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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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二十七話

 のけぞっている時間はない。思い切り踏み込んで前に出る。反撃されても避けられても構わない。その分の攻撃を当てればいいだけの話だ。


 よするには、最終的にそこに立っているものが勝者なのだ。


「こんの……!」


 打ち上げられたクルーエルだがそのまま素直に落ちてくるはずもなかった。電気を走らせて空中で軌道を変え、落下しながら蹴りを打ち込んでくる。ギリギリのところでそれを躱すが、クルーエルの攻撃で地面にヒビが入り足元がぐらついた。


「なんつー攻撃だよ」


 僅かに気を散らした瞬間に腹を殴られた。こちらも強烈な一撃であったが吹き飛ぶほどではなかった。ハルシュリードが風の鎧をまとわせてくれていると知っているから強引な手段に出ることができる。契約して間もなく信頼関係というほどのものはない。が、アルフィスはそれでもハルシュリードのことを信じている。元々魔操師でない貧弱な自分を守ってくれるのはこの女しかいない。そう思っている。そう信じているのだ。


「喧嘩――」


 左腕で胸ぐらを掴み上げた。


「上等!」


 拳を思い切り叩きつけて吹っ飛ばす。拳を振り抜いた次の瞬間には走り出してクルーエルを追いかける。


「これでどうだ!」


 脚を掴んで、更に拳を振りかぶって地面に叩きつけた。だが、ダメージを受けていたのはアルフィスだった。意識を失うほどの顔面への強打。なにが起きているのかを把握するのが難しかった。


 クルーエルを地面に叩きつけたつもりだったが身体が動かなかった。そのせいで彼女の脚を離してしまい顔面を殴られたのだ。


 今までのアドバンテージが嘘のように防戦一方になった。


 彼女の攻撃は早く鋭い。そこに魔導書の魔導力が乗って破壊力が増している。それ以上にただの殴り合いよりもずっと難しいのは彼女が小さく的が絞れないところにあった。非常に素早いため、視界に映っても気がついた時には逆サイドにいることも多い。攻撃も防御も困難を極めた。


 アルフィスは直感する。この少女はきっと自分と同じなのだと。


 ハルシュリードと契約する際にフォーリアから言われたことがあった。


『大魔導書と契約するからといって、その人間に魔導術の適正があるとは限らない』


 その言葉の意味は身に沁みている。契約できるのと魔導術を上手く使えるのは意味が違うのだ。そして、クルーエルも類にもれないのだ。だからこそ魔導力を総動員して打撃を仕掛けてきている。


 結論は、彼女は魔導術を使えない。


「じゃあ俺が教えてやらなきゃな」


 無理矢理裏拳を打ち込む。回避され、腹を殴られた。


 踏み込んで右ストレート。下からアッパーを打ち込まれて一瞬だけ意識が飛ぶ。


 左腕を伸ばして掴みにかかるがこれもひらりと避けられて、左腕の肘を下からかち上げられた。ビリビリと痺れるような感覚に、背筋に冷たい汗が流れ落ちる。


 だから、もう一度右ストレートを打った。


 思った通り、クルーエルは一歩踏み込んで肘鉄を脇腹に打ち込んできた。そこで、アルフィスは右足を踏み込んだ。


「このっ……!」


 ここまででわかっていることはクルーエルが完全なインファイターであり、ヒットアンドアウェイはそこまで得意ではないこと。魔導術を上手く扱えないので物理攻撃がメインであること。カウンターが非常に得意であり踏み込みが鋭い。そして、拳での攻撃しかしてこないこと。


「足元がお留守番してんじゃねーかよ!」


 足に攻撃をしたのではない。クルーエルの足を自分の足で地面に縫い付けたのだ。


 緩く放った右ストレート。躱される。これでいいと、伸ばしきった肘を曲げ肘で顔面を殴打した。クルーエルの両まぶたが落ちて視界が遮られていた。


 左拳でリバーブロー。彼女がバランスを崩す。ここで足の拘束を解いてやや距離を離す。さすがに逃げたいのだろう、サイドステップを踏もうとしたところを右のミドルキックで撃ち抜いた。


 小さな体が吹き飛び、バウンドし、地面を何度か転がった。


「まだやるかい、お嬢ちゃん」


 身体は痛む。息も上がっているし疲労も蓄積してきている。それでも前に進むのは「まだ相手に勝っていない」と本能が言っているからだ。まだだ。まだクルーエルは起き上がってくる。


 予想通り彼女は起き上がってきた。


「まだ、やれるわ」

「もうボロボロだろ。どうしてそこまでするんだよ。スリエルはこの世界を滅ぼそうとしてんだぞ?」

「そんなの関係ない。ママは、私を救ってくれたのよ。私が辛い目に遭ってる時、ママが来てくれなかったら私はどうなってたかわからない」

「なにがあったんだ」

「言うわけないでしょ。言ったってわからない。でも私はママのために戦うって決めたの。そればママの望みだから。私を愛してくれるのはあの人だけだから」

「愛してるならお前を戦わせたりしないと思うんだがな」

「私が望んだの。そうしたいって」

「お前がそう言うように仕向けたとは考えられないか?」

「考えられないわ」


 クルーエルの息が徐々に荒くなってくる。どこか様子がおかしい。


 突如、胸を押さえて苦しみ出した。


「お、おい大丈夫かよ」


 胸を押さえ、首を押さえ、膝を付き、そのまま倒れた。敵といえどさすがに心配になる。

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