五十四話
最後のピースを揃えられてしまった。
土煙が晴れていく。そこには禍々しいオーラを纏ったスリエルがいた。地上数センチのところで浮いている。
しかしこの部屋にいたクローンたちを殺した程度でこれだけの魔導力が得られるだろうか。
「おいおい、どうなってんだよ」
アルフィスがそう言った。言いたくなる気持ちもよくわかる。
「これ、どうするんですか……」
イズミが膝をついた。
「まだ勝てると思うか?」
ウィロウが俺に向かって訊いてくる。
「知ったことか。だが、かなり厳しいことは間違いない」
俺たちは大魔導書によってある程度は守られている。しかし魔女たちはこの膨大で強力な魔導力をその身に受け続けている。なによりも式守たちのことが心配だった。
式守たちを見ると、ある者は膝から崩れ落ちて倒れていた。床に手をついて嘔吐している者もいた。仰向けで痙攣している者、ピクリとも動かずに耳から血を垂れ流している者。どれもこれも、先が長くないことを予感させた。
それを見た魔女たちは素早く後退して式守を守る。攻撃を防ぐための障壁を展開し、魔力から身を守るための結界を張った。
それを見たスリエルは甲高い声で笑った。心底楽しそうに、だ。
「本来魔女を守るための式守が魔女に守られるだなんてな! これが笑わずにいられるか!」
口を抑え、しかし笑いをこらえ切れていなかった。
「そのムカつく笑いを今すぐ止めろよ」
「こんな状況でもまだ自分が人の上に立っていると勘違いしているのか。お前たちは負けたんだよ、認めたほうがいい」
「まだ終わってないだろ」
「能天気な男だ」
「魔女もいるし大魔導書もある。まだ終わってないことの方が明確だろ」
「今でも、この城の外ではたくさんの命が終わっている。その中には人や魔獣に関係なく、私が作ったクローンも死んでいるんだよ。この城で戦ったお前たちならわかると思うが、人の命は私の魔導力となる」
「だからいきなり強くなったのか」
「そういうことだ」
スリエルの笑みは非常に腹立たしいが、このシステムに疑問がないわけではない。
人が死ぬことで魔導力になる。今まで「スリエルであれば有り得そうだ」と、漠然と受け取ってきた。
果たしてそんな事が可能なのか。
「気になることでもあるのか?」
ウィロウが小声で言う。
「人が死んだだけでスリエルの魔導力になるってのが気になる。なにかカラクリがなきゃ無理だ。人が死んで魔導力になるという話だけならば生きている人間すべてに適応されてもおかしくない」
「そのカラクリを探せると思うか?」
「まず無理だろうな。時間がない」
だが、なにかあるのは間違いない。スリエルが攻撃せずにただ笑っているだけというのも気になる。
「おいスリエル」
「なんだ」
「なんで攻撃して来ないんだ? 今のお前なら俺たちを一瞬で消し飛ばすことくらいできると思うが?」
「そうだな、たしかにそうだ。しかしこちらにも事情がってな」
「もしかしてだが、一気に魔導力が膨れ上がりすぎて体が追いついてないんじゃないのか?」
スリエルは笑顔のままだが、眉尻がピクリと動いたような気がした。
「図星か? なるほど、そういうことかよ」
いくら魔導力が高くとも、それを使うことはおそらくできない。それどころか上手く動くことさえできないのだ。腹がいっぱいでは運動に支障をきたすということと何ら変わりはない。
魔女たちは動けそうにない。
であれば、契約者たちだけでなんとかするしかない。
「スリエルは今動けない。一気に行くぞ」
俺が剣を構えて前に出る。他の契約者たちも意図を汲んだのか、スリエルを囲みながら前に出た。
「動けなかったところで関係ない!」
スリエルの攻撃は強力である。それは間違いないが、この強大な魔導力を使いこなせていないのならばイズミがすべて止めてくれるはずだ。
俺の考えは間違っていなかった。スリエルが放った無数の光弾は、イズミが作った障壁がすべて防いでくれた。これならば前に出続けることこともできる。
攻撃役である俺、アルフィス、ウィロウの攻撃は確実にスリエルに届いている。特にスリエルはほとんど動くことができない。避けることができなければ防御するしかない。だがこちらの攻撃を完全に防ぐ手段がないのだから、スリエルの体には必然として傷が残る。これを続ければ未来はある。
問題は、スリエルが高い魔導力に適応してしまった場合だ。
その前に殺す。なんとしてでも。




