十二話〈ゲームスタート〉
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A┌┬┬┬┬┐
B├┼┼┼┼┤
C├┼┼┼┼┤
D├┼┼┼┼┤
E├┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┘
1ターン目[ウィロウ]
「こういうゲームは経験者である魔法少女に有利なんじゃないか?」
どの駒を動かそうかと、右手を上げたままレインに訊いた。
「どうしてそう思うんだい?」
「俺はこういうゲームは苦手だ。兵に指示を出して戦況を動かすのはヴォルフの仕事だったからな。俺は特に頭がいいわけじゃない。それに定石だってわからなきゃ勝負にならないだろ」
「大丈夫さ。私にだって定石はわからないよ」
「何度もやってるんじゃないのか?」
「そんなわけないだろう? 私は通称大魔導書だよ? 誰が私と契約するって言うんだい?」
「つまり両方初心者ってことか」
「そういうことだねえ。だから気負う必要はないさ」
はははっと笑っているが、ウィロウは素直に喜べなかった。負ければ自分の命がないのだ。
「笑えるわけないだろ」
「まあ、そうだろうね。ちなみにいっておくけど、このゲームにパスはないよ。それに5×5マスだから結構速く終わるんだ。そうだなあ、10ターンもあれば終わるんじゃないかなあ。手をこまねいてると終わっちゃうから、時間をかけることを考えない方がいいよお」
わからないのならば手探りで覚えるだけ。今までだってそうだった。剣を振るのだってそう、人を殺すのもそう。誰かに忠誠を誓うのだって、全部手探りでやってきた。そうやって自分を作ってきたのだ。
まずは右手でE1からD1、E2からD2、E3からD3に移動させた。単純に左3つの駒を前に出しただけだ。しかしこれでいいのだとうなずいた。
深く考えるのはあまり得意ではない。得意ではないが、なんとなくわかることはあった。
5×5マスということは、自分が前に進め、相手が自分と同じ列の駒を前に進めた場合、次のターンにはその列の駒を前に進めることはできない。もちろん取られてしまうからだ。もしも相手がミラーで対処してきたとき、後手に回るのは間違いなく自分となる。
このゲームは最大3つ、最低1つ動かさなければいけない。つまり目先の駒を取るのではなく、自分の駒を取らせたあとの行動が重要になる。駒は1マスずつしか動かせないから、自分の前に駒がくるようにすればいい。
そうはわかっているが、それができるかどうかと言われると違ってくる。
「考えるのは、苦手なんだがな」
「そういう割には目が輝いてるね」
「そう見えるか」
「私にはそう見えるよ」
レインはそう言いながら、自分の駒を動かし始めた。
1ターン目[レイン]
レインもまた、右手で3つの駒を動かした。ミラーで3つ。A1をB2へ、A2をB2へ、A3をB3へ。
「なんで左手を使わないんだ」
「まだその時じゃないからさ。左手を使って奇襲をかけるのは途中から。最初からやったら墓穴を掘りかねないからねえ」
「どうして墓穴を掘ることになるんだ? 相手にバレないように接近できるんだから楽だろ?」
「それってさ、相手がテキトーに置いた場所の駒があるかもしれないってことでしょ? テキトーに駒を動かしてもいい時にやるべき行動ではないよねえ」
レインはにやにやと笑っていた。
一筋縄ではいかないことはわかっていた。それでも相手に不足はない。
勝負はレインが動かす駒を少なくする時。しかしレインが動かす駒を少なくしてからでは遅いのだ。それはつまり、読み合いにおいて先手を打たれることになる。それだけは避けなければならなかった。
2ターン目[ウィロウ]
まずはラインを押し上げることを最優先で考えることにした。ここで重要になるのは「一歩だけ前に出てしまう」ことである。お互いに二列目に駒が揃っている場合、先攻であるこちら側が不利になる。必ず1つだけ動かさなくてはいけないルールだからこそ、どこかで一歩前に出る必要があるのだ。
E4をD4へ、E5をC4に移動させた。もちろん右手で行った。
「なかなか大胆だねえ。全部右手で指すなんて」
「でもこれで正しいはずだ」
「なるほど、左手ではなく無理矢理右手でやり込めようって腹かねえ。そりゃ無理な話だと思うけど」
「そうとも限らないだろ? 勝負は始まったばかりだからな」
「さっきも言ったと思うけどねえ、このゲームはすぐに終わるんだよ。始まったばかり、なんて言ってたら足をすくわれることになるよお?」
「じゃあ掬ってみたらいい。俺だって簡単にはやらせないさ」
レインを見習って微笑んでみた。
「そんな作った笑顔じゃ、ブラフにもならないと思うけどねえ」
内心を探られているようで気分がよくなかった。
しかし、こういうやり取りもきっと必要になる。ただの戦士としての能力だけでは、この先に生き残る道はない。ゲームの話だけではなく、現実世界でもそうなのだ。
戦うことに意義を見出し、それが自分の役目と言い聞かせ続けてきた。納得したフリをして考えないようにしてきた。その結果がこれだ。見たいものだけ見てきた。見たくないもの、考えたくないものは排斥して生きてきた。ヴォルフを信じていればいいと思ってしまった。
「さあ、次はお前の番だぞ」
「わかってるさ。まあ、泣きを見ないことだけを祈っておくよお」
2ターン目[レイン]
レインはA4をB4に、A5をB5に移動させた。
「これでターン終了だねえ」
先手を取られた。もう少しだけ引っ張れるかと思ったが、動き出しがあまりにも早すぎたのだ。
しかしおかしなことに、レインは自分の駒を一直線に並べているではないか。こちらの右端の駒とレインの右端の駒が隣接している。これでは取ってくれと言っているようなものだ。
それに二回しか動かさなかったということは、左手を使った可能性も十分考えられる。使ったかもしれないが、使っていないかもしれない。
悩みは尽きず、頭を抱えそうになった。
「納得いかないって顔してるねえ」
「そういうわけじゃないさ」
「なるほど、私が二つしか動かしていないのが気になってるんだねえ。いいよいいよ、そういうのが欲しかった。こうでなくちゃ試練とは呼べない」
「人が困って、悩んで、苦しんでる姿が楽しいのか?」
「そうじゃないよお。試練なんだからさ、困って、悩んで、苦しんで当然なんだよ。私が見たいのはその先なのさあ」
「その、先」
「そう、その先。行かれるかな、苦悩の先にある、成長した自分のところにさ」
レインが手を出し「どうぞお」と変わらぬ様子で言った。




