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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
138/225

七話

 愛しの我が家とは言えないが、ヴェルの家は実家と言っても差し支えない。バカでかい木造の屋敷。高そうな骨董品や絵画などは一つもなく、無造作に置かれている魔導書や魔導具なんかが懐かしく思える。たまに掃除屋を雇って屋敷を掃除させているはずなのに、気がつけば同じ場所に同じものが置かれる。こういうところも変わっていなかった。


「よう、久しぶり」

「出迎えてくれるのは嬉しいが、久しぶりというほどじゃないだろ」

「この家に帰ってくるのは久しぶりだろ?」

「まあ、たしかに」

「だったら久しぶりでいいんだよ。で、その顔を見る限りだと嬢ちゃんは大丈夫そうだな。つまりは無事に大魔導書と契約できたわけだ」

「察しが良くて助かる。今は車の中で気持ちよさそうに寝てるがな」


 ここで、俺はヴェルに訊かなければならないことがある。しかし訊いていいのか、訊かない方がいいいのかがわからなかった。世の中には聞かない方がいいことだってあるのだから。


「その顔、なんか訊きたそうだな」

「わかるか」

「私を誰だと思ってる。お前の師匠で世界に四人しかいない魔女だぞ? お前との関係も、もう何年になるかわからない」

「八年くらいだろ。耄碌するには早いぞ」

「そうだな。で、なにが訊きたい?」

「俺のこと、知ってて拾ったのか?」

「そのことか。最初は知らなかった。拾った後でお前がブラックだと言ったから知った。これで満足か?」

「ああ、満足だ。シスターズはどうしてる」

「中で休んでる。正直私の魔導力だけじゃ延命が精一杯だからな。さっさと魔導書に仕事させろ」

「わかってる」


 魔法少女化したシャルをヴェルに預けた。二人は一足先に屋敷の中に入っていく。それを見送ったあと、車に戻ってレアを抱きかかえた。


「ついたのですか?」


 歩き出してすぐ、レアがそう言った。


「起きたのか」


 しかし俺は足を止めない。


「ホントはずっと起きてました」


 彼女は「ふふっ」と笑い、俺の腕に顔を埋めた。


「やめろ、臭いぞ」

「確かに臭いですね」

「じゃあやめろよ……」

「臭くない人はいません。だって人なんですから。それに臭いけど嫌いじゃないですよ。ロウが生きてるんだって証明してくれてるんですから」

「恥ずかしいことを言うな」


 屋敷に入り、自分の部屋に向かった。


 元々俺が使っていた部屋はあの頃からほとんど変わっていなかった。埃も積もっておらず、ちゃんと掃除されているのがわかる。ベッドもそのままだが、枕が二つあったかまでは覚えていない。おそらく枕を買い替えたヴェルが、古いのを俺の部屋に置いたんだろう。


 ベッドにレアを寝かせたが、彼女はすぐに起き上がってきた。


「なんのために抱き上げてきたと思ってるんだ。休んでろ」

「そういうプレイなのかと思ってました」

「んなわけないだろ」

「姉妹たちのところに案内してもらえませんか?」

「まだ休んでた方がいい。会うのは体力が戻ってからでもいいだろ」

「ダメです。大事な、姉と、妹なんです」


 先程まで冗談を言っていた少女の顔ではなかった。


 シスターズ、と言い出したのは俺かもしれない。それでもレアは本当の姉妹のように思っているのだ。自分と同じように造られたクローン。しかし完全に同一な個体は一つもなく、それぞれに個性が見える。完全なクローンでないのにクローンとして造られ、人として生きようとしている。だからこそ、俺たちのような「普通に生まれた人間」では理解できない気持ちを共有しているのだ。そういう意味ではやはり姉妹なのだ。


「わかった」


 一歩近づくと「ダメです」と胸を押し返されてしまった。


「自分で歩きます」

「いやしかし――」

「リハビリ、必要ですよね?」


 そう言いながらも右手を胸の高さまで上げた。


「エスコートならお願いします」

「お前ワガママだな」


 その手をそっと取り、二人で部屋を出た。


 一度筋力が落ちてしまったため、彼女の歩幅はかなり小さい。それに身体が左右に揺れるので非常に危なっかしい。空いている右手で支えようとすると「ダメです」と押し返される。その後で「ありがとうございます」なんて笑うもんだから、気持ちを尊重させてやりたくもなる。

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