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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と壊れた軍師》
125/225

十一話

 白い空間の中で、一人の少女が佇んでいた。赤く癖の強い長い髪の毛は、さながら炎のようだった。


 カレッティア、シュリアロンドに続いて三回目の試練となる。魔導書の試練など経験することが多いわけでもないので、わずかながらだが顔もこわばっていた。


「おやまあ、これはまた若い子が来たのねえ」


 赤い髪の少女は、しなを作って歩み寄る。


「お前が魔導書か」

「それ以外ないでしょお?  私の名はレインノーティス、レインと気安く呼んでもらえるとありがたいねえ」

「わかった。早速試練を頼む。ここでまごまごやってるつもりもないからな」

「そんなに慌てなくてもいいでしょお? まあまあ、少しだけ話しをしましょおよ」


 少女は口元に手を当てて「うふふ」と笑った。その小さな体からは想像できないほどに妖艶で、そのギャップに頭がついていかなかった。露出が少ない服を着ているところからも、そのギャップが顔を出していた。


「話すことなんてない」

「あるよお? ここに入って来れたってことは、あなたには資格があるということでしょお。あなたはその自覚があったのお?」


 一つため息をつき「ない」と答えた。


「そうなのお? じゃあどうしてここに?」

「俺をここに入れたやつがな、それを知ってて懐柔したらしい」

「じゃあ自分の出生もわからないわけねえ」

「それがどうした。そんなもの、知らなくても大魔導書とは契約できるだろ」

「それでも知りたいとは思わない?」

「思わない。どうでもいい。自分の出生には興味がない。今、ここにある現実だけがすべてだ」

「あらあら、面白くないことを言うのねえ。それならそれでいいかなあ。私も面倒がなくて住むし」


 彼女は肩にかかった髪の毛を払い、両手を打ち鳴らした。


 次の瞬間、二人の間にテーブルが現れた。地面からせり上がるようにして一瞬で現れたテーブルには、なにやら縦横に線が引かれていた。線は縦に六本、横に六本、マス目のようなものが25個あった。向こう側とこちら側のマス目には、黒い駒のようなものが五個ずつ並んでいた。右から番号が12345と振られている。


「今回の試練はライトアンドハンド、になるねえ」

「ルール説明をしてくれ」

「説明なんてあんまりないんだけどねえ」


 レインが駒の一つに右手で触る。すると黒かった駒が白くなった。


「簡単に言えば、この5つの駒を使って相手の5つの駒を取り合うゲームねえ。なぜならば1つ同士だと追いかけっ子になっちゃうからねえ。黒いときは死んでいるとき、白いときは生きているとき。でも生き返らせることができるのは一つだけ、動かしたあとは必ず駒は死ぬ。1ターンで動かせる駒は3つまで。一つの駒が一回のうちに動けるのは一度だけだよ」

「生き返らせることができる最大も1ターンにつき3つってことか。で、動かさなくなった時点で死ぬと」

「そういうこと。でもそれだけじゃないのねえ。死んでいるときは地中にいる。つまり相手には見えない。生きているときだけ盤上に現れるという仕組み」


 もう一度手を鳴らすと、目の前に小さな薄い板が現れた。ここに25マスが描かれていた。


「なるほどな。駒はこっちの板で動かせってことか」

「そういうこと。でも気をつけて欲しいのは、生きているときにしか相手の駒を奪えないということ。でもターン終了時には必ず駒は死ぬから相手の駒は見えない」

「相手の駒の位置を覚えつつ、死んでいる駒の位置を予想して動かすのか。でも動かすときは必ず生き返らせるわけだから、駒の位置を予想する必要はないんじゃないか?」

「右手で動かせば生き返らせて移動させられる。左手で動かせば死んだまま移動させられる。腕の動きでバレないようにしないと勝負にならないのねえ。でも気をつけて欲しいんだけど、死んだまま動かせる駒は1ターンに1つだけだよ」

「なかなか面倒な試練だな」

「頭を使うだけじゃ勝てないねえ。想像力を働かせて、相手の動きに誤魔化されないという心の強さが必要になる」


 レインがニコリと微笑んだ。


「準備は、できたかい?」


 正直を言えば準備をする時間などなかった。なによりもこの試練に挑むだけの気概がない。どうして自分がここにいるのか、なぜこんなことをしなければいけないのかすらわかっていないのだ。


 世界を救いたいなど思ったことはない。自分にしかできないことならばやるが、それも自分から進んで行動するわけではない。なによりもこの試練に合格したからといって世界を救えるわけではないのだ。逆に、魔女スリエルに加担することになる。


 今でもまだ、誰の味方をしていいのか、誰の味方であるべきなのかはわからなかった。


 大きく両手を上げ、思い切り頬を叩いた。


「ああ、やろう」

「驚いた。そんなこと、する人には見えなかったけどねえ」


 目を大きく開き、口を小さく開けてレインが言った。


「前に進まなきゃ、いい方にも悪い方にも転がらないからな。なら動き出すしかないだろう」

「いいねえ、そういうの。それじゃあ試練を始めようか。先攻と後攻、どっちがいい?」

「先攻だ」

「後攻が有利かもしれないのに?」

「そんなこと言っていても始まらない。だってわからないんだ。それなら先にやらせてもらう」

「予想よりも遥かに面白いひとねえ。いいよ、先攻どうぞ」


 深呼吸を一つ。ゆっくりとまばたきをし、板へと手を伸ばした。

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