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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と壊れた軍師》
127/225

十三話

3ターン目[ウィロウ]





 後手に回ってはしまったが、こちらも左手を使って行動を起こす時がきた。敵の駒と自分の駒が近くなったということは、左手を使って奇襲を視野にいれなければならない。


 考えた末、C3をB2に移動させてレインの駒を取った。次にD4の駒をD5に右手で移動させ、D5からC5に左手で移動させた。D4からD5までの動きはレインにも見えたはずだが、D5からC5への移動は見えていないはずだ。


「ようやく読み合う必要がでてきたねえ。結構結構」

「お前の目、なんか見透かされてるみたいで嫌な気分だな」

「魔法少女だからねえ」

「そんな理屈が通じるわけないだろ」

「わからないよお? 本当に、あなたの心を読んでいるのかもしれない」

「それなら試練にならないだろ」

「まあそうなっちゃうよね」


 レインの性格も行動も、まったく読ませてはもらえなかった。表情もそうだが手の動きもそうだ。普段と変わりません、と言わんとしている。そんな態度だった。それがまた気に食わなかった。手のひらで踊らされているように癪に触るのだ。





3ターン目[レイン]





 レインはB4からB5に駒を移動させ、こちらの駒を取っていた。


 しかし、レインの動きはそこで終わってしまう。


「1つだけでいいのか?」

「1つだけかどうかは言えないんだよねえ。でもね、敵の駒との距離が近くなってきているんだから、迂闊にたくさん動かしてもいいことはないんだよお」

「確かにそうだな。意味なく動かしてもいいことはなさそうだ」


 離れている駒を動かし、敵の駒から遠ざけるというのも手の1つかもしれない。だがそれをやっても敵の駒を取ることはできない。自分の他の駒と離れてしまえば攻めづらくなり、置いていかれた駒が取られる可能性だってある。


「よおく考えるといいよお。時間制限はないからねえ。好きなだけ考えて、納得した答えを体現すればいい」

「教えてくれているようで、本質はなにも教えてくれないんだな」

「試練だもの、当然だよお」


 今度は笑っているだけではなかった。


 レインの瞳の向こうには、なにかよくない光が宿っているように見えた。


 直感する。楽観するのはもう終わりなのだ。相手の思考をきちんと読み、考え、その上で行動しなければ負ける。


「負けは死への滑走路。さあ、お次をどうぞお」


 レインの唇が、ゆっくりと口端を上げていた。





4ターン目[ウィロウ]





 B5にあるレインの駒を取るかどうか。ここが迷いどころだった。


 今レインはこちらの駒がC5にあることを知らない。左手で動かしたからだ。せっかく左手で動かした駒なのに、わざわざ位置を知らせるような真似をしていいものか。


 拳を作って頭を叩く。


 まず右手でD3の駒をC3に移動させる。見た限りでは隣接する駒がないはずだ。


 そして、相手の駒を取るかどうするか。結局それで迷っている。


 何度も迷ったが、B5にある駒を取ることにした。取れるべきときに駒を取らなければ、左手で駒を動かした意味がないからだ。


「せっかく左手で動かしたのにねえ。ちょっとバラすのが早すぎないかなあ?」

「今取らなきゃいけないと思ったから取った。逃げられても厄介だからな。例えばこのまま、お前のターンで左手で動かされたらそれこそどこに行ったかわからなくなる。姿が見えているのならばきっちり取っておくべきだ」

「いい心構えねえ。ちゃんと理解しながら先に進んでるようで安心したよお。さあ、どんどんあなたのことを教えてほしいなあ」

「教えてほしい? 俺が教えることなんてない。お前が勝手に理解するんだよ。次、お前の番だぞ」


 レインはニコリと微笑み盤上に手を乗せた。





4ターン目[レイン]





 予想通り、B4の駒をB5に移動してこちらの駒を取った。これで駒の数は3対3になった。


「ここからは予想と推測の世界になってくるね。最序盤に動かした駒を左手で動かしているかどうか。ちなみに言うけど、左手で動かした敵の駒と、左手で動かした自分の駒の場所が同じっていうこともあるからねえ」

「相手の駒を取れるのは生きてる駒だけだから、か」

「そういうこと。あと二つ駒を取った方が勝ち。数的有利を取った方が当然いいけれど、1ターンの間に駒を二つ取られる可能性がある、ということも考慮しておいた方がいいよお」

「生き返れる駒は3つまで」

「うんうん、ちゃんとルールを覚えているねえ」

「馬鹿にしてるのか? ガキ扱いしないでもらいたい」

「バカにしてるつもりはないんだけどねえ。でもあなたが生まれるずっと前に作られたんだ、少しくらい年上ぶってもいいだろお?」

「確かに、そうだが……」

「ほらほら、次はあなたのターンじゃないのかい?」

「わかってる」


 人差し指で頭を掻き、ウィロウは駒を動かすことにした。

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