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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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四話

 オクトリアの顔面を殴り潰し、背後から襲いかかってきたイツカの腹部に剣を突き立てた。フォーリアに近づくが、フォーリアと入れ替わるようにしてヴェルが立ちふさがる。だから、そのままヴェルを切り捨ててフォーリアを蹴り飛ばす。宙に浮いたフォーリアを追いかけ、四回ほど刃を入れた。


「こうなると、次はお前らだよな」


 メームルファーズ、ルルインカーシュ、アンクレスカ、タルタロッサ。


 メーメが影を生み出し、ルルが炎の銃弾を打ち出した。


 アンが突風と共に突進し、タルトが支援するように水の盾を展開している。


「そうやって助けてくれてたんだな」


 基本的に俺は前に出て戦ってるから、コイツらがどうやって俺を支援してくれてたかなんて見ることがない。相手にしてみれば初歩的な魔導術であっても、四人が揃ったら面倒なんだな。


 俺はそんな魔法書たちに救われてきたのだ。


 そんなコイツらを好き勝手に真似されて、黙っているほど俺は大人にはなれない。たぶんなってはいけないんだと思う。


「すぐ終わらせてやる」


 魔導書は魔導術の教本である。と、誰かが言った。誰かではない、ヴェルだ。それならば魔導書をずっと魔導書を見続けてきた、魔導書を使役してきた、魔導書に助けられてきた俺は魔導書を教本にできたのだろうか。


 これでも一応魔女の弟子だ。今までの経験を教訓にできなきゃ、俺はヴェルの元でここまで成長できなかった。


「お前の得意技はこうだったな」


 突っ込んでくるアンを風の魔導術でねじ伏せて地面に叩きつけた。


「お前の弱点はわかってるぞ」


 タルトが張った水の盾を魔導力で中和して、そのまま飛び込み切り裂いた。


「お前のはこうじゃないか?」


 地面に切っ先を這わせ、切っ先が地面を離れるのと同時に炎を出した。炎の刃はルルの弾丸を打ち消して本体を焼いた。


「お前のはもっと簡単だ」


 メーメに近づき影を踏む。次の瞬間、メーメの動きが止まった。そして、斬った。


 魔導書をちゃんと読んだことなどない。コイツらの魔導術を注視したこともない。だが身体が覚えている。難しいことはできなくとも、これがコイツらとの繋がりなのだと思い知らされた。


 深呼吸を一つ。残った人影は二つ。一つはシャルフレギューラ。そしてもう一つは――。


「お前が残るのか、レア」


 トントンと、軽快な足取りで歩いてくる。これまでとは全く違う。素早く動くこともなければ襲いかかってくることもない。


 そうして俺とレアとの距離が五メートルほどまで縮まった。


「これで終わりだ」


 剣を構える。足に力を入ようとした次の瞬間、レアの口が小さく開いた。


「ロウ」


 そう言ったのだ。


「口を閉じろよ偽物」

「ええ、そうですね」


 そう言いながら彼女は大きく手を広げた。


「アナタのためなら、この身を捧げる覚悟があります」

「口を閉じろと――」


 目尻が下がる。口角が上がる。そう、彼女は笑ったのだ。


「この命はアナタと共にあるから。私は死も恐れない。それは嘘だけれど、殺されるならアナタがいい。怖いけれど、アナタがそれを望むなら、それが私の望みですから。アナタの望みを叶えたいから」

「こんなことで俺が踏みとどまるとでも思ったかよ」

「踏みとどまらなくていい。アナタはアナタらしくいてください」


 惑わされるな。これはシャルフレギューラが喋らせてるだけだ。俺の記憶を探り、レアの言葉をつなぎ合わせているに過ぎない。


 それでもきっと、本物のレアでもこの状況で同じことを言うだろう。


「一つ言っておくぞ」

「なんでしょうか」

「俺はお前の望みを叶えるつもりはない」

「でもアナタの望みが私の望みです。それならばアナタが望みを叶えれば、必然的に私の望みを叶えることになりますよ?」

「違うな。俺が望みを叶えた時、お前の望みが勝手に叶うだけだ。俺が叶えたんじゃない」

「同じことだと思いますが……」

「同じじゃないだろ。お前はお前の手で望みを叶えるんだよ。俺の行動に乗っかるだけの陳腐なやり方じゃなく、お前がお前だけのために行動して願い現実にするんだよ。頼ることに慣れるな。望みも願いも志しも、片を付けられるのはお前だけだ。だから――」


 剣を握り直した。


「ちゃんと生きて、ちゃんと俺の側にいろよ」


 風切り音が聞こえた。


 瞬く間に肉薄し、レアの胸を剣で貫いた。


「俺は迷わないぞ」

「私も、そうなれるでしょうか」

「知らん。勝手になればいいだろ」


 剣を引き抜き二歩下がった。


「手伝いくらいはしてやるさ」


 彼女がもう一度微笑んだ。


「それは、嬉しい限りですね」


 サラサラとレアの身体が中に溶けていく。最後に一筋の涙を流し、数秒と経たずに彼女の身体は消滅した。


 レアは俺に恩義を感じているんだろう。彼女のことだから一生そう思いながら生きていくはずだ。それでも俺とレアは違う人間で、当然のように生き方も違うのだ。俺の望みと彼女の望みが完全に一致することはない。もしも一致することがあるのなら、それは「少なからず彼女が願望を捻じ曲げた」からに他ならない。例えばレアを殺すことが俺の望みであっても、それは彼女の望みにはならないからだ。だって彼女は言ったのだ。


『私は死も恐れない。それは嘘だけれど』


 死を恐れた。死にたくないと思ったのだ。死にたくない、死ぬのが怖いと思ったのならば俺の願いとは相反する。殺されるのならば俺がいいのであって、殺されること自体を肯定してはいないのだから。


「残ったのはお前だけだな」


 剣の切っ先をシャルフレギューラに向けた。しかしシャルフレギューラはニコニコと笑うばかりで襲ってくる気配がない。


「これで試練は終了よ」

「お前は戦わないって? そりゃ卑怯じゃないか? 全部倒せって言ったのはお前だぞ」

「私はそんなこと言っていないわ。貴方がそう言っただけ。私はそれに対して「そういうこと」と返しただけ。完全に肯定したわけじゃないわよ?」

「揚げ足取りみたいなことしてんじゃねーぞ」

「私が倒して欲しかったのは偽物だけよ。ということで、これにて試練は終了。貴方の勝ちです」


 シャルフレギューラはニコニコ顔で手を叩いていた。パチパチパチパチと俺を小馬鹿にしたように拍手をしていた。


 納得したわけではないが、勝ちと言われたならそれに従う他ない。


 俺が剣を仕舞うと彼女はようやく手を止めた。そして、こちらへと歩いてきた。




勝者:ロウファン




〈ゲームオーバー〉

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