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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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三十三話

 何度か剣戟を繰り返し、俺は違和感を感じはじめていた。俺が剣を振るう際、コイツは必ず防御するように腕を前に出すのだ。


 腕。左腕。


 違和感はそれだけじゃない。そうだ、だから俺は「話を合わせた」んだ。


 正直確証はないが、ウィロウは伝えようとしていることがある。あの黒い腕輪がそれをさせまいとしているだろうと考えたから話を合わせたんだ。


「わかったぞ」

「なにがわかったって?」

「お前の動きがわかったって言ったんだよ!」


 剣を突き出すと、やはりヤツは左腕を突き出してきた。


 コイツは左腕を切り落とそうとしている。それは間違いない。だが俺に切り落とさせようとしているのが癪にさわる。


「そういうことをするならな――」


 左腕を突き出している今、態勢を崩した状態で剣を振るうのは危険だとウィロウもわかっているはずだ。それならばと、俺は左肩でヤツの胸にタックルをかました。


 ウィロウの息が一瞬だけ止まった。


 それを確認して足を引っ掛けてそのまま押し倒してやった。


「こういうのは女にしてほしいんだがな」

「俺も同じ考えだ」


 背中から一冊の魔導書を取り出す。


「お前それ――」

「まあ見てろ」


 魔導書に意識を集中させ、そのあとでウィロウの左腕を押さえた。そして魔導術を使った。


 ウィロウの左腕の腕輪が一瞬にして砕け散った。いやそれだけじゃない。ウィロウの左腕ごと腕輪が吹っ飛んだ。ウィロウは歯を食いしばっていたが、腕が吹っ飛んで意識が飛ばないのは相当のタマだ。


 立ち上がり、服についた砂埃を払った。若干驚いたのは間違いないが、これはコイツが選んだ道だ。


「立てよ。一人で立てるだろ?」


 やれやれといった表情をしながらも自分で立ち上がった。


「わかってくれたようで、なにより、だ」

「今止血してやる」


 上着の端を破って紐を作る。それをぐるぐると二の腕に巻きつけて強く縛った。


「しかし、大魔導書ってのはすごいな」

「コイツは物事を正常に戻す魔導書だ。賭けみたいなもんだったが、お前の左腕はお前にとっては正常なものじゃなかったらしいな」


 本当は腕輪だけを狙ったとは言えない。


「よく、わかったな」

「あれだけ露骨にしてたらな。あの腕輪がお前を縛ってたんだろ。それにお前、最後に「スリエルを裏切らない」って言った。お前はヴォルフのことは信じていると言ったがスリエルのことは一言も言わなかったろ」

「それだけでこんなことしたのか? 大魔導書だけを隠して、スリエルにバレたらこの部屋ごと潰されてたかもしれないのに」

「賭けだと言っただろ。それに魔導書は置いた。スリエルは俺が持ってる魔導書が五つだと知ってる。でも俺は五冊以上の魔導書と契約してるから、床に置いた魔導書も一部に他ならない。まあ、他の魔導書はヴェルが持ってるんだがな」

「まだあるのか? どれだけの魔導書と契約するつもりだ? なにがしたい?」

「それはお楽しみだ」

「そういうのはいらないんだがな……」

「でもよく生きてたな。なんでだ?」

「俺が赤の一族だからだろうな。ヴォルフの部下だったってのもあるんだろうな」

「赤の魔導書が向こうの手にあったから仕方がない。むしろお前はそれが狙いだったんだろ?」

「そういうわけじゃないさ。ただ、手に入ればいいとは思っていた」


 額からは滝のような汗。このまま放っておいたら最上階までは保たなそうだ。


「腕を出せよ」

「なにする気だ」

「治してやるに決まってるだろ」

「治す? お前が? ガラじゃないだろ」

「そのままだと死ぬぞ。死にたいのか? 命張ってまで魔導書を手に入れたのに死にたいのか?」


 ウィロウは床に座り、黙って腕を出した。治療そのものは得意じゃないが、たぶんシャルフレギューラならばなんとかできるだろう。


「シャル、できるか?」


 魔導書が魔法少女の姿になった。


「いきなり呼び出しておいて不躾。まあ、できなくはない」

「じゃあ頼む」


 シャルがしゃがんでウィロウの腕に触れた。手から出た黒い靄が腕を包み、それが徐々に腕の形になっていく。まさかとは思ったが、やはりシャルフレギューラという魔導書は異常だ。失ったはずの腕まで再生しようとしている。


「よし、完了」


 靄が消えると、ウィロウの腕は元に戻っていた。


「これは、なんと言えばいいのか……」

「なにも言わなくていい。ヴェルたちの後を追うぞ」


 ウィロウを立ち上がらせて先を急ぐ。それでも懸念はまだいくつかあった。コイツはまだヴォルフのことを信頼している。スリエルのことは裏切れても、ヴォルフのことは裏切れないかもしれない。


 そうなれば俺がコイツを殺すしかないだろう。赤の大魔導書、その契約者を殺したくはない。殺したくはないが、コイツを殺すよりももっと酷いことになるかもしれない。


 重くなっていく頭を押さえながら階段を駆け上がっていく。時間はそこまでかかってはいないはずだ。


 無事でいてくれ。今はただそれだけを祈り続けていた。

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