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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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十六話〈ゲームオーバー〉

 後じさり、奇妙なものを見るような目で私を見ていました。


「責任とか義務とか愛とか正義感とか、今はどうでもいいんですよ。私はエメローラを母体として作られた遺伝子操作された人造人間です。父も母もなく、この世界に生まれ落ちたそのときより孤独でした。ですが、エメローラの記憶の一部はあるんです。なによりも私は一人ではありません。姉妹がたくさんいますので」

「それらもまた人造人間であろうが。なにが姉妹か。人としての体をなしていない者同士の姉妹関係など姉妹と言えるものか」

「そうですね、私たちは同じ人間を母体としたクローンですから姉妹とは少し違うかもしれません。でも、エメローラを母と考えれば、異父姉妹と言えなくもないでしょう?」

「詭弁だ、そんなもの」

「それでも構わないのです。こうして生まれ、こうして生きている以上「これ以上の私」にはどうやってもなれないのです。生まれや育ちは選べないのですから。それならば私は受け入れましょう。この世界で、こうして生きていることを受け止めます。そんな私は白の魔導書を得るということが人生の一部なんですよ。誰かに言われたから行動を起こすのではない。これが私であると、これこそが私の人生だと、人造人間であっても関係なのだと、私はそう言えたのならば、そのときようやく私は私になれるのです」


 小さく、深呼吸をしました。


「私は私になりたいから。エメローラのクローンで、人造人間で、白の一族であることが私であると認めたいから。自分を自分として形作れるのは、きっと、いつだって自分だけだと思うから」

「そんなことのために貴様は白の魔導書の試練を受けたのか……?」

「そうです。もう考えるのはやめて、自分の気持ちに従うことにしたので。求められるままに生きるなんて嫌なんです。だから――」


 剣を水平に構え、切っ先をセラフラテッドへと向けました。


「私は、私のために戦うと決めました」


 パキンっと、白い玉が真っ二つに割れて消えていきました。


 それを合図として、私は彼女へと突進しました。剣技はまだ拙く、剣筋もまだまだ甘いのでしょう。攻撃は容易に避けられて、しっかり返り討ちにされてしまいます。


 けれど、それでも私は前に進むのです。


「貴様はどうして……!」


 これは「ただの戦闘」ではなく、やはり明確な意味がある「試練」だったのです。


 彼女、セラフラテッドが憤っているのは間違いありません。ですが同時に彼女は私を試していた。私がなぜ、どうして白の魔導書を欲しているのか。なにを考えて戦っているのか。そしてこれからどういう人生を歩もうとしているのか。この試練は「まがい物」である私が、彼女にその存在を示すための試練なのです。


 戸惑っている彼女は先程よりも動きが鈍くなっているようでした。白い玉が壊される度に、彼女の戦闘力は落ちているのかもしれません。


 ようやく、私の剣撃が彼女の右足を斬りつけることに成功しました。この一撃のためにどれだけ攻撃されたかわかりませんが、こちらの攻撃が通ったのは事実です。


「いくらやっても貴様は人間にはなれん!」


 顔面に蹴りをもらい、また意識が飛びました。


「だからなんだと言うんですか!」


 それでも前へ。


「人として人に愛されることもない! 努力を重ねても人になることはできぬ! 所詮は「まがい物」のまま人生を終えるのだ!」


 打ち出された拳を、私は左手で受け止めました。受け止めることができるほどに彼女が弱体化しているのか、それとも手を抜いているのか。


「では「まがい物」のままでいいではありませんか」

「なんだと……?」

「いいですよ、人になれなくても。いいんです、人として愛されなくても。私を「まがい物」と知りながら、私を「人造人間として」愛してくれればそれでいい。意思を持ち、行動理念がある「人外」として見てくれればそれでいいんです」

「それで貴様は幸福を得られるのか」

「幸福とは人それぞれですよ。なにを幸せだと感じるかは私が決めます。たとえ世界のほとんどの人間に後ろ指を差されても、私が幸せだと感じるのであれば、それはきっと幸福と言えるのではありませんか?」

「誰かの価値観には流されない、か」

「ときに他人に合わせることは必要です。でもそれがすべてであってはいけないんです。それを自分のものであると錯覚してはいけないんです」


 力ずくで、彼女が私の拘束を振りほどいて後退しました。その距離、目測五メートル。


「もう、決めたのだな」

「ずっと迷ってました。私のような者がこの世界で生きていていいのかと。この世界で生きられるのかと。でもなんというか、どうでもよくなったんですよね。だって私は誰からも否定されているわけではありませんでしたから。私が出会った人たちは皆、私を受け入れてくれたのですから。この先私のことを拒否する人もいるでしょうが、その人のために私の人生を捻じ曲げるのもおかしな話だと思いませんか? 私は生きたいんですから。私のことを受け入れてくれる人たちと「私の人生」を生きたいんですから。だからもう迷わないし、自分を否定することもしません。人造人間上等ではありませんか。それが私なのですから」


 セラフラテッドは一つ息を飲み、かと思えばため息をついて構えを解きました。


「それが答えか」

「はい。まがい物の白の一族、いいじゃないですか。たまにはそういうのがあったって。特別感、ありませんか?」


 私がそう言うと、彼女は諦めたように微笑みました。


「守られてばかりのお姫様は嫌か?」

「嫌ですとも。そんなの、つまらないでしょう?」

「なんて顔で笑うのだ、貴様は。そんな顔をされたら認めざるを得ないだろう」


 最後の球体がセラフラテッドの元を離れ、ゆっくりとこちらに近づいてきました。


「世界のため、人のためだと言い続けるようならば叩き潰してやった。だが貴様はそうではなかった。認めよう、まがい物の白の一族よ。さあ、最後の球体を砕くがよい」


 目の前までやってきた白い球体を見つめながら、私は剣を納めました。


「では、私もアナタを尊重します。この身はアナタと一心同体。受け入れてくれて、ありがとう」


 白い球体を両手でそっと包み込む。胸に抱くと、白い球体は空気に溶けて、まるで私の中へと吸収されていくようでした。


「大した娘だ」


 白い壁は音を立てて崩れ去り、試練の終わりを告げました。


「試練は終了した。戻るがいい、待っている者がいるのだろう?」

「ええ、大切な人たちが待ってます」

「向こうでまた会おう。我が主よ」




〈ゲームオーバー〉

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