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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と壊れた軍師》
126/225

十二話〈ゲームスタート〉

  1 2 3 4 5

A┌┬┬┬┬┐

B├┼┼┼┼┤

C├┼┼┼┼┤

D├┼┼┼┼┤

E├┼┼┼┼┤

 └┴┴┴┴┘





1ターン目[ウィロウ]



「こういうゲームは経験者である魔法少女に有利なんじゃないか?」

 どの駒を動かそうかと、右手を上げたままレインに訊いた。

「どうしてそう思うんだい?」

「俺はこういうゲームは苦手だ。兵に指示を出して戦況を動かすのはヴォルフの仕事だったからな。俺は特に頭がいいわけじゃない。それに定石だってわからなきゃ勝負にならないだろ」

「大丈夫さ。私にだって定石はわからないよ」

「何度もやってるんじゃないのか?」

「そんなわけないだろう? 私は通称大魔導書だよ? 誰が私と契約するって言うんだい?」

「つまり両方初心者ってことか」

「そういうことだねえ。だから気負う必要はないさ」

 はははっと笑っているが、ウィロウは素直に喜べなかった。負ければ自分の命がないのだ。

「笑えるわけないだろ」

「まあ、そうだろうね。ちなみにいっておくけど、このゲームにパスはないよ。それに5×5マスだから結構速く終わるんだ。そうだなあ、10ターンもあれば終わるんじゃないかなあ。手をこまねいてると終わっちゃうから、時間をかけることを考えない方がいいよお」

 わからないのならば手探りで覚えるだけ。今までだってそうだった。剣を振るのだってそう、人を殺すのもそう。誰かに忠誠を誓うのだって、全部手探りでやってきた。そうやって自分を作ってきたのだ。

 まずは右手でE1からD1、E2からD2、E3からD3に移動させた。単純に左3つの駒を前に出しただけだ。しかしこれでいいのだとうなずいた。

 深く考えるのはあまり得意ではない。得意ではないが、なんとなくわかることはあった。

 5×5マスということは、自分が前に進め、相手が自分と同じ列の駒を前に進めた場合、次のターンにはその列の駒を前に進めることはできない。もちろん取られてしまうからだ。もしも相手がミラーで対処してきたとき、後手に回るのは間違いなく自分となる。

 このゲームは最大3つ、最低1つ動かさなければいけない。つまり目先の駒を取るのではなく、自分の駒を取らせたあとの行動が重要になる。駒は1マスずつしか動かせないから、自分の前に駒がくるようにすればいい。

 そうはわかっているが、それができるかどうかと言われると違ってくる。

「考えるのは、苦手なんだがな」

「そういう割には目が輝いてるね」

「そう見えるか」

「私にはそう見えるよ」

 レインはそう言いながら、自分の駒を動かし始めた。




1ターン目[レイン]




 レインもまた、右手で3つの駒を動かした。ミラーで3つ。A1をB2へ、A2をB2へ、A3をB3へ。

「なんで左手を使わないんだ」

「まだその時じゃないからさ。左手を使って奇襲をかけるのは途中から。最初からやったら墓穴を掘りかねないからねえ」

「どうして墓穴を掘ることになるんだ? 相手にバレないように接近できるんだから楽だろ?」

「それってさ、相手がテキトーに置いた場所の駒があるかもしれないってことでしょ? テキトーに駒を動かしてもいい時にやるべき行動ではないよねえ」

 レインはにやにやと笑っていた。

 一筋縄ではいかないことはわかっていた。それでも相手に不足はない。

 勝負はレインが動かす駒を少なくする時。しかしレインが動かす駒を少なくしてからでは遅いのだ。それはつまり、読み合いにおいて先手を打たれることになる。それだけは避けなければならなかった。





2ターン目[ウィロウ]





 まずはラインを押し上げることを最優先で考えることにした。ここで重要になるのは「一歩だけ前に出てしまう」ことである。お互いに二列目に駒が揃っている場合、先攻であるこちら側が不利になる。必ず1つだけ動かさなくてはいけないルールだからこそ、どこかで一歩前に出る必要があるのだ。

 E4をD4へ、E5をC4に移動させた。もちろん右手で行った。

「なかなか大胆だねえ。全部右手で指すなんて」

「でもこれで正しいはずだ」

「なるほど、左手ではなく無理矢理右手でやり込めようって腹かねえ。そりゃ無理な話だと思うけど」

「そうとも限らないだろ? 勝負は始まったばかりだからな」

「さっきも言ったと思うけどねえ、このゲームはすぐに終わるんだよ。始まったばかり、なんて言ってたら足をすくわれることになるよお?」

「じゃあ掬ってみたらいい。俺だって簡単にはやらせないさ」

 レインを見習って微笑んでみた。

「そんな作った笑顔じゃ、ブラフにもならないと思うけどねえ」

 内心を探られているようで気分がよくなかった。

 しかし、こういうやり取りもきっと必要になる。ただの戦士としての能力だけでは、この先に生き残る道はない。ゲームの話だけではなく、現実世界でもそうなのだ。

 戦うことに意義を見出し、それが自分の役目と言い聞かせ続けてきた。納得したフリをして考えないようにしてきた。その結果がこれだ。見たいものだけ見てきた。見たくないもの、考えたくないものは排斥して生きてきた。ヴォルフを信じていればいいと思ってしまった。

「さあ、次はお前の番だぞ」

「わかってるさ。まあ、泣きを見ないことだけを祈っておくよお」





2ターン目[レイン]





 レインはA4をB4に、A5をB5に移動させた。

「これでターン終了だねえ」

 先手を取られた。もう少しだけ引っ張れるかと思ったが、動き出しがあまりにも早すぎたのだ。

 しかしおかしなことに、レインは自分の駒を一直線に並べているではないか。こちらの右端の駒とレインの右端の駒が隣接している。これでは取ってくれと言っているようなものだ。

 それに二回しか動かさなかったということは、左手を使った可能性も十分考えられる。使ったかもしれないが、使っていないかもしれない。

 悩みは尽きず、頭を抱えそうになった。

「納得いかないって顔してるねえ」

「そういうわけじゃないさ」

「なるほど、私が二つしか動かしていないのが気になってるんだねえ。いいよいいよ、そういうのが欲しかった。こうでなくちゃ試練とは呼べない」

「人が困って、悩んで、苦しんでる姿が楽しいのか?」

「そうじゃないよお。試練なんだからさ、困って、悩んで、苦しんで当然なんだよ。私が見たいのはその先なのさあ」

「その、先」

「そう、その先。行かれるかな、苦悩の先にある、成長した自分のところにさ」

 レインが手を出し「どうぞお」と変わらぬ様子で言った。

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