十二話
「いやー、遅れて申し訳ない。俺こそが大魔導書の契約者、アルフィス=グリーンだ!」
身長が高く筋肉質、見ての通りのお調子者といった感じの大男だった。まだ若く年齢はおそらく俺より少し上くらいだろうか。
「おいヴェル、本当にあれが緑の契約者なのか?」
「そうみたいだな。これは、先が思いやられる」
「アナタ今までなにしてたの? 会議が始まる前には戻って来なさいといったでしょう」
「思った以上に遠くまで行っちまってさ。なあに心配はないさ。敵がきたらぶっ飛ばしてやるからさ」
「もう、本当に……」
あのフォーリアの頭を悩ませるとは、この男は相当面倒な男なんだろう。
「とんでもないヤツが仲間になったもんだな」
「お前が言うな。お前だって目を離したらどこかに行くような放浪癖があるだろうに」
「俺はあそこまでバカっぽくない」
「そういう問題じゃない。これからはちゃんと私の指示に従えよ? あんなふうに見られたくなかったらな」
「善処しよう」
「善処じゃなくて必す指示に従え。わかった?」
「善処しよう」
「クソガキ……」
ここにも一人、頭を悩ませる魔女がいるみたいだ。
アルフィスがフォーリアの後ろに座った。満面の笑みを浮かべながら食堂を見渡し、うんうんと頷いていた。なにを納得したのかわからんが、大人しくしていられないというほどでもないようだ。あとは話が通じる相手であればいいのだが。
「一応白と紫の大魔導書はあるようだし、ここには五冊の大魔導書があることになるな。白の方はあてがあるって言ってたけど本当なのか?」
オクトリアがイスの背もたれに体重をかける。
「大丈夫だ」
白の大魔導書を手に取ったヴェルは表紙をしげしげと眺めた。
「ほら、これはお前のだ」
そう言って大魔導書を渡す。渡した相手は予想外の人物だった。
「私、ですか?」
受け取ったのはレアだ。
「レアが白の一族だってのか?」
「正確には白の一族の誰かの遺伝子情報が組み込まれている。いろいろと調べてみた結果、そういうことになった」
「つまり私はこれから契約するために精神世界に向かわなければいけない」
「ただし、契約には当然のように試練がついてくる。試練をクリアできなければお前は死ぬ。それはわかってるな?」
それはレアもわかっている。それでも彼女は微笑み「ええ」と言った。
「大丈夫です。私がやらなきゃ、いけないことだって思ってるので」
彼女は俺の顔を見て、俺の手を取った。
「応援、してくれますよね?」
「必要か?」
「必要に決まってるじゃありませんか。アナタが背中を押してくれれば私はどこまでも頑張れる気がするんです。背中、押してくれますよね?」
「わかった。じゃあ応援しよう」
「わかってませんね。そういう時は身体で示してくれないと。はい立って」
言われるがままに立ち上がると、レアが両手を広げていた。
「さあさあ」
「こんなところでなにやらせようとするんだお前は」
「私はこれから契約に向かいます。もしかしたら二度と帰って来られないかもしれません。これが、最期になるかもしれないんです」
そう言われると惜しくなる。お前は大丈夫だ、自信を持って行って来いとは言えない。まるで死ぬのを許容するみたいだ。
「俺はお前に死んでほしくないからな、正直ここで背中を押してやりたくはない」
「それでもやらなきゃダメなんです。アナタが私を助けてくれた時、アナタはシャルフレギューラの試練に挑んだのでしょう? 今度は私の存在がアナタを助けるかもしれないんです。死にに行くつもりはないんです。だから、帰ってくることを祈って、帰ってこられるように力をください」
「力って言われても……」
「愛は力ですよ」
そう言って、彼女は目を細めて笑った。
「ああクソっ」
俺は彼女の身体を強く抱いた。彼女もまた俺の背中に手を回し、抱きしめ、背中を擦った。
「必ず戻ってきますからね」
「戻って来なかったら覚えてろよ」
「そうですね、その時はどんな罰も受け入れるつもりですよ」
どちらともなく身体を離した。レアは恥ずかしそうはしていたが、それ以上に嬉しそうに頬を赤く染めていた。
彼女は白の魔導書を胸に抱き「それでは行ってきます」と小走りで食堂を出ていった。
「おいおいアツいじゃないか! お前らできてんのか!」
アルフィスがヤジを飛ばしてくる。こういうヤツだろうなとは思っていたが、魔女四人が揃ってるこの場で冷やかしてくるとは随分と肝が座っている。
「白の方はレアに任せるとして紫の方はどうするんだ」
「今も探してる。紫の一族が見つかり次第、スリエルに対して強襲を仕掛ける。それまでにやることはあるんだが――」
その時、大地が揺れた。大きい縦揺れの地震は数分続き、収まってからも余震があった。
魔女の四人は弾かれたように外へと向かった。俺や他の式守もあとに続いて屋敷の外に出た。




