二十五話〈ロウファン〉
オズワルド以降、敵の攻撃が激しくなった。依然として各階にしか魔獣や魔導師、魔操師を配置していないが攻撃的になっていった。
「おい」
階段を登っている最中ヴェルに呼ばれた。
「なんだ。余計な体力を消費したくないんだが」
「ちゃんと渡した魔導書と契約してきたんだろうな」
「当たり前だ。クソ面倒なことさせやがって」
昨日、眠っている俺のところにヴェルがやってきて魔導書を数冊置いていった。その契約書全部と契約しておけというのだから横暴極まりない。
「契約している最中は現実世界と時間の流れは違う。でも精神的疲労ってのがある。もっと考えて欲しいもんだ」
「仕方ないだろ。お前に渡す魔導書を探してたんだ。お前は普通の人間とは違うから数多くの魔導書と契約できる。それならできるだけ多くの魔導書と契約しておいた方が安全だからな」
「それで疲れてたら意味がないんだが……」
これも親心のようなものだと思えば納得できるが、それにしても前日の夜っていうのはやめてほしい。
ロックスを二十階に置いてきてから階段を登り続け、三十階、そして四十階までやってきた。
四十階の中央に立つのは一人の少女だった。まだ十代であろうか小柄でツインテール、発育もいいとは言えない。だがその目には自信が満ちており、口端はつり上がっていた。ひらひらしたワンピースを着ているが、厚めのタイツを履いているので戦闘時には気にならないといったところか。
「よく来たわね」
腕を組み、彼女が言った。あの少女が紫の契約者、クルーエル=ヴァイオレットだろう。
「そこをどくつもりはないんだな?」
ヴェルが対応するが「ないわ」とクルーエルが返してきた。
「私はママに恩返しをするの。だからアナタたちをここで倒す。と言っても戦力を削ぐだけでいいって言われてるから私の相手をする人以外は行っていいわよ」
「今「ママ」と言ったか?」
「そうだけど、それがどうしたの」
「ママとはスリエルのことか?」
「おかしい? 私を引き取って育ててくれたのはママよ。正確にはヴォルフだけど」
「スリエルがどんな人間なのかわかってるのか? いや、すでにアイツは人間ですらないんだぞ」
「アナタたちにとってママがどんな人なのかは知らない。でも私にとってはかけがえのない存在なの。私はママのために戦うって決めた。さあ、私とやるのはだれ?」
クルーエルが拳を胸の前で構えた。
「おいヴェル、アイツインファイターだぞ」
「わかってるよそんなこと。なんでスリエルがインファイターに育てたかはわからないが、ここにも適切なインファイターがいるだろ」
俺とヴェルが一人の男に視線を向けた。
「ま、俺の出番ってことになるなあ」
左右の拳を打ち付けてアルフィスが言った。
「大丈夫なのか?」
「あんなちっちゃい子に負けるわけないだろ? 任せとけよ、上手くやる」
正直この男がどれほど強いのかはわからない。それに知り合って一日二日だ、信頼関係もクソもないのだ。任せていいのかはわからないが、フォーリアの式守であり大魔導書の契約者だ。ここはコイツの言葉を信じるしかないんだろう。
「一応他の式守も何人か置いていく」
「オーケイ、東の魔女さん。ありがとうよ」
俺たちはアルフィスを置いて、クルーエルの横を通って階段へ向かった。その際、クルーエルは俺たちに目もくれなかった。




