四十話
三人同時に魔導障壁を展開する。大魔導書の魔導力を使って局所的な障壁を作り出す。魔導力を分散させるよりも、小さな障壁を相手の攻撃に合わせて動かした方が効率がいいと思ったからだ。それに三人いればその分だけ障壁も大きくなる。
「ちゃんと守れよ式守ども!」
「言われなくてもそのつもりだ!」
他の魔女たちも集まってきて魔導力を集め始めた。背後で起きていることだが、これだけ膨大な魔導力ならば見なくてもわかる。
突然、スリエルがこちらに光線を放ってくる。魔導力を察しての攻撃なのかまではわからない。俺たちが到着してから攻撃をしてこなかったのも疑問だ。なにを考えて行動しているのかが謎である。
それでもこの光線の威力くらいはわかる。俺とウィロウとヘリオード、全員で無理矢理抑え込む意外に方法はない。が、三人の魔導力を合わせてどれだけ防げるかはわからない。
三人で作った障壁に光線がぶち当たる。障壁があるというのに一メートルは押し込まれてしまった。踏ん張れなければ魔女たちがどうなるかわかったものではない。
「まだかよ!」
「もうすぐだ!」
そして、背後に感じた魔導力が天へと射出される。
ドカンドカンと景気のいい音をさせながら、魔導力の塊が天井を砕いていく。天井をすべて砕くのが先が、俺たちの障壁が崩されるのが先か。
「少し肩の力を抜け」
その時ヘリオードが言った。
「肩の力を抜けるような状況かよ」
「お前にはやるべきことがあるんじゃないのか?」
「ああそうだよ。これもその一環だ」
「だがもっと重要な役割がある。そのために魔導力は温存しておいたほうが良い」
「だから、そんなことができる状況じゃないだろ」
「そんなことはない。見ていろ」
途端にヘリオードの魔導力が膨れ上がっていく。そして俺とウィロウを守るようにして強靭な障壁ができあがった。
「お前、これ……」
「お前たちは余力を残しておけ」
顔を歪め、見るからに無理をしている。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫か大丈夫じゃないかと言われれば大丈夫ではないな」
ヘリオードは息を吐き「しかし」と続けた。
「俺が誰だか、お前だって忘れたわけじゃないだろう?」
知っている。この世界にいる人間であればだいたいの人間が知っているのだ。
ヘリオード=エイクスという名前を。
「英雄、か」
「ああそうだ。俺は英雄になりたいわけじゃなかった。いや、そう呼ばれたいわけじゃなかった、というのが正しい」
「どういう意味だ?」
「俺はな、俺にできることをしただけだ。やりたいことをやっただけだ。守りたかった、助けたかったんだ。そして今も、俺が無理をすることで誰かの命を救える」
「救える可能性がある、程度だけどな」
「それでもいい。可能性が生まれるなら、その可能性が高まるなら、俺の命などくれてやっても構わない。もとより俺は死んだ人間だからな」
「カッコつけてるとそのうち後ろから刺されるかもな」
「それは――」
ヘリオードが笑った。
「お前がやってくれるんだろう?」
より一層魔導力を上げて障壁を厚くした。ヘリオードの腕が震え始める。皮膚がひび割れ、体の限界を示唆しているようだった。
「ヴェル!」
「これで最後だ!」
より一層大きな音がした。天からは光と共に瓦礫が降ってくる。その瓦礫もまた、ヘリオードの障壁が守ってくれた。
スリエルの光線が終わり、ヘリオードが膝から崩れ落ちる。俺とウィロウでそれを支えるが予想以上に体が軽い。
「驚いたか?」
「そりゃ、これだけ軽ければな」
「人を辞めた代償はこういうところにも現れるな」
なんていいながら眠るようにして気絶した。正直なところ、ヘリオードを戦力としてみていたがそれはさすがに黙っておこう。
「とんでもないことをしたな」
上からそんな声が聞こえてきた。
見上げればゆっくりと降下してくるスリエルの姿があった。黒いドレスに身をまとい笑顔まで浮かべている。
「それはこっちのセリフだけどな」
「しかしこんなことのために魔導力を消費してよかったのか? 私は強いぞ?」
地面に降り立ったスリエルの元に、もうひとりのスリエルが歩み寄った。そして、歩み寄ったスリエルの姿が変わっていく。
「やっぱりか」
ヴォルフだった。それがどういう意味を持つか、ここにいる全員が理解している。
ウィロウの方を見たが、思ったよりも平気そうだ。だが冷静でいられているのか、それとも平静を取り繕っているのかまではわからなかった。
「久しぶりですね、ウィロウ」
「ああそうだなヴォルフ。そんな変装までできるようになったのか?」
「まあ、いろいろあるんですよ」
ヴォルフはヴォルフで最初に会った時とまったく印象が変わらない。そう、内包する魔導力でさえ先程とは打って変わって穏やかそのものだった。
「それで、答えは出ましたか?」
「答えってなんのことだ?」
「今はそっち側についてるようですが、私たちと一緒に新しい世界を作ってくれるんですよね?」
さも当たり前のようにヴォルフが言った。
もう一度ウィロウを見れば、ウィロウは口端を上げて笑っていた。
そして、大きく手を広げた。




