らないような者共と戦うなど造作もない」


 一瞬、視界が白んだ。


 気がつけばスリエルの素足を舐めるようにして地面に突っ伏していた。


「これがお前達の実力だよ」


 スリエルの皮膚に貼り付けた魔導術が消え去った。


 彼女が俺の方へと手の平を向ける。


 手の平に溢れんばかりの魔導力が集まっているのは誰の目から見てもあきらかだった。あんなものをぶつけられたら、たとえ魔女クラスであっても腕の二本や三本じゃ済まないだろう。


「終いだ、ボウズ」


 楽しそうに、笑っていた。


 目の前に強烈な光が広がって、俺の世界は真っ白に染まる。

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