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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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二十九話

 だからこそ、スリエルは世界最強の魔女と呼ばれている。大魔導書を凌駕する魔導力を持つ魔女として。


「クルーエル!」


 アルフィスはそう叫びながらハーシュへと駆け寄った。


「ボクはハーシュだ!」


 ハーシュが右腕を上げて魔導術を使おうとする。


「遅えよ!」


 その腕を下から殴りつける。バキッと、骨が砕ける音がした。


「クソっ! なんで……!」


 アルフィスよりもハーシュの方が魔導力は遥かに高い。魔導術で身体能力を強化しているハーシュの腕を折るだけの魔導力をアルフィスは持っていないはずだ。


 だから、もう一度腕輪の魔導力を開放した。


「あと三回!」


 時間をかければかけるほど不利になるのはわかっていた。魔女からもらった魔導力には限りがある。けれどハーシュの方はまだ本気を出していない。本気を出したハーシュに距離を取られたときに負けが決まるのをアルフィスは知っていた。


「マロウミスト!」


 ハーシュの身体から紫色の濃霧が吹き出した。すぐにハーシュの姿は見えなくなった。それだけではなく、その霧は肌に触れると弾けるような痛みを伴う。霧の粒一つ一つが電撃なのだろうか。そんなことを考えたがすぐにやめた。


 どうだっていい。


 傭兵も盗賊も、結局は魔獣や人を殺さなければ生きていかれない人種だ。そんな生活を続けていたからわかる。肌を刺すような殺気。強力な魔導力。足音、衣擦れ音、息遣い。


「逃げられると思ってんのかよ!」


 痛みなど感じている暇はない。距離を取られたら負けは確定だ。


 濃霧の中を突進し拳を振るった。


 拳に柔らかな感触。そして叫び声と共になにかが飛んでいく。


「あと二回!」


 魔導術を使って周囲の霧を払う。少し離れた場所でハーシュが尻もちをついていた。


「なんなんだお前は……!」


 右腕を押さえるハーシュの声などアルフィスには届いてはいなかった。


「聞こえるかクルーエル!」


 ハーシュにかける言葉など持ち合わせていない。いくら話したところでハーシュとわかり合えないことはわかっていた。ならば話しかける人間は一人だけだ。


「いいのか! そんなクソ野郎に好き勝手されて!」

「黙れ!」


 今度はハーシュがこちらへと向かってくる。魔導力を駆使して無理矢理右腕を使えるようにしたのか、右腕はしっかりと胸の前で構えられていた。


 ハーシュを追い払うようにして放った左ストレート。だがハーシュには届かず、逆に腕を折られることになった。先程自分がやったように、下から上へのアッパーだった。


「悔しくねえのかよ!」


 顔面に腹部にと打撃を食らう。アルフィスの魔導力では完全に防御できずダメージが蓄積していく。


 それでもアルフィスはやめなかった。


「お前の方がすごいって証明しなくていいのか!」


 左足に魔導力を集めてローキックを受ける。折れるまではいかないがヒビが入った。


「いつまでもいじけてんじゃねーぞ!」


 右ストレートで目の前にいるハーシュを追い払う。右を開いた半身であったため、左に避けることはわかっていた。だから左に避けたところで左のリバーブローを放った。


「くっ……!」

「ケンカは得意なんでな!」


 魔導力は低くとも殴り合いのケンカであれば抗える。


「これはただのケンカじゃないけどね」


 冷たい声だった。


 先程の攻撃はさほど効いていない。


「んなバカな」

「跪け」


 また電撃の鎖で縛られて地面に縫い付けられた。最初よりも強力で全身が痺れて指一本動かすだけでも難しかった。


「手こずらせてくれたね、ホント」


 思い切り顔面を蹴られて鼻血が出た。


「戻って、こいよ」

「まだ言うの? クルーエルはもう戻って来ない。ボクの方が上だから」

「そんな、ことは、ない」


 ハーシュの方が上であるならば、今までクルーエルが表に出ていたことに説明がつかない。クルーエルが表に出ていたのは、結局のところクルーエルの方が優先順位が高いからだ。今までのやりとりを考えれば、クルーエルの意識がなくなったからハーシュが出てきた。そしてハーシュの言葉で自分の殻に閉じこもった。


「示してみろよ! お前の方が有能だって!」

「うるさいんだよ!」


 もう一度蹴られて意識が飛んだ。目の前が霞み、景色がグニャリと歪む。


「負けんなよ……」

「まだ言うか。クルーエルはもう――」


 その瞬間、ハーシュが頭を押さえて膝をついた。苦しそうに顔を歪め、頭皮に爪を食い込ませていた。


「お前、なんで……!」


 思わず口端を上げた。


「いけ、お前のが上だ」


 電撃の鎖がボロボロと崩れていく。


「やめろ、やめろ!」


 何度も頭を振って意識を振り払おうとするハーシュ。おそらくは脳内でクルーエルと戦っているのだろう。


 腕輪の力はまだ残っている。しかしそれを使うだけの気力がなかった。起き上がるだけの体力もなく、息をしているだけで精一杯だった。


「アルフィスさん」


 式守の一人が屈んで声をかけてきた。


「魔法少女の方は?」

「互角です。おそらく、フォーリア様の魔導力が効いていんだと思います」

「なら、こっちがなんとかすりゃいいだけか」

「今治しますから」

「手早くな」


 式守は手際よく魔導術を使ってアルフィスの傷を癒やしていく。しかしハーシュの魔導術が微弱に残っているのか、傷の治りはよくなかった。折れた場所、ヒビが入った場所は依然として痛む。

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