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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と壊れた軍師》
118/225

四話

 剣は身体に這わせるように構え、よりコンパクトに奇襲する。心の中で「三、二、一」と数えてから飛び出した。


 しかし、ウィロウの考えとは逆に人影の動きが止まってしまった。これでは奇襲するには距離が足りない。足りないけれど、飛び出してしまった以上は行動に移さなければ殺される。


「待ってください」


 予想に反し、目の前の人影はそう言った。そしてウィロウは足を止めてしまった。


「大丈夫ですよ。私は貴方を助けに来たんです」


 眼の前の男が柔らかく微笑んだ。その微笑みに、なぜかウィロウは剣を下ろした。自分でもよくわからなかった。それでも彼が言うことは正しいと、なんとなくそう思ったのだ。


「アンタは?」

「私の名前はヴォルフ=レギュール。すぐに私の仲間がここを制圧するでしょう。貴方はここに隠れているといい」


 そう言って、ヴォルフが背を向けた。ここで背を向けるということの意味をわかっているのかと、ウィロウが再び剣を構える。


「大丈夫。私は味方ですよ」


 その言葉に、その眼差しに、一歩踏み出すことができなくなっていた。


 結局ヴォルフ率いる聖十字騎士団が古城を占拠し、盗賊団を根絶やしにした。ウィロウはなにもできなかったが、放心するウィロウの元へとヴォルフがやってきてこう言った。


「どうですか。貴方も聖十字騎士団に入ってはもらえませんか?」と。


 それから二人の関係は始まった。この男といればなにか、自分に足りないものを補えるのではないかと考えた。


 最初はそう考えていたが、次第にヴォルフという男に魅入られることになる。カリスマ性があり、倫理を説き、人を従える姿が絵本に出てくるような英雄に見えたのだ。いつか彼のようになれるだろうか。自分にもあんな振る舞いができるだろうか。そうやって夢を見ながら、ウィロウは聖十字騎士団として剣を振るった。


 しかし、ウィロウが目指した英雄はもういない。目指す場所などどこにもない。オクトリアの式守になったのも彼女に誘われたからに過ぎなかった。自分の意思だけで式守になったわけではない。必要としてくれる場所があるから、それを用意してもらったから身を置いているだけにすぎないのだ。


「そろそろ一時間か」


 小さなバックパックを背負い直した。それと同時にカレットとシュリアが帰ってきた。二人が時間どおりに行動できるよう、同じ腕時計をあげたのはウィロウだった。最初は時間遵守のためのものであったが、二人がやけに大事にするのでもう少し高価なものにすればよかったかと今は少し後悔している。


「どうだった。他に入れそうなところはあるか」

「私の方は無理でした。警備も強固ですし」

「こっちは一箇所だけ、やけに警備が薄いところがあったよ。入るならそこしかないけど、警備の薄さが気になるんだよね」


 カレットが言うことも一理ある。これだけ強固な造りをしながら、わざわざ警備が薄い場所を作る。罠以外のなにものでもないことくらいはわかる。


「他に入れる場所がないのなら行くしかないだろうな」


 違う場所から入ろうとすれば、それこそ中に入る前に門前払いを食らう。それならば中に入ってしまって好き勝手した方がいい。


「逃げ道を作るつもりはない。それでも行くか?」

「おう! それしかないからね!」

「援護は任せてください。私たちはウィロウと一緒ですよ」


 二人に迷いはなかった。いつもどおりにウィロウを支持する。彼女たちに助けられたことも多く、ウィロウもまた彼女たちを信頼している。


 カレットを先頭にして警備が薄い場所へ。他の入り口は警備が五人から十人いるというのに、ここだけは二人とやけに少ない。


 指示を出すと、二人は迂回して警備の二人を気絶させた。それを見てウィロウも入り口へを向かった。警備兵から鍵を奪って中に入る。入ってすぐに左右に道が分かれていた。外壁から敵が侵入してもいいように、内部は入り組んでいるに違いない。


 だが戦力を分散するわけにもいかなかった。三人という少ない人数で任務をこなすためにはお互いを守り合う必要があるのだ。


「シュリア、頼む」

「ええ、わかりました」


 シュリアは光属性の魔導書。武器は鎌である。


 彼女が呪文を唱えると、目の前が一瞬だけホワイトアウトした。


「これで普通の兵士に見つかることはないでしょう。ただし、それなりの魔術師ならば見抜かれてしまいます」


 ミラージュコート。光の屈折率を変えて姿を隠す魔導術だった。この魔導術に助けられたことは一度や二度ではない。潜入に暗殺にと活用方法は多岐にわたる。

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